5.こっち見てんじゃねーよ
冒険者の街アクトス。
王都から荷物いっぱいの馬車を走らせ、三日後の昼に到着した。
道中は危険に見舞われることもなく、無事にここまでたどり着けたのは僥倖と言える。
到着してすぐ、俺たちは宿を探した。
何せ人数が多い。
狭い部屋も、別々の宿になるのも困る。
四苦八苦しながら探し回って、部屋は別々だけど同じ宿を取ることは出来た。
その翌日。
俺たちは冒険者組合と呼ばれる建物へと足を運んだ。
冒険者組合は、冒険者がクエストを受注したり、情報を交換したりする場所だ。
新しく冒険者になるためには、組合で登録をしなくてはならない。
「わざわざ登録しないと駄目なんて面倒くさいね~」
「ユミル、口じゃなくて足を動かして」
「は~い」
腕をブラブラと大きく振って歩くユミル。
それを見てため息をつくクロエ。
屋敷でもよく見かける光景で、格好もメイド服のままだ。
他の皆も同じで、屋敷と同じ服装を着ている。
俺も貴族っぽい服のままだから、街中を歩いているとかなり目立つ。
「……いや、目立つのは別の理由か」
「どうかされましたか?」
「何でもないよ」
この様子だと、気づいているのは俺だけか。
すれ違う人たちが、チラチラと視線を向けて話している。
確かに珍しいだろうな。
しばらく歩き、大通りに出る。
そこから道なりに進めば、横長の木造建築が見えてくる。
看板にはデカデカと『冒険者組合』と書かれていた。
「ここですね」
「ああ、入ろうか」
俺を先頭にして、冒険者組合へと足を踏み入れる。
扉を開けるとベルが鳴り、誰かが入ってきたことを伝える。
中にいた人たちの視線が、一斉にこちらへ向く。
入ってすぐ目の前に、受付カウンターと書かれた窓口があった。
俺たちは視線を感じながら、受付へと近づく。
「冒険者組合にようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、冒険者登録をしたいんですけど」
「登録ですね。失礼ですが、手数料が500トロンかかりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。今回ご登録されるのは何名様でしょう?」
「え~ 八人ですね」
俺を含めた全員だ。
一応登録だけしておいて、実際に誰がクエストを受けるかは後で決める。
少なくとも今は、アカツキとシトナを戦わせるつもりはない。
「かしこまりました。では、こちらにお名前を記入してください」
渡された名簿に、全員分の名前を書いていく。
それをざっと確認して、受付嬢が言う。
「ありがとうござうます。ジョブ認定の準備をして参りますので、少々お待ちください」
それをざっと確認して、受付嬢は奥へ消えていった。
ユミルが俺に尋ねてくる。
「ねぇジーク様! ジョブ認定って何?」
「ん? ああ、そのままの意味だよ。剣士とか魔法使いってあるだろ? それを組合ではジョブって呼んでいて、何が合っているのか調べてくれるんだと」
「へぇ~ そんなのあるんだねぇ~」
俺もここへ来る前に調べて知ったことだ。
まぁ認定と言っても、特別な力を与えてくれるわけではないらしい。
特殊な装置を使って、個人のデータを集計し、その人にあったジョブが何なのかがわかる。
聞いた話だと、本人すら気づいていない才能も浮き彫りにされるとか。
俺はたぶん剣士だと思うけど、他の皆が何になるのか、ちょっと楽しみではある。
いや、今はそれよりも……
「なぁおい、あれ見ろよ。すげー集まりだな」
「ああ、笑えるな~ どっかの貴族のぼんぼんかぁ?」
「亜人なんて連れてるぜ。ここを奴隷商会か何かと間違えてんじゃねーの?」
「かもしれねーなぁ~」
最初から気付いていた視線に、コソコソと声も聞こえてくる。
街で感じていたものと同じだ。
千年前と違って、現代での亜人種の立場は非常に弱い。
数が減り、これまでの戦争で人類に負けた経緯から、家畜と同じ扱いをされることもある。
彼らにとって、亜人を連れているということは、奴隷かペットを連れているようにしか見えないんだ。
「おっ! 亜人じゃない女もいるじゃねーか」
「ホントだ。中々良い女だな~」
「メイド服着てるぜぇ。金払ったら俺たちにもわけてくれたり?」
「あるかもな! ちょっくら頼んでみるかぁ?」
ゲラゲラと笑い声が聞こえる。
街中では気付かなかった彼女たちにも、下衆な声は聞こえてしまっていた。
チラッと表情を見て、落ち込んでいるのがわかる。
「よっしゃ! 俺が聞いてきてやるよ!」
「おおーいいね! 頼んだぜ」
ああ、腹が立つ。
こんなにも腹が立ったのは、二度目の生では初めてかもしれない。
良くないな、とても良くないぞ。
話していた男の一人が、こちらに向かって歩いてくる。
声をかけようと手を振りながら、ニヤニヤした顔で近づいてくる。
やめてくれ。
そんな顔をされたら――
「なぁあんた! ちょっ――っ!?」
勢い余って、殺してしまいたくなる。
その場にいた全員が、背筋が凍る感覚を味わった。
蛇に睨まれたカエルのように、ピタリと固まって動かない。
俺の発する殺気が、それほどまでに強力だったから。
「何か……用か?」
「なっ、なな、なんでもない」
男は震えながら答えた。
そのまま逃げるように組合を出ていく。
他の話していた男たちも、後に続くように出ていった。
関係ない冒険者も、次々に席を立つ。
別窓口の受付嬢たちを除き、気づけば組合の中には、俺たち以外の姿がなくなっていた。
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