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30 すき焼き
ある子だくさんの貧しい一家がありました。
今夜は久々にすき焼きです。
ひとつの鍋をみんなでかこみ、子供たちは先ほどからワーワーと大はしゃぎです。
「それ、ボクの肉だよ!」
「ううん、あたしのお肉よー」
「いや、おれの肉だ!」
腕を伸ばし、箸を伸ばし、みなが我先にと少ない肉を奪い合っています。
それを見て、お父さんはとても満足そうでした。
「ひさしぶりの牛肉だ。みんな、もっとゆっくり味わって食うんだぞ」
「ちがうのよ、お父ちゃん」
お母さんがそばで、なんとも申し訳なさそうな顔をしました。
「何がちがうんだ?」
「牛は高いんでブタにしたんだよ」
「へー、そうだったのかい。そいつはトンとわからなかったぜ」