14.ここは任せて先に行こう
モンスターの群れが押し寄せる。
大小さまざまな造形の化け物が、地を這い空を飛び襲いかける。
絶望的な景色の中で、暴れまわる八人の姿は、味方の支え鼓舞するには十分だった。
「すげぇ……」
「あれがオクタグラムかよ」
俺たちのことを知る冒険者たちが、口を揃えて賞賛している。
初めてアクトスに来た時とはえらい違いだ。
今ではもう、俺たちのことを馬鹿にする奴らはいない。
それだけ実績を残し、力と存在を証明できたということだ。
「あいつらがいりゃー楽勝だな!」
「ああ。魔王も勇者より先に倒せるんじゃねーの?」
「かもなっ! そんじゃ俺たちも行くぜ!」
冒険者たちが臆さずモンスターの群れに挑む。
その光景を横目に見ながら、クロエはぼそりと呟く。
「調子の良い人たちですね」
「はははっ、本当にな」
クロエの言う通り、調子の良い連中だよ。
まぁでも、嫌な気分じゃないから良いけどさ。
さて、嫌な奴のほうはどうしてるかな?
俺は戦闘を継続しながら、視線をミゲルに向ける。
遠く離れた場所で戦っているけど、彼の鎧は真っ白だからよく目立つ。
ミゲルはモンスターの大群を前にして、堂々と正面に立ちふさがっている。
「ふっ、来るが良いモンスター共! この僕が軽く遊んでやろう」
余裕たっぷりにドヤ顔を浮かべるミゲル。
モンスターは唸り声をあげながら一斉に襲い掛かる。
それでも彼は動揺することなく、優雅に腰の剣へと手を伸ばす。
「見るが良い――我が聖剣の力を!」
ミゲルが剣を抜く。
鞘から白銀に輝く刃が見え、光が反射して周囲が明るくなる。
次の瞬間、真っ白の斬撃がモンスターの群れを一網打尽にいしてしまった。
「ふふっ……ふふはははははは! 見たかモンスター共! これが我が至高の剣エグゼカリバールの力だ!」
「へぇー、あれが聖剣か」
鎧に負けず劣らずピカピカな刃。
聖剣と言うだけあって、神々しいほどの輝きを放っている。
能力は光の斬撃を放つことだろうか。
形状は普通の剣と変わらず、見た目がひたすらに派手だ。
やはり初めて見る聖剣だ。
いや、というよりあれは……
「なるほど」
その後も戦闘は続く。
押し寄せるモンスターの群れを片っ端から倒す。
もはや作業となりつつあり、あらゆる意味で疲労が溜まって来た頃……
――違和感。
それを最初に感じたのは、ミゲルの聖剣がモンスターを斬り裂いた時だ。
あの時はまだ、いつもと違うような感じがしただけ。
しかし、徐々に違和感は強くなり、その正体にも気づかされる。
「なぁーおい、こいつら結晶落とさねーぞ」
「やっぱそうだよな? 俺もいまのとこゼロだぜ」
「何なんだよこれ……結晶落ちないんじゃ組合に買い取ってもらえねーよ」
違和感の正体に気付いたのは、俺だけではなかった様子。
モンスターを討伐すると結晶が落ちる。
結晶はモンスターの核となる部分であり、魔力をため込む心臓だ。
それを組合に提出することで、クエスト達成の報告をすると同時に収入を得ている。
今回の支援要請では、討伐したモンスター数に応じて報酬が増える仕組みになっていた。
だが、倒せど倒せど何も落とさない。
こんなことは初めてだとぼやく者も多くいる。
さらに別の違和感。
戦闘が開始されすでに一時間が経過している。
モンスターは確実に殲滅できているはずだ。
こちらの被害も軽微で済んでいる。
順調……という状況が、ずっと続いている。
続いて、変わらず今も継続している。
要するに、最初から何も変わっていないということだ。
「全然減らないな」
「うむ。強さはそれほどでもないのだが」
グレンとリガルドも違和感を感じているようだ。
減る気配のないモンスターの群れ。
そして、今さら気づいたのだが、見たことのない種類も交じっている。
強さはそれほどではないが、この辺りでは見かけないモンスターも多くいるようだ。
「埒が明かないな……」
「ジーク様、どうされますか?」
「う~ん、一番手っ取り早いのは魔王を倒すことなんだけど」
肝心の魔王の姿がない。
モンスターの群れが広がりすぎて、先が全く見えない。
おそらく奥にいるのだろうが、目視することは難しい。
現状、押しも押されもしていない。
圧倒的に不利ではないものの、モンスターの勢いが治まらなければ、先に体力が尽きるのはこちら側だ。
「何か手を――!」
その時、激しい爆発音がこだまする。
驚いて目を向けると、立ち昇る土煙の中からミゲルが現れた。
「鬱陶しい! これでは掃除と同じではないか!」
ミゲルは苛立ちをあらわにしていた。
彼もモンスターの勢いが弱まらないことに気付いたのか。
聖剣を乱暴に振りかざし、モンスターを薙ぎ払う。
「こうなったら僕が直接魔王を倒しに行く! 君たちは引き続きモンスターの群れを抑えていてくれ!」
「ミゲル様? お待ちください!」
「うるさいぞ! 僕は勇者なんだ! 指図するんじゃない!」
騎士団長の声を振り切って、ミゲルは聖剣を片手に突進していく。
光の斬撃を放ち、群れの間に道を作って進んでいく。
無っ鉄砲過ぎて笑ってしまいそうだよ。
ただ、このままではじり貧になるのも事実。
これを好都合と思い、利用させてもらうことにする。
「ちょっと俺も行ってくる」
「ジーク様?」
「魔王の所だ。あの馬鹿がしくじったら困るしな」
「お前ひとりでいくつもりかよ」
「ああ、問題ないからな。お前たちはモンスターの群れを止めてくれ」
そう言い残し、俺はミゲルの後を追う。
クロエたちは驚いていたが、引き留めることはなかった。
俺なら大丈夫だと、わかっているからだろう。
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