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4.そうだ冒険者になろう

「――と言うわけで、エイルワース家との縁は切れた」


 屋敷に戻った俺は、父上との話を簡単に説明した。

 重要な内容を普段通りの口調で話した所為か、全員が呆気にとられている。

 俺は続けて説明する。


「俺個人が持つ財産はそのままだけど、エイルワース家の持ち物は返却しないといけない。この屋敷も、今日明日までに引き払うことになった」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 そう言ったのはユミルだった。

 彼女は俺を心配そうに見つめている。


「だ、大丈夫なの? ジーク様、家を追い出されちゃったんだよ!」

「ああ、そうだな」

「それにしては随分と落ち着いているな」

「グレン。まぁ何となく、いつかこうなるんじゃないかって予想していたからね」


 俺がそう言うと、グレンはやれやれというジェスチャーを見せる。

 彼も中々に落ち着いている。

 他の皆は、まだ状況をのみ込めていないって感じか。


「ねぇクロエちゃん!」

「何?」

「クロエちゃんはこれで良かったの?」

「良いも何も、ジーク様が納得しているなら、私もそれで構わない。私はジーク様のメイドだから」


 クロエはハッキリと言い切った。

 彼女には、父上の話の直後に説明してある。

 さすがに聞いた瞬間は驚いたような反応を見せたけど、すぐに納得してくれた。

 彼女もまた、俺と同じような予感をもっていたのか。


「まぁともかく、俺が貴族ではなくなるのは事実だ。そこで、皆には選んでほしい」

「選ぶ?」

「何をでしょうか?」


 リガルドとミアリスが反応して答えた。

 俺は全員の顔を順番に見ながら、彼らに問いかける。


「この先、皆がどうしたいのか。自分の意思で決めてほしい」


 皆には選択する権利がある。

 貴族でなくなった俺に、これまで通り付き従う義務はない。

 俺の元を離れ、自分で生きていきたいというならば、それなりの支援をしよう。

 幸いなことに、一般人よりもお金はあるほうだからな。

 もちろん、俺の元に残るという選択もあるし、それも喜んで受け入れる。


 俺はしばらく、彼らの回答を待とうと思った。

 ただ、思ったよりも早く返って来た。


「そんなの決まってるだろ?」


 最初に口を開いたのはグレンだった。

 彼女の妹のアカツキも、彼が言ったことに合わせて頷く。

 続けてユミル、リガルド、ミアリスが順番に話す。


「あたしもジーク様についていくよ。みんなと一緒に!」

「主殿から離れるなど、選択肢にはありません」

「そうですね。私たちは、これからもジーク様にお仕えします」


 彼女たちの答えを聞いた後、俺はシトナに目を向ける。


「シトナは?」

「私もお兄ちゃんと一緒にいる。お兄ちゃんがどこかに行くなら、私もついていく。お兄ちゃんの傍だけが……私の居場所だから」

「そうか」


 全員の意見が出そろった。

 満場一致、揺るぎなくまっすぐに、彼らは答えてくれた。

 実はこの話をする少し前、俺はクロエに尋ねた。


「皆は……どうするだろうか」


 ぼそりと出た疑問に、クロエは悩むことなく答えた。


「きっと、私と同じだと思いますよ」


 その時のことを思い出す。

 確かに、彼女の言ったとおりだったよ。


「ありがとう。皆」


 変わらぬ忠義を嬉しく思う。

 俺は心からの感謝を言葉にして、胸のうちで決意する。

 この先何が起ころうと、彼らが幸せであれる道を進もう。

 いつかの日に、この選択は正しかったのだと思えるように。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日の昼下がり。

 昨日から通して、屋敷の片づけと荷造りを行った。

 それほど大きな屋敷ではなかったこともあり、思ったより早く片付いた。

 自分たちの荷物も、馬車二台分でまとめられそうだ。


 作業も終わりに差し掛かり、クロエが俺に尋ねてくる。


「当てはあるのですか?」

「ん?」

「ここを出た後です。まさか何も考えていないわけではありませんよね?」

「当然。プランはあるよ」


 さすがにノープランではいられない。

 俺一人ならともかく、皆の生活もかかっているわけだからな。


「ここから東へ向かった所に、アクトスっていう街がある。そこがなんて呼ばれているか知っているか?」

「アクトスですか? 確か……冒険者の街と」


 クロエはハッとした表情を見せる。

 どうやら、彼女は理解したようだ。


「そう、冒険者になろうと思う」


 冒険者。

 ギルドという組織に属する者をそう呼ぶ。

 彼らは魔物討伐を代表とする数々のクエストを請け負い、その報酬で生計を立てている。

 なるのは簡単で、ギルドに申請を出せばいいだけだ。


「なるほど……思い切りましたね」

「いや、そうでもない」


 ある意味、元の鞘に収まったともいえる。

 何を隠そう俺は、かつて剣帝と呼ばれていた男だからな。

 これまで好き勝手やってきて、働くのも嫌だからテキトーにしか生きてこなかったけど……


「そろそろ俺も、本気を出そうと思う」


 楽しく自由に生きていく。

 そのためにも、俺は俺らしさを全面に出していこう。

 

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