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27 蕎麦屋
一軒の蕎麦屋がありました。
昼飯どきを過ぎた頃。
その蕎麦屋の暖簾を。一人の浪人がくぐりました。
店の中には一人の客もいませんでした。
浪人が蕎麦を注文します。
半刻後。
「おい、おやじ!」
蕎麦を食べていた浪人が主人を呼んで、丼ぶりの中を指さしました。
黒いハエが汁に浮いています。
「おい、この店は虫を食わせてお代を取ろうというのか?」
浪人が主人に詰め寄りました。
「めっ、めっそうもありません」
「代金をとらねばこのまま見逃してやる。イヤなら、これから手討ちにいたすまでだ」
はなからこの浪人、なんくせをつけてタダ食いをするつもりだったようです。
主人が言います。
「うちの蕎麦は前から手打ちでして」