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第332話 分担

公式戦と練習試合の記録を合算すると、宮守さんの防御率は次期エース候補筆頭である島谷さんより良い。先発と中継ぎで求められるものは違うし、宮守さんの場合は特にピンチ時に強くなった。


5回裏、先頭バッターに投げ込む宮守さんの球速は126キロ。優紀ちゃんと同じぐらいだから、最高球速は遅い。でも彼女の持つ最大の武器は、そこではない。


初球は低めのギリギリを狙ったようだけど、判定はボールでカウントは1-0。そして2球目に宮守さんは、小さく落ちる縦のスライダーを投げ込む。それにバッターはバットを合わせ、ファールになった。カウントは、1-1。


……滅茶苦茶コントロールが良いってわけでもないから、真弘ちゃんや川江さんのような精密機械達と比べると二回りぐらい落ちる。スタミナも、回跨ぎが苦手な時点で無いに等しい。


でも、宮守さんには全く球筋が同じで、でも変化量の違う3つの縦のスライダーがある。3球目、先ほどよりかは変化をする縦スライダーに、打者のバットが空を切ってツーストライクと追い込む。


カウント1-2から4球目。宮守さんは真ん中から大きく落ちる縦スライダーを投げ、相手バッターは全く合わせることが出来ずに三振。相手からすると、本当に厄介な中継ぎ投手だと思うし、これで試合中はいつでもいけるよう準備してくれているのだから頼もしい。


続くバッターも三振に打ち取り、ツーストライクから中くらいに落ちる縦のスライダーに合わせられて打球が前に飛ぶけど、セカンドのひじりんの守備範囲内。セカンドゴロでスリーアウトとなり、5点差のまま試合は終盤戦に。あとは6回と7回を、私が抑えるだけだね。


6回表の攻撃で2点を追加した湘東学園は、9対2で6回裏の守備に就く。マウンドには私が登り、初球で144キロのストレートを内角低めに決めた瞬間、相手校の戦意が完全に『追い付いて勝とう』から『あのピッチャーから1点だけでも』に切り替わったことを悟る。甲子園の準々決勝、そこまで来ても湘東学園はまだ相手校を圧倒する戦力を持っていた。統光学園が、如何に強かったかが分かるね。


6回裏と7回裏、打者6人を相手にヒットも四球も許さなかった今日の私の投球数は17球。試合は結局10対2で湘東学園が圧勝し、甲子園準決勝進出を決めた。次の対戦相手は、石川県の金沢青陵高校。愛知の愛光大名伝相手に、17対1と大差を見せつけての勝利だ。


当然強いところなんだけど、正直に言うと久美ちゃんが打ち崩される未来が見えないし、相手校の投手陣は最速が130キロ前後で固まっているから、まず打ち崩せると思う。


「浮かない顔してますね」

「……流石に、久美ちゃんは見抜いてくるよね」

「甲子園での成績、9打数9安打9本塁打はもうあり得ないってレベルじゃないですよ」

「相手も甲子園に出て来るぐらい、レベルは高かったのにねえ」


試合が終わってホテルに戻り、お風呂から上がってぼーっとしていると同じく風呂上りの久美ちゃんが話しかけて来る。明日の準決勝の先発は久美ちゃんで、決勝での登板予定は無いから行けるところまで行って貰う予定だ。


その久美ちゃんの言葉で、改めて私の異質さを認識させられる。今までも十分に異質だったとは思うけど、ここまで躊躇なくやったのは初めてだ。最後の大会ということもあって、気持ちの枷が外れていたかな。


「番匠さん、今日は頑張っていましたね」

「島谷さんでも4回2失点ぐらいになるとは思っていたから、大健闘だったよ。下手すれば1回で大量失点の危険もあったけど」

「……決勝戦では、根岸さんと勝負できると良いですね」

「……まず1打席目は敬遠だろうけどね。3番に置かれたことで敬遠され辛くはなったけど、やっぱり私と勝負するメリットないもん」


同世代で、私に確実なホームランを打たれない投手はきっと、真弘ちゃんと根岸さんぐらいだ。久美ちゃんと優紀ちゃんは、もう3年間で球筋を散々見たからね。だから確実なホームランを回避できる投手は、この2人になる。


今回の甲子園ではその2人が投げ合った結果、根岸さんが勝った。決勝戦には勝ち上がって来るだろうし、湘東学園と同じく選手層が厚いから決勝戦ではもうヘロヘロということもない。


……自分の所属しているチームが難なく勝ち上がっていくのを見てると、やっぱり欲というのは出て来るね。




準決勝では久美ちゃんが相手打線を完封し、相手のエース格3人全員から点を毟り取った湘東学園は、金沢青陵高校を9対0で破る。私と智賀ちゃんを可能な限り敬遠して被害を最小限に抑え、継投で失点を抑えようとしたんだろうけど、見事にその計画は破綻したというか、後続を抑えられてなかった。そして被害を最小限にしても、久美ちゃんから連打が出来なかった時点で向こうに希望の芽はない。


久美ちゃんが完封してくれたお蔭で、万が一優紀ちゃんが打ち込まれても島谷さん、宮守さん、番匠さんが投げられる状態だし、大阪桐正は点が取れても3点止まりだろうなという予想が出来る。


後は、春の選抜でも打った根岸さんを打ち込むだけだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 友理さんも確実にホームラン打てないのでは??
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