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72 名医玄黒
ここは江戸から遠く離れた小さな藩。
そこには名医と名高い、杉田玄黒という名の藩医がおりました。
玄黒は幼少の頃から賢く、若くして長崎で蘭学の医術を学んできた男で、医師となって藩に帰るとすぐに藩医に取り立てられました。
ある日。
筆頭家老が城内で倒れました。
家老はこのときすでに意識はなく、ただちに玄黒が城に呼び出されました。
そこへ家老の妻もあわてて駆けつけてきました。
「玄黒先生、主人の容態は?」
「かなり危険な状態です」
玄黒は家老の脈を取りながら、今夜が山であることを伝えました。
その夜。
玄黒の診たてのとおり、家老は残念ながら帰らぬ人となりました。
妻が玄黒に問います。
「主人はなにが原因で?」
「過労です」