表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/25

7.ちょっと本気を出せば

「さっそく行こうか」

「よろしいのですか? 特に準備も出来ていませんが」

「心配いらない。戦闘は俺一人で良い。身体がだいぶなまっているし、ここら辺で一度調整しておきたい」

「……わかりました」


 クロエは納得して頷く。

 ただし、彼女以外はそうではなく、ユミルが目を丸くして言う。


「えぇ!? いいのクロエちゃん!」

「ジーク様がそうおっしゃったのだから、私たちは従うだけ。それにジーク様は、自分に出来ないことは言わない」

「そ、そうだけどさ~」

「まぁ心配いらないから、お前たちは見ていてくれ」


 楽観的な話し方で場を濁し、納得しないまま手続きを進める。

 ここで俺が剣帝だったことを話せば、彼女たちも安心してくれるのだろうか。

 いいや、急にそんな話をしたところで、全てを信じるなんて難しい。

 だったら直接見てもらって、俺の強さに安心してもらおう。


 手続きを済ませ、森林エリアへ向かう。

 アクトスの街には東西南北の一つずつ出入り口用の門がある。

 それぞれの門から各エリアに行くことが出来て、今から向かう森林エリアは西門を出てすぐだ。


 八人でゾロゾロ歩きながら西門を潜る。

 森へ入る直前に、俺は立ち止まって言う。


「別に全員で来なくても良かったんだけどな」

「留守番なんて嫌だよ!」

「お兄ちゃんと一緒が良いから」


 やれやれ。

 まぁ別に問題はない。

 それに採取クエストもあったし、人手は多いほうが楽だ。


「俺から離れないようにしてくれ」


 そうして、俺たちは森へと足を踏み入れる。

 受付嬢の話では、森には各所に目印が設置されていて、迷わないような工夫がされているとか。

 初めて入る森だったが、その目印と貰った地図のお陰で、迷わずに進めそうだ。


「ジーク!」

「ああ、全員止まれ」


 森を探索中、先に気付いたのはグレンだった。

 俺の指示に従い、全員がピタリと立ち止まる。

 背の高い草が生えた場所が、不自然に揺れていた。

 じっと目を凝らすと、そこから現れた人ではない影の形に、ごくりと息をのむ。


「ゴブリンの群れ……しかもウルフを飼いならしているのか」


 丁度いい。

 クエストにはゴブリン討伐と、ウルフ討伐が別々である。

 一度に戦えるのはラッキーだ。


「じゃあ皆、そこで見ていてくれ」


 そう言って俺は無造作に前へ出る。

 心配そうに見つめる視線が、背中からでもわかる。

 ユミルが声をかけようとした時――


「心配しなくても大丈夫だぞ」


 と言ったのはグレンだった。

 彼は続けて言う。


「そういえば、お前たちはジークが戦う所を見るのは初めてなんだよな」

「え、うん」

「だったら目を離さないほうがいいぞ? たぶん、一瞬で終わるから」


 グレンはニヤリと笑う。

 今の会話でわかると思うが、彼は俺の剣技を知っている。

 と言うのも、初めて会った時にひと悶着合って、剣を交えたことがあるんだ。

 アカツキとクロエも一緒に見ていたかな。

 だから三人だけは、他の皆よりも落ち着いている。


 さて、期待も高まったところで、そろそろ頑張りますか。

 

 ゴブリンとウルフの群れは、ジリジリと距離を詰めている。

 間合いを図りながら、襲い掛かるタイミングを計っているようだ。

 俺は丸腰のまま、何の躊躇くなく進む。

 警戒していたゴブリンたちだったが、二十メートルを超えた辺りで武器を振りかざし、俺へ飛び掛かって来た。


「ふっ――遅いな」


 声をあげようとするユミルたち。

 刹那。

 彼女たちの視界から、俺の姿が消えてしまう。

 次に見つけた時、俺は右手に剣を握り、襲い掛かって来た群れの後方へ移動していた。


 血しぶきが舞う。

 空中で斬られ、バタバタと倒れ落ちていく。

 その光景を目の当たりにして、ユミルたちは固まっていた。


「ふぅ、ちょっと動きが鈍いな」


 剣がわずかに重く感じる。

 これまでダラケテいたから、身体が出来上がっていないのだろう。

 以前の調子を取り戻すために、しばらくリハビリが必要だと感じだ。

 とはいっても、この程度の相手と戦うなら何の問題もない。

 俺は剣帝として記憶だけではなく、当時の力をそのまま受け継いでいる。

 そのうちの一つが、この剣を生み出した。

 

 【剣の加護】。

 魔力を消費することで剣を生成することが出来る。

 形や大きさは自由に変えられて、切れ味は込めた魔力量に比例して高くなる。


「ほらな?」

「凄い……」

「お兄ちゃん……格好良い」

「はははっ、だよな。オレだってそう思う」


 振り返ると、皆と目が合った。

 彼女たちの目から、心配や不安が薄れていくことを感じる。

 これで少しは、安心してもらえたかな?

 

 今までグータラ好き放題に生きてきた。

 望んでしてきたことだし、これからだって諦めたつもりはない。

 だけど、自由に生きた行くためには、必要なものが山ほどあるんだ。

 それを手に入れるまで、不本意ながら頑張るとしよう。

 こうして、俺たちの新しい日常が始まった。


 二か月後――

 

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ