34/103
34 狸の駕籠かき
ある商家の主人で嘉三郎という男がおりました。
この日。
嘉三郎は山一つ向こうの町からの帰り、山の中腹まで来たところで足をくじいてしまいました。
――少し休めば痛みは引くだろう。
そう思って道端に座って休んでいると、そこに運よく駕籠かきが通りかかりました。
嘉三郎はその駕籠に乗りました。
このあと。
「旦那様!」
店の手代の呼ぶ声で、嘉三郎は目をさましました。
手代は主人の帰りが遅いので迎えに来たのだといいます。
このとき嘉三郎は道端で寝ており、あたりはすっかり暗くなっていました。
「ワシは駕籠に乗ったのだが……」
「それは化け狸の駕籠かきだったんです」
「狸だと?」
「はい、狸にかつがれたんですよ」