表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元剣帝、再び異世界に剣を向ける ~千年後の世界で貴族に転生したので、好き勝手やってたら家を追い出されました~  作者: 日之影ソラ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/25

15.そんな聖剣で大丈夫か?

「どけ雑兵ども! 僕の道を阻むなぁ!」


 ミゲルが聖剣を振り回し、モンスターの群れをかき分けていく。

 俺はその後ろについていく。

 こっそり群れに隠れながら進むつもりだったが、ミゲルは興奮していて注意が散漫だ。

 あれなら目の前に出なければ、バレることもないだろう。


「本当に変わってないな……」


 小さい頃のことを思い出す。

 こうと決めれば突き進み、後ろなど振り返らない。

 己が絶対的に正しくて、自分に意見する者はすべて敵。

 自尊心の塊であるミゲルには、勇者なんて務まらないと思う。

 俺が知っている勇者は、自分を顧みず他人のために命をかけられるような、ある意味頭のネジが飛んでいる人だから。

 

「だからお前は――」


 呟く直前、まがまがしいオーラを感じる。

 オーラは群れの奥から漂ってきて、地を這いドロドロの汚染物のような不快感が全身を抜ける。

 ミゲルも思わず身体を震わせ、一瞬立ち止まった。


「そこにいるのだな魔王!」


 が、ミゲルはすぐに動き出し、オーラを感じる方向へ駆けていく。

 あの勇敢さというか、無鉄砲さは素直に凄いと思うよ。

 俺は彼に続き、オーラへと向かう。


 そして――


 モンスターの群れを抜けた。

 崖と崖の狭間に、広いスペースが出来た場所。

 そこに彼女は立っていた。


「ほう……遂にここまでたどり着く者が現れたか? 実に愉快じゃ」

「お前が魔王か?」

「いかにも! 妾こそ魔を統べる者――魔王ルーリア様じゃ!」


 赤黒くウェーブのかかった長い髪。

 瞳と色はルビーのように赤く、肌は透き通るように白い。

 グラマー体系な肉体を見せびらかすような薄着で、武器は何も持っていない。

 身長は俺より少し低いくらいか。

 背中に生える羽と、腰から伸びる黒い尻尾が、悪魔であることを示している。


「僕は勇者ミゲル! 魔王ルーリア、貴様を倒す者だ!」

「勇者か。なるほどのう……じゃから妾の軍勢を抜けられたのか」


 俺は少し離れた場所から様子を観察する。

 会話が聞こえるギリギリの距離だ。

 感知に優れているのなら、バレてしまうのだが……


「じゃが、一人で来るとは愚かなことじゃのう」


 どうやら気付いていないようだ。

 それより気になるのは、彼女の足元に広がる黒い影。

 最初は影かと思ったけど、明らかに形が異なり、表面が波打っているように見える。

 

 黒い水、あるいは沼か?

 彼女の能力で生み出したものだとは思うが……


 黒い沼がさらに波打つ。

 トプンと音を立てて、沼から何かの腕が伸びる。

 腕は地を掴み、身体を這い上がらせる。


「あれは……」

「モンスターか?」


 魔王はニヤリと笑みを浮かべる。


「その通りじゃ! お前たちが戦っていたモンスターの中にもいたじゃろう? あれは妾の力で生み出したものじゃ」


 皆と一緒に戦っていたとき、異形のモンスターがいたことを思い出す。

 見かけない種類だと思っていたが、それもそのはずだ。

 魔王は黒い沼からモンスターを次々に生み出していく。

 これで納得がいった。

 どうして倒しても結晶を落とさなかったのか。

 倒しても倒しても、一向に減らなかったのも、彼女がモンスターを生み出し続けていたから。

 そして、改めて魔王の恐ろしさを実感する。


 モンスターが減らなかったということはつまり……

 俺たちがモンスターを倒すペースより、彼女が生み出すスピードが上回っていたということだろう?

 それにモンスターを生み出すとき、少なからず魔力は消耗するはずだ。

 だが、彼女からはまだ、溢れんばかりの魔力を感じる。


「どうやら、貴様を倒しにきた判断は正しかったようだな」


 珍しくミゲルと意見が一緒だ。

 彼女を放置していては、いつか俺たちが負けていた。

 無尽蔵に近い魔力と、次々に生み出されるモンスターの群れ。

 戦いが長引けば、どんどんこちらが不利になる。


「悪いがここで倒させてもらうぞ!」


 ミゲルが聖剣を振る。

 光を纏い、白い斬撃が放たれる。

 召喚されたモンスターを蹴散らしながら、魔王へとどく。


「ふっ」


 魔王は笑い、魔法陣を展開して防御した。


「ふむふむ、中々に良い攻撃じゃったぞ?」

「馬鹿な! 我が聖剣の一撃を防いだだと!?」

「ほう、それが聖剣というものか。妾も初めて見るのうー、どれ、もっと見せるのじゃ」

「くっ、悪魔風情が!」


 ミゲルは連続で斬撃を浴びせる。

 魔王は余裕の表情で防御し、何事もなかったように前へ進む。

 攻撃をしかけ、それを防御されるたびに、ミゲルは一歩ずつ後退していく。


「どうしたのじゃ? はよー向かって来ぬか」

「……くそっ!」


 ミゲルを挑発する魔王。

 両腕を広げて、かかって来いとジェスチャーしている。

 ミゲルは悔しそうな表情を浮かべ、唇をかみしめて前に出る。


「うおおおおおおおおおおおお」


 雄たけびは立派だが、ミゲルの剣はかすりもしない。

 優雅に、華麗に回避されている。

 勇者に選ばれたからといって、剣術が急に上達するわけではない。

 ここにきて彼の平凡さが現れてしまっていた。


「ふむ、もう良いかのう」


 魔王が動きを止める。

 ミゲルはチャンスと考えたのか、大ぶりの一撃を振り下ろす。

 だが――


「なっ!」

「所詮はこの程度かのう」


 魔王はミゲルの一撃を、素手で受け止めていた。

 驚愕するミゲルに、魔王はあきれ顔で言う。


「曲芸としては良い出来じゃったよ。が、妾と戦うには役者不足じゃ」

「き、貴様!」

「すまぬがもう飽きた」


 魔王が力を込める。

 受け止めていた手を、ほんの少し握っただけ。

 たったそれだけで、聖剣の刃が砕け散った。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 役者不足は役者の数が足りないと言う造語らしいですよ。 なんせ 役者足ら不 ですし。 能力が足りないなら力不足、仕事が簡単すぎるのが役不足です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ