第276話 北の大地
2学期の期末テストで1年生のお馬鹿組の内、1軍はなかやんと宮守さんが見事に赤点を取り、冬休みの補習が無事決定した。よってこの2人は、補習を受けた後に練習へ参加する形となる。
「……ちなみに、何の教科で赤点だったの」
「数学と英語です」
「私は英語だけ……」
「今回、英語のテスト難しかったんだっけ?答案あったらちょっと見せて。
…………うん。だいぶ難しめだけど、でも平均点が62点で28点と24点は、危機感持った方が良いよ」
素直になかやんが2つの教科で赤点を取りましたと言うけど、この湘東学園、別にスポーツ科やスポーツコースがあるわけじゃないので、下手したら留年する。……1年を通じての成績が赤点だったら進級出来ないだけだし、1年生から2年生に上がるのはまだ問題無いけど、2年生から3年生に上がる時は苦労しそう。
一方で2年生組は、全員が同じクラスになっているのが大きい。というか1番置いて行かれやすい2年生の1学期で、1番置いて行かれる心配のあった優紀ちゃんが、肩の怪我で勉強に励んでいたから幸い脱落者がいない。
久美ちゃんと詩野ちゃんはこのまま行けば普通に難関大学へ入れそうなぐらいには頭が良いし、真凡ちゃんと智賀ちゃんも平均点と競えているから問題はない。優紀ちゃんもまあ……現時点で補習にお呼ばれしていないから大丈夫だと思う。数学Ⅱのテストで、46点という数字は見えたけど。
「神宮大会は、北海道代表の北海大谷女学校が優勝か。初出場で初優勝は目立ったね」
「今まで、甲子園の出場経験が無かったところよね?大阪桐正と統光学園に連続で勝って決勝戦も勝ったけど、その代償は大きそうね」
「これで北海大谷が選抜甲子園で優勝出来なかったら、20年連続で神宮大会優勝校が、選抜甲子園では優勝出来なかったってことになるそうだよ」
「……色々と、察せられるものがあるわね」
真凡ちゃんと一緒に、北海大谷が優勝した瞬間の写真が載っているスポーツ雑誌を読む。北海大谷のエースは、2年生の鎌谷さん。最速131キロのストレートを持っていて、変化球はスライダーとフォークの2球種。コントロールはあまり良くなくて、決勝戦でも一時乱調になっていた。
決勝戦の北海大谷と石川清陵の戦いは、9対6と乱打戦の末に北海大谷の勝利だったけど、どちらもエース頼りで勝ち上がって来たからか、コントロールミスは多かった。押し出しの四球も見られたし、色々とドラマがあったことは確かだ。
春までにどれだけ各個人が成長出来るかどうかだけど、来年の選抜甲子園で優勝を狙えるだけの戦力は整っている。今のところ、その優勝への大きな障害になりそうなのは大阪桐正と統光学園と宝徳学園の3校。
「近畿地区の代表校、今年は有名所が多いかな。大阪桐正と宝徳学園に、京都の福智山星美と兵庫の明石工科が確定、残り2校の枠は智伝和歌山と履陰社でほぼ確定って……どこも優勝候補だよ」
「履陰社は宝徳学園と全力で戦って、負けているのよね?」
「選抜行きを賭けた2回戦で当たっているし、お互いにエースが投げているから本気だね。延長に入って3対1だし、宝徳学園の投手陣が1枚上手と感じる試合だったよ」
「……神戸ガールズの投手達が、毎年入って来る宝徳学園も投手陣は厚いのね。関東の代表校と、関西の代表校を比較すると名前負けしている感じがするわ」
関東の代表校は、統光学園と湘東学園に加えてベスト4だった習志野と埼玉農大三校が確定している。東京からは帝央高校と刻志館の2校が出場するとの噂だけど、近畿の6校と比べると確かに名前負けはしているかも。
「ちなみに来年、神戸ガールズから北条さんが入って来るけど、案の定裕香ちゃんは激おこ状態だったよ」
「そりゃ怒るわよ。というか裕香さんとは何度か話したけど、カノンのこと褒めては貶してたわよ」
「中学時代は中学時代で、色々とあったしね。元々裕香ちゃんは、怒ることが多かったけど」
「そう言えばカノンの中学時代の話、わりと頭のおかしいエピソードばっかりだったわね。外野にコーンを並べて、それを狙って打ったり、ピッチングマシンに近づいて打ったり……あまり、今と変わらないわね?」
「狙って打つこと自体は、小学校に入る前から始めていたからね」
履陰社に勝った宝徳学園を率いているのは、3年生達が引退して名実ともに宝徳学園の1番上になった裕香ちゃん。近畿大会の映像を見たら、U-18W杯の時より動きがより俊敏になっているような感じがするし、エースの真弘ちゃんは133キロを出すようになっていた。
……この『月刊高校野球 神宮大会特別版』では、選抜甲子園への出場がほぼ確定している高校のランク付けもしているけど、湘東学園と宝徳学園、それに大阪桐正と統光学園は1番上のランクだった。よくあるレーダーチャートで、湘東学園の打撃力だけ最大評価を突き抜けているのはご愛敬。
それだけ世間の評価は高くなったということだし、マークもされるようになった。私はともかく、他の部員達がそのマークを振り切れるかは、これからの冬合宿次第かな。