表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~  作者: 日之影ソラ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/25

20.ちびっこ魔王が加わりました

 魔王との激戦から一夜明け、王都では人々が集まっていた。

 見上げる先は王城の一角。

 そこに立つ国王が、王都全域に響くように声を通す。


「ここに告げる! 忌まわしき魔王は討伐された! 勇者ミゲルの聖剣によって討ち滅ぼされたのだ!」


 国王は堂々たる宣言を口にした。

 彼の声は魔道具の力で応答全域に響いている。

 王都で暮らす人々が、彼の言葉に耳を傾けている。


「もう怯える必要はない! 我々は勝利したのだ!」


 一呼吸おいて、歓声が沸き上がる。

 国中から聞こえる声が、王城の中にまで響いている。

 賞賛の声ばかりだ。

 それらは全て、一人の英雄に向けられている。


「勇者様ばんざーい!」

「ミゲル様ー!」


 彼らが称える男は姿を見せない。

 魔王との戦いで命を落としたから……というわけではなく、単に治療中で動けないだけだ。

 歓声は王城内の医務室まで届いていて、彼の眠りを妨げていた。


「ぅ……ジークぅ、よくも……」


 魔王にこっぴどくやられたミゲルだが、寝言でうなされる程度には元気らしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一週間後。

 アクトスの街は平常運転。

 冒険者たちはクエストに出ていく。

 その道中に、王国から流れてきたチラシが落ちていた。


「よろしかったのですか?」

「何がだ?」


 部屋で書類と向き合っている俺に、クロエが紅茶を持ってきた。

 カップを机に置くと、続けて彼女は言う。


「魔王討伐の実績です。本当はジーク様が」

「別にいいよ。知名度は十分、これ以上目立っても困るだけだ。それに……」


 ドンドンドンドン――

 廊下を走る音が聞こえて、俺たちは扉へと視線を向ける。

 俺もクロエも、誰が来たのか予想はついている。


「ジークー!」

「ルーリア……」

「はぁ、またですか」


 ルーリアが、元気よく扉を開けて入って来た。

 どうしてこの家にいるのかは、今さら説明もいらないだろう。

 子供とは言え、彼女は魔王を名乗って国を襲ったんだ。

 その張本人をかくまっておいて、自分が倒しましたなんて嘘もつきたくない。

 幸いなことに、彼女の正体を見て知っているのは、この家にいる人数だけだ。


「遊ぶのじゃ!」

「ジーク様はお忙しいので、また後で来てください」

「むぅ、さっきも聞いたのじゃ」

「さっきも言いましたから」


 ちょうど十分前にも同じことがあったばかりだ。

 十分はさすがに早すぎるだろ。


「悪いなルーリア、まだ書類仕事が終わってないんだよ」

「そうなのか……なら妾も手伝おう!」

「いや、それは良い」

「なぜじゃ!」


 前に手伝ってもらったら、めちゃくちゃにされて仕事が増えたから。

 と言いたいけど、言ったら拗ねそうだからどうしようか。

 回答に悩んでいる俺を見て、クロエが代わりに答える。


「私が手伝っているので大丈夫です」

「妾のほうが役に立つのじゃ!」

「それはあり得ないのでお引き取りください」

「な、なんじゃと~」


 二人して張り合わないでくれよ……


「あーそうだ。下にシトナとアカツキがいるだろ? 二人と遊んで来たらどうだ? 俺も後でいくから」

「うぅ~ 仕方ないのう。ならば先に行くのじゃ! ジークも必ず来るのじゃぞ!」

「ああ」

「絶対じゃからなー!」


 ルーリアは手を振り部屋を出ていく。

 開けっ放しになっている扉を、クロエがため息をこぼして閉めに行く。


「シトナ! アカツキ! 妾が遊んでやろう!」

「……図々しい」

「何じゃとシトナ!」

「喧嘩しちゃ駄目だよぉ」


 バタンと閉まった後で、下の階から声が聞こえてきた。

 二人とは年も近いし、それなりに仲良くやっている?とは思いたい。

 それにしても……


「随分懐きましたね」

「本当にな」


 自分から誘っておいてなんだけど、最初は不安だったよ。

 仮にも敵同士だった相手と、ちゃんと馴染めるのかなとか。

 でも、そんな不安は一日で解消された。

 思った以上に彼女は無邪気な子供で、素直さを持ち合わせていたからだと思うけど。

 すんなり溶け込んで、今では完璧に馴染んでいる。

 彼女も楽しそうだし、これで良かったのだとは思えるよ。

 ただ、時折見せる寂しそうな視線が、どこを向いているのかも気づいていた。


 仕事を終わらせ、ルーリアの所へ行く。

 三人で楽しそうに遊んでいる様子を、陰からこっそり眺めて、タイミングを見計らい出ていった。

 俺を見つけた途端、三人は嬉しそうに駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!」

「あっ、ジーク様!」

「遅いのじゃ、ジーク」


 ルーリアは笑顔だ。

 三人で遊んで、楽しそうにもしていた。

 だけど、やっぱりどこか寂しげで、気にしているように見える。


「どうしたのじゃ?」

「なぁルーリア、お前の故郷って西のほうなんだよな?」

「ん? そうじゃが」

「じゃあ今度、一緒に見に行かないか?」

「えっ……」

「気になってるんだろ? 仲間の悪魔たちがどうしてるのか。よく西側をぼーっとみつめてるからな」


 彼女が魔王としてふるまっていた経緯は知っている。

 あまりいい思い出がないことも……

 だけど、それで割り切れるほど彼女は大人ではないだろう。


「妾は別に……」

「戻れって話じゃない。ちょっと様子だけ見て、また戻ってこればいい」

「でも、妾は……」

「気になってるのに放置してたら、後から後悔するぞ?」


 ルーリアは黙って考えている。

 しばらくじっと下を向いて、確かめるように顔をあげる。


「ジークも一緒に行ってくれるのか?」

「そう言ってるだろ? 本気で嫌なら行かないけど」

「……行く!」

「決まりだな」


 不安は解消すべきだ。

 確かめた上で、ちゃんと話す機会も得られたら良いと思うし。

 個人的に悪魔たちの生活っていうのにも興味はある。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いくら同情の余地があるとはいえ、人間の立場からすれば元々討伐するべき対象で、実際にあれだけの騒動を起こした元凶を保護した以上一番手柄を名乗ってはいけないなとは思っていた。主人公もそこは自覚…
[一言] 王国せこいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ