表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~  作者: 日之影ソラ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/25

19.それなら一緒に来いよ

 襲撃された村は業火に焼かれた。

 優れた魔法の才能を持つ悪魔たちでも、数の力には勝てない。

 数千人いた同胞は半数以下となり、生き残った者たちは西へと逃げた。

 しかし、逃げた先でも彼女たちは襲われてしまった。

 どこへ逃げても、何度抗っても、人間は彼女たちを追いかけた。


 そんな折、彼女は立ち上がった。

 襲い掛かる人間たちを、モンスターを生み出すことで返り討ちにしたのだ。

 彼女は人間たちに宣言した。


「妾は魔王ルーリアじゃ! これ以上貴様ら人間の好きにはさせんぞ!」


 堂々たる宣言に、人間たちは撤退していった。

 そして、一抹の平穏が訪れた。

 が、それも長くは続かなかった。

 魔王が誕生したという知らせが広がり、複数の国で徒党を組み、今まで以上の大舞台で人間たちが攻め込んできたのだ。


 彼女はモンスターの群れを生み出し応戦した。

 何とか退けることには成功したものの、多くの犠牲者を出してしまう。

 それでも同胞を守るために奮闘した彼女を、誰も責めるはずはない。

 と、思っていたのは彼女だけだった。


「お前が魔王などと名乗るからだぞ!」

「そうだ! 上手くやり過ごしていれば、いつか忘れていたかもしれないのに」

「そもそもお前のような子供が魔王を名乗る方が間違っている」

「まったくだ。余計なことを……」


 同胞たちは彼女を責めた。 

 責任を押し付け、仲間の死を彼女のせいにしたのだ。

 

 孤立し一人ぼっちになった彼女は、悲嘆の中歩き出した。


 こうなってのもすべて人間が攻めてきたからだ。

 彼らさえいなければ、自分が孤立することなどなかった。

 悪魔として、魔王として人間を滅ぼす。

 そうすれば、皆もきっとわかってくれる。

 

 そう信じてここまでやってきた。


「なるほどな」


 笑えない話だ。

 少なくとも、小さな女の子が抱え込んでいい内容じゃない。

 人間の身勝手さと、同胞たちの手のひら返しに踊らされて、彼女はたった一人で戦っていたんだ。

 仲間なんていない。

 そう言っていた彼女は、本当に一人ぼっちだった。

 理解した途端、同情してしまうのは仕方のないことだろう。


「なぁお前、もしよ――」

「話は終わったのじゃ。早く妾を殺すがよい」

「は? 今なんて?」

「殺せと言っておるのじゃ! 妾にはもう何もない。帰る場所もない。お前たち人間に捕まるくらいなら、殺されたほうがマシじゃ!」

「お前……」


 悲しそうな瞳が印象的で、流れ出る涙がより切なさを醸し出す。

 彼女は本気で言っている。

 惨めな思いをしたくないと、その声と表情が語っている。

 それほどまでに絶望し、追い込まれてしまっている。

 こんなにも小さな女の子が死を望む。


「そんなの……間違ってるだろ」

「何がじゃ? 何が間違いなのじゃ! 妾は間違ってなどおらん!」

「ああ、お前は間違ってなんかないよ」

「へっ……?」

「間違っているのはお前じゃない。お前をここまで追い込んだ世界だ」


 亜人種差別、人間優位の繁栄。

 これによって作り上げられた世界そのものが間違っている。

 争いが絶えなかった千年前とは違う理由で、世界に対して嫌悪感を抱く。


 どうして誰も気づかない。

 どうして誰も変えようとしない。

 俺はこんな世界にするために、身を粉にして戦ったのか?

 俺が剣術を極めたかったのは、こんな世界を守るためなのか?


 全部ふざけるな、だ。


「提案がある」

「……提案?」

「ああ。もしよかったら、俺の家に来ないか?」

「な、なな、何を言っておるのじゃ!」

「そう驚くなよ。別に取って食うつもりはないからさ」

「ふざけるな! 何を企んでおるのじゃ!」

「何も企んでないって」


 唐突な提案だったこともあり、ルーリアはひどく疑っている様子だった。

 俺は誤解されないように説明する。


「俺の所にもさ。同じよう人間に迫害されて、嫌な思いをした奴らがいるんだよ。そういう奴らが集まって、一緒に暮らしてるんだ。人数なら亜人のほうが多いくらいだぞ」

「な、なぜじゃ?」

「なぜって?」

「お前は……人間じゃろ? 人間は亜人が嫌いなんじゃろ?」

「大多数の人間はそうだな。でも、俺は違うよ」

 

 俺は亜人に対して偏見を持っていない。

 千年前も、今も変わらない。

 理由は、俺が元々この世界の人間ではないからだ。

 亜人なんていない世界で生まれて、創作物の中だけに登場していた彼らは、俺にとってあこがれだった。

 千年前は争いが絶えなかった所為で、亜人とも戦う羽目になったけど……


「俺はむしろ、お前たちみたいなやつらが好きだ」

「す……」

「だから放っておけない。このまま見捨てたくもない」


 俺は彼女に手を差し伸べる。


「お前が望むなら、俺がずっと傍にいてやろう。お前に危害を加える奴は、俺が真っ先にぶっとばしてやる。寂しい想いはさせない」


 言葉がどこまで届くのか。

 閉ざされつつある彼女の心まで、ちゃんと伝わってくれるのか。

 俺は信じて語り掛ける。


「で、でも……妾は人間を……」

「そうだな。でもさ? そいつらだって、お前の仲間に手をかけたんだ。お相子ってことで良いと思うけど?」

「……いいのかな?」

「いいさ。俺が許す」


 何の権利もないけどね。

 まぁ、もしも俺の仲間が傷つけられていたら、同じようには言えなかったと思うけど。

 そう言う意味では、運が良かったということだ。


「で? 来てくれるか?」

「ほ、本当に良いのか? 妾がいても」

「何度も言わせるなよ。俺が良いって言ってるんだ。それ以上はない」


 俺は語り掛けた。

 言葉は胸に響き、彼女の手を動かす。

 そうしてようやく、互いの手がつながった。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ