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65 迷い人
この日。
街中はコロナ禍のせいで人通りも少なく、ずいぶんひっそりとしていた。
「あのー、すみません」
声をかけられて振り向くと、背後に七十歳ぐらいの老人が立っていた。
老人が周囲を見まわして問うてくる。
「私はどちちらの方向に行けばよいのでしょうか?」
「どちちらの方向って、これからどちらへ?」
「それがわからんのです」
「行き先がわからなければ、どうにもお答えのしようが……」
と、そのときだった。
「いたぞ!」
向こうで声がして、数人の屈強な男があわてたようすで駆けつけてくる。
「道に迷うのは毎度のことでね」
マスクをはずした老人の顔に、なぜかスガスガしい表情が浮かんでいる。
男の一人が老人に声をかけた。
「総理!」




