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5 狼男
満月の夜。
男は屋敷を出ると、いつものようにいつもの丘に向かいました。
丘の頂上へと歩き進みます。
道すがら……。
天空の月が煌々と大地を照らしていました。
「今夜は最高の月だな」
男は歩きながら満月を見上げます。
この男。
満月にひと鳴き吠えれば、だれもが恐れる狼に姿を変えられる狼男でした。
男は丘のてっべんまでやってきました。
夜空を見上げ、満月に向かって両手を大きく広げます。
ですがこのとき、おりしも運悪く、流れてきた黒い雲が満月をおおい隠してしまいました。
「おー、なんてことだ!」
それからいくら待てども、満月は雲間からいっこうに現れませんでした。
男は暗い夜空を見上げてぼやきました。
「今夜はツキがねえな」