20.ちびっこ魔王が加わりました
魔王との激戦から一夜明け、王都では人々が集まっていた。
見上げる先は王城の一角。
そこに立つ国王が、王都全域に響くように声を通す。
「ここに告げる! 忌まわしき魔王は討伐された! 勇者ミゲルの聖剣によって討ち滅ぼされたのだ!」
国王は堂々たる宣言を口にした。
彼の声は魔道具の力で応答全域に響いている。
王都で暮らす人々が、彼の言葉に耳を傾けている。
「もう怯える必要はない! 我々は勝利したのだ!」
一呼吸おいて、歓声が沸き上がる。
国中から聞こえる声が、王城の中にまで響いている。
賞賛の声ばかりだ。
それらは全て、一人の英雄に向けられている。
「勇者様ばんざーい!」
「ミゲル様ー!」
彼らが称える男は姿を見せない。
魔王との戦いで命を落としたから……というわけではなく、単に治療中で動けないだけだ。
歓声は王城内の医務室まで届いていて、彼の眠りを妨げていた。
「ぅ……ジークぅ、よくも……」
魔王にこっぴどくやられたミゲルだが、寝言でうなされる程度には元気らしい。
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一週間後。
アクトスの街は平常運転。
冒険者たちはクエストに出ていく。
その道中に、王国から流れてきたチラシが落ちていた。
「よろしかったのですか?」
「何がだ?」
部屋で書類と向き合っている俺に、クロエが紅茶を持ってきた。
カップを机に置くと、続けて彼女は言う。
「魔王討伐の実績です。本当はジーク様が」
「別にいいよ。知名度は十分、これ以上目立っても困るだけだ。それに……」
ドンドンドンドン――
廊下を走る音が聞こえて、俺たちは扉へと視線を向ける。
俺もクロエも、誰が来たのか予想はついている。
「ジークー!」
「ルーリア……」
「はぁ、またですか」
ルーリアが、元気よく扉を開けて入って来た。
どうしてこの家にいるのかは、今さら説明もいらないだろう。
子供とは言え、彼女は魔王を名乗って国を襲ったんだ。
その張本人をかくまっておいて、自分が倒しましたなんて嘘もつきたくない。
幸いなことに、彼女の正体を見て知っているのは、この家にいる人数だけだ。
「遊ぶのじゃ!」
「ジーク様はお忙しいので、また後で来てください」
「むぅ、さっきも聞いたのじゃ」
「さっきも言いましたから」
ちょうど十分前にも同じことがあったばかりだ。
十分はさすがに早すぎるだろ。
「悪いなルーリア、まだ書類仕事が終わってないんだよ」
「そうなのか……なら妾も手伝おう!」
「いや、それは良い」
「なぜじゃ!」
前に手伝ってもらったら、めちゃくちゃにされて仕事が増えたから。
と言いたいけど、言ったら拗ねそうだからどうしようか。
回答に悩んでいる俺を見て、クロエが代わりに答える。
「私が手伝っているので大丈夫です」
「妾のほうが役に立つのじゃ!」
「それはあり得ないのでお引き取りください」
「な、なんじゃと~」
二人して張り合わないでくれよ……
「あーそうだ。下にシトナとアカツキがいるだろ? 二人と遊んで来たらどうだ? 俺も後でいくから」
「うぅ~ 仕方ないのう。ならば先に行くのじゃ! ジークも必ず来るのじゃぞ!」
「ああ」
「絶対じゃからなー!」
ルーリアは手を振り部屋を出ていく。
開けっ放しになっている扉を、クロエがため息をこぼして閉めに行く。
「シトナ! アカツキ! 妾が遊んでやろう!」
「……図々しい」
「何じゃとシトナ!」
「喧嘩しちゃ駄目だよぉ」
バタンと閉まった後で、下の階から声が聞こえてきた。
二人とは年も近いし、それなりに仲良くやっている?とは思いたい。
それにしても……
「随分懐きましたね」
「本当にな」
自分から誘っておいてなんだけど、最初は不安だったよ。
仮にも敵同士だった相手と、ちゃんと馴染めるのかなとか。
でも、そんな不安は一日で解消された。
思った以上に彼女は無邪気な子供で、素直さを持ち合わせていたからだと思うけど。
すんなり溶け込んで、今では完璧に馴染んでいる。
彼女も楽しそうだし、これで良かったのだとは思えるよ。
ただ、時折見せる寂しそうな視線が、どこを向いているのかも気づいていた。
仕事を終わらせ、ルーリアの所へ行く。
三人で楽しそうに遊んでいる様子を、陰からこっそり眺めて、タイミングを見計らい出ていった。
俺を見つけた途端、三人は嬉しそうに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん!」
「あっ、ジーク様!」
「遅いのじゃ、ジーク」
ルーリアは笑顔だ。
三人で遊んで、楽しそうにもしていた。
だけど、やっぱりどこか寂しげで、気にしているように見える。
「どうしたのじゃ?」
「なぁルーリア、お前の故郷って西のほうなんだよな?」
「ん? そうじゃが」
「じゃあ今度、一緒に見に行かないか?」
「えっ……」
「気になってるんだろ? 仲間の悪魔たちがどうしてるのか。よく西側をぼーっとみつめてるからな」
彼女が魔王としてふるまっていた経緯は知っている。
あまりいい思い出がないことも……
だけど、それで割り切れるほど彼女は大人ではないだろう。
「妾は別に……」
「戻れって話じゃない。ちょっと様子だけ見て、また戻ってこればいい」
「でも、妾は……」
「気になってるのに放置してたら、後から後悔するぞ?」
ルーリアは黙って考えている。
しばらくじっと下を向いて、確かめるように顔をあげる。
「ジークも一緒に行ってくれるのか?」
「そう言ってるだろ? 本気で嫌なら行かないけど」
「……行く!」
「決まりだな」
不安は解消すべきだ。
確かめた上で、ちゃんと話す機会も得られたら良いと思うし。
個人的に悪魔たちの生活っていうのにも興味はある。
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