17.本当に魔王ですか?
「剣よ――」
俺は剣を背後に生成。
射出できるように待機させる。
「妾の魔法で粉砕してくれるわ!」
対する魔王も魔法陣を展開。
不意打ちの時に使っていた砲撃の魔法を発動させる。
互いに攻撃の準備を整え、呼吸のタイミングで発射させる。
剣と砲撃がぶつかり合い、激しい火花を散らせる。
どちらの攻撃も撃ち落とされ、相手には届いていない。
「ほう、貴様は中々やるではないか? そこで寝ている出来損ないとは違うようじゃのう」
「一緒にされると困るな。こちとら千年不敗だ」
「千年とは! 大きく出たものじゃ……良い、良いぞ! ならば妾も少々本気を出してやろう」
魔力が上がっていく。
掌に収束した魔力が形をなし、鋭い刃へと変化した。
「デスサイズ、それがお前の武器か」
「いかにもじゃ。この鎌で貴様の首を刈り取ってやろうぞ」
さらに魔力が上昇していく。
これまで手を抜いていたのは事実だとわかる。
とは言え、まだ驚くほどの変化ではない。
かつて魔王と戦った身としては、この程度では足りないとさえ思う。
「来い」
「貴様が来るのじゃ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジークが不在となった七人は、モンスターの戦闘を継続中。
彼がいなくなっても危なげなく戦い抜き、今のところの被害はない。
「さすがに疲れてきたな」
「うむ。できれば一度下がって休息を取りたいところだが……」
グレンとリザルドの前には、留まることのないモンスターの群れが見える。
勢いは一向に衰えない。
他の冒険者たちも奮闘しているが、体力の限界が近づき、徐々に劣勢へ傾きつつある。
ここで彼らが退けば、戦況は一気に悪くなるだろう。
「ユミル」
「大丈夫クロエちゃん、まだいけるよ!」
だが、火力を担当するユミルの魔力にも限界が近い。
回復役であるアカツキでも、無尽蔵に回復させられるわけではない。
他の皆も同様に、限界と言う文字が浮かび上がる。
「こうなったら、信じて待つしかないな」
「そうであるな。信じよう、我らが主殿が――」
魔王を倒すことを。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
剣と大鎌が交錯する。
魔法による砲撃は、剣の弾丸が相殺する。
一撃一撃を受けるたびに、地形が変わるほどの衝撃波が生まれる。
軽薄、無邪気。
その奥に秘めたどす黒い強さ。
戦いは拮抗したまま、両者壁を駆けあがり渓谷の上へ出ていた。
「ここまでやるとはのう。貴様本当に何者じゃ?」
「さっき言っただろ? 通りすがりの冒険者で、下のほうで寝てる勇者 (仮)の弟だよ」
「そう言いながら、実は貴様が本物の勇者なのではないのか?」
「冗談言うなよ。というか、そういうお前こそどうなんだ?」
「む? 何がじゃ?」
「お前……本当に魔王か?」
俺が彼女に問いかけると、あからさまに不機嫌になり、眉間にしわを寄せる。
「どういう意味じゃ?」
「お前、魔王にしては弱すぎるんだよ」
「なっ……」
彼女は驚き目を見開く。
何度も言うが、俺は魔王と戦ったことがある。
千年前の出来事だが、今でも鮮明に覚えているよ。
それほどに壮絶な戦いだった。
勝てるかどうか、勝敗がつくまでわからなかったんだ。
だからたぶん、俺以上に魔王の強さを知っている人間はいないだろう。
そんな俺だからこそわかる。
彼女は魔王を名乗るには弱い。
よくて魔王の配下にいた四天王くらいの実力しかない。
「妾が弱いじゃと……妾のどこが弱い!」
「一言で表すなら全部だな」
「すべて……?」
「ああ。魔力、膂力、戦闘センス、どれをとっても足りない。魔王っていうのは、もっと圧倒的でないと駄目だ。お前にはそれがない」
向かい合うだけで肌がピリピリする感覚。
彼女からはそれを感じない。
俺は思ったことをそのまま言葉にして伝えた。
それを受け取った彼女は、しばらく黙りこみ……
「ふふっ……ふふふ、ふははははははははははっ」
突然、大きな声で笑いだした。
壊れてしまったように、高らかに笑いだした。
彼女の声が渓谷に響く。
「そうか、そうかそうか! 貴様も妾を愚弄するのじゃな! 妾では足りぬと、魔王には成れぬというのじゃな!」
錯乱したように彼女は言う。
その発言には、俺の言葉ではないものも含まれていた。
「ならば見せてくれようぞ! 妾が真に魔王である証拠を! 圧倒的な力というものを!」
彼女はデスサイズを上にかざす。
込みあがる魔力に大地が、空気が揺れている。
高密度な魔力がデスサイズに収束し、激しい金属音が鳴り響くと同時に、デスサイズが巨大化する。
「これは……」
「どうじゃ! これが妾の力、この一振りさえあれば、貴様ら人間など一瞬で塵に変わるじゃろう!」
「……」
「恐怖で返す言葉もないか? 撤回するなら今のうちじゃが、どのみち許さぬ。貴様はここで――消えるがよい!」
彼女はデスサイズを振り下ろす。
刃が振り下ろされた直後、地は裂け先に新たな渓谷が生まれた。
「ふふふっ、他愛もない」
「――誰が?」
が、俺には通じない。
立ち上った土煙が晴れると、五体満足で立っている俺が見える。
刃を剣で受け止め、自らは無傷。
その事実に驚愕し、彼女は後ずさる。
「ば、馬鹿な! なぜ生きておるのじゃ?」
「なぜって、死んでないから生きているに決まっているだろ?」
頓智のような回答をして、剣をグイっと持ち上げる。
デスサイズが弾かれ、元の大きさに戻る。
唖然とする彼女を見て、俺は不敵に笑う。
「今度は俺が見せる番だな」
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