9.八つの星【オクタグラム】
クエストを終えた俺たちは、山岳エリアを抜け帰路につく。
隠しておいた馬車に乗り、リガルドの運転で街まで戻った。
馬車を門横の貸し出し所に返したら、徒歩で組合所まで行く。
街の中を歩いていると、周囲からの視線を感じるのは変わらない。
ただし、向けられる視線の種類は、少し変化していた。
「あっ、ジークさん! お帰りなさいませ」
組合所に入って、最初に声をかけてくれたのは受付嬢のリーナだ。
彼女は冒険者登録の時に対応してくれた人で、あの後も何度か関わることが増えた。
「確認お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
俺はカウンターに採取した素材と、モンスターからドロップした結晶を提示した。
討伐したモンスターが結晶を落とすのは、現代でも変わっていない。
モンスターによって形や大きさが異なるから、討伐クエストの確認に利用されている。
それ以外にも、魔道具の動力源になる便利な素材だ。
「確認が出来ました。では、こちらが今回の報酬になります」
「ありがとうございます」
高ランクのクエストになると、一回で数万トロンも貰えるから楽で良い。
報酬を確認していると、小さくぼそぼそ話声が聞こえてくる。
「おいあれって」
「ああ……」
俺たちのことを話している。
いつものことだし、最初から変わっていない。
ただし、街中でもそうだったが、話の内容に変化が表れていた。
「あの集団がどうかしたのか?」
「は? お前【八つの星】を知らねーのかよ!」
「オクタグラム? 何だそれ」
男は大きくため息をこぼす。
「オクタグラム……登録してからたった一か月半で、メンバー全員がシルバーランク以上になった超新星ギルドだ」
「一か月半で? そんなのありえるのか?」
「実際にありえたんだよ。リーダーの男に至っては、一か月でゴールドになった化け物だ」
「やばいな……それ」
話を聞いた男は驚愕し、俺たちを見つめながらごくりと息をのむ。
今の会話でわかるように、俺たちへ向けられているのは畏敬の視線に変化していた。
約一か月前のこと。
俺たちはギルドを立ち上げた。
ギルドと言うのは、冒険者だけで組織された集団のことで、派閥みたいなものだ。
名前は【八つの星】。
登録直後から数々のクエストをこなし、怒涛の勢いでランクを上げていった。
現在では、俺とグレン、リガルドとユミルがゴールドランクとなり、他のメンバーもシルバーランクになっている。
そんな感じで活動を続けていた結果、知らぬ間に俺たちの噂が広まっていって……
「また見られてるよ~」
「無視しとけ」
「嫌ならワシが壁になろう」
「やったー! シトナちゃんもこっちおいでよ」
「お兄ちゃんと手繋ぐから平気」
「はっ! その手があった!」
前とは別の意味で、注目されるようになっていた。
馬鹿にされているわけではないので、俺としては気にならないのだけど。
彼女たちには視線が気になるらしい。
報奨金の確認を終え、俺は早々に立ち去ることにした。
「じゃあ、また明日」
「はい! お待ちしております」
リーナにあいさつをして組合所を後にする。
向かった先は以前の宿屋ではなく、住宅街の一軒家。
二階建ての木造建築には、【八つの星】と書かれた表札が飾られている。
「たっだいま~」
「あら、お帰りなさい」
扉を開けて最初に出迎えてくれたのは、エプロン姿のミアリスだった。
その後に続いて、アカツキとクロエが顔を出す。
今日は彼女たちが留守番組で、夕食の支度を整えてくれていた。
「お帰りなさいませ、ジーク様」
「ただいま」
ミアリスとアカツキも、こちらに来て服装が変わっている。
クロエだけは、屋敷と同じメイド服のままだ。
別に変えても良いと言ったんだが、こっちのほうが慣れているからと譲らなかった。
彼女なりのこだわりがあるのだと思い、それ以上は言っていない。
ちなみにこの家は、活動拠点として最近購入したばかりだ。
少し前まで宿屋で暮らしていたけど、色々と面倒だったからな。
クエストを受けてお金も溜まったし、思い切って二階建てのホームを購入した。
屋敷に比べれば一回り以上小さい。
それでも、八人で暮らすには丁度いい広さだ。
「夕食の準備はもう少しかかります。先にシャワーを済ませてきてください」
「わかった」
「わーい! あたしが一番ノリ~」
「それは駄目だユミル殿。主殿が先だ」
「いいよリガルド。女性が先で良い」
「やったー! ジーク様大好きー!」
調子のいいことを口にして、ユミルはシャワー室へ駆けていく。
やれやれと呟いて、順番に済ませたら、全員で一つのテーブルを囲んで食事だ。
屋敷よりもテーブルは小さい。
その分、互いの顔が近くて話しやすい。
こういう所は、狭いほうが俺は好きだな。
「ジーク様」
「ん? どうしたクロエ」
「街で聞いた話なのですが、何やら『魔王』が新たに誕生したそうです」
「魔王が? どこで?」
「ここよりずっと西、王国を超えたさらに先だと聞きました。定かではありませんが、モンスターを引き連れて侵攻を開始しているとも」
「へぇ~ それはまた一大事だな」
魔王と聞くと、千年前に戦った相手を思い出す。
あれは確かに強敵だったな。
同じレベルの相手なら、王国も危ないかもしれない。
「もしかすると、我々にも戦闘要請が来るかもしれません」
「そうだな。まっ、その時になったら考えよう」
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