19.それなら一緒に来いよ
襲撃された村は業火に焼かれた。
優れた魔法の才能を持つ悪魔たちでも、数の力には勝てない。
数千人いた同胞は半数以下となり、生き残った者たちは西へと逃げた。
しかし、逃げた先でも彼女たちは襲われてしまった。
どこへ逃げても、何度抗っても、人間は彼女たちを追いかけた。
そんな折、彼女は立ち上がった。
襲い掛かる人間たちを、モンスターを生み出すことで返り討ちにしたのだ。
彼女は人間たちに宣言した。
「妾は魔王ルーリアじゃ! これ以上貴様ら人間の好きにはさせんぞ!」
堂々たる宣言に、人間たちは撤退していった。
そして、一抹の平穏が訪れた。
が、それも長くは続かなかった。
魔王が誕生したという知らせが広がり、複数の国で徒党を組み、今まで以上の大舞台で人間たちが攻め込んできたのだ。
彼女はモンスターの群れを生み出し応戦した。
何とか退けることには成功したものの、多くの犠牲者を出してしまう。
それでも同胞を守るために奮闘した彼女を、誰も責めるはずはない。
と、思っていたのは彼女だけだった。
「お前が魔王などと名乗るからだぞ!」
「そうだ! 上手くやり過ごしていれば、いつか忘れていたかもしれないのに」
「そもそもお前のような子供が魔王を名乗る方が間違っている」
「まったくだ。余計なことを……」
同胞たちは彼女を責めた。
責任を押し付け、仲間の死を彼女のせいにしたのだ。
孤立し一人ぼっちになった彼女は、悲嘆の中歩き出した。
こうなってのもすべて人間が攻めてきたからだ。
彼らさえいなければ、自分が孤立することなどなかった。
悪魔として、魔王として人間を滅ぼす。
そうすれば、皆もきっとわかってくれる。
そう信じてここまでやってきた。
「なるほどな」
笑えない話だ。
少なくとも、小さな女の子が抱え込んでいい内容じゃない。
人間の身勝手さと、同胞たちの手のひら返しに踊らされて、彼女はたった一人で戦っていたんだ。
仲間なんていない。
そう言っていた彼女は、本当に一人ぼっちだった。
理解した途端、同情してしまうのは仕方のないことだろう。
「なぁお前、もしよ――」
「話は終わったのじゃ。早く妾を殺すがよい」
「は? 今なんて?」
「殺せと言っておるのじゃ! 妾にはもう何もない。帰る場所もない。お前たち人間に捕まるくらいなら、殺されたほうがマシじゃ!」
「お前……」
悲しそうな瞳が印象的で、流れ出る涙がより切なさを醸し出す。
彼女は本気で言っている。
惨めな思いをしたくないと、その声と表情が語っている。
それほどまでに絶望し、追い込まれてしまっている。
こんなにも小さな女の子が死を望む。
「そんなの……間違ってるだろ」
「何がじゃ? 何が間違いなのじゃ! 妾は間違ってなどおらん!」
「ああ、お前は間違ってなんかないよ」
「へっ……?」
「間違っているのはお前じゃない。お前をここまで追い込んだ世界だ」
亜人種差別、人間優位の繁栄。
これによって作り上げられた世界そのものが間違っている。
争いが絶えなかった千年前とは違う理由で、世界に対して嫌悪感を抱く。
どうして誰も気づかない。
どうして誰も変えようとしない。
俺はこんな世界にするために、身を粉にして戦ったのか?
俺が剣術を極めたかったのは、こんな世界を守るためなのか?
全部ふざけるな、だ。
「提案がある」
「……提案?」
「ああ。もしよかったら、俺の家に来ないか?」
「な、なな、何を言っておるのじゃ!」
「そう驚くなよ。別に取って食うつもりはないからさ」
「ふざけるな! 何を企んでおるのじゃ!」
「何も企んでないって」
唐突な提案だったこともあり、ルーリアはひどく疑っている様子だった。
俺は誤解されないように説明する。
「俺の所にもさ。同じよう人間に迫害されて、嫌な思いをした奴らがいるんだよ。そういう奴らが集まって、一緒に暮らしてるんだ。人数なら亜人のほうが多いくらいだぞ」
「な、なぜじゃ?」
「なぜって?」
「お前は……人間じゃろ? 人間は亜人が嫌いなんじゃろ?」
「大多数の人間はそうだな。でも、俺は違うよ」
俺は亜人に対して偏見を持っていない。
千年前も、今も変わらない。
理由は、俺が元々この世界の人間ではないからだ。
亜人なんていない世界で生まれて、創作物の中だけに登場していた彼らは、俺にとってあこがれだった。
千年前は争いが絶えなかった所為で、亜人とも戦う羽目になったけど……
「俺はむしろ、お前たちみたいなやつらが好きだ」
「す……」
「だから放っておけない。このまま見捨てたくもない」
俺は彼女に手を差し伸べる。
「お前が望むなら、俺がずっと傍にいてやろう。お前に危害を加える奴は、俺が真っ先にぶっとばしてやる。寂しい想いはさせない」
言葉がどこまで届くのか。
閉ざされつつある彼女の心まで、ちゃんと伝わってくれるのか。
俺は信じて語り掛ける。
「で、でも……妾は人間を……」
「そうだな。でもさ? そいつらだって、お前の仲間に手をかけたんだ。お相子ってことで良いと思うけど?」
「……いいのかな?」
「いいさ。俺が許す」
何の権利もないけどね。
まぁ、もしも俺の仲間が傷つけられていたら、同じようには言えなかったと思うけど。
そう言う意味では、運が良かったということだ。
「で? 来てくれるか?」
「ほ、本当に良いのか? 妾がいても」
「何度も言わせるなよ。俺が良いって言ってるんだ。それ以上はない」
俺は語り掛けた。
言葉は胸に響き、彼女の手を動かす。
そうしてようやく、互いの手がつながった。
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