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73 天狗の高下駄
その昔。
里の近くにある高い山のてっぺんに、天狗の父と年頃の娘が住んでおりました。
ある日。
父が娘を座らせて言いました。
「おまえの嫁入りがついに決まったぞ」
嫁ぎ先はふもとの村だといいます。
その後。
娘は村の若者と祝言をあげ、その日から若者の村で暮らすことになりました。
父と娘はついにお別れです。
父の天狗は山へ帰るとき、婿となった若者に高下駄を渡して、こっそり言いました。
「娘が気に入らぬようになったときは、娘にこの高下駄をはかせてくだされ。それで娘は、ひとっ飛びで山に帰ってこれますのでな。ただし使うも使わぬも、それはすべて婿殿しだいでござる」
若者は高下駄を見て思いました。
――げたをあずけられたな。