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71 もったいない
通夜のあと。
仏間に寝かせられた男の遺体のそばで、死んだ男の妻と息子が話している。
「お父さん、ほんとケチだったね。もったいないが口癖で、オレ、トイレの電気を消し忘れて、いつも叱られてたよ」
「ほんと、そうだったわね」
「定年まで働いて、いきなりぽっくり逝ってしまうんだもの。何であんなにケチケチして、お金をためたのかわからないんだから」
「そんなこと言うもんじゃないわ。それでお父さん、生活に困らないだけのお金を残してくれたんだから」
「そうだね。そのお金、お母さんが好きに使えるし」
「まあね」
その夜。
男は目を開けてガバッと起き上った。
それから立ち上がって、誰もいない部屋の電気を消した。
「もったいない」




