第195話 64校
決勝戦のマウンドで、どうやら140キロを出していた私は当然ながら投手としての注目度が高まった。何せ和泉大川越の大槻さんでも、最速は139キロだったからね。なお大阪桐正の藤波さんも140キロをマークしたので、インパクトは薄れた模様。
春夏連続となる湘東学園の甲子園出場が決定し、祝勝会で寮の夕食が豪勢になった翌日。ついに甲子園へ出場する高校が64校、全て決定し、昼食時にはその話題で持ち切りだった。
「東兵庫は宝徳学園で、西兵庫は明石工科か。兵庫もわりと波乱が無くて、順当に勝ち進んだ感じだね?」
「私達が知っている高校の中で、大きな波乱があったのは西大阪の履陰社初戦負けと、日本理文が新潟高校に負けたぐらいですね」
「日本理文って、新潟高校に去年の夏はコールド勝ちをしているのよね?……リベンジをして、そのままの勢いで甲子園出場は凄いわ」
順当の一言で済ませられる物では無いけど、東兵庫は宝徳学園が圧勝を続けたらしい。ガールズで全国制覇を続けている神戸ガールズ、その主力面子の大半が宝徳学園に行っているから勝ち上がるのは当然だね。今年も聖ちゃんと光月ちゃん以外は、結構な割合で宝徳学園へ行ったみたいだし。
久美ちゃんと真凡ちゃんが触れたけど、合同合宿を共にした日本理文は4回戦負けをしている。新潟は、日本理文を倒した新潟高校が勢いそのままに勝ち進んで甲子園への切符を手にした。ちなみにGWの合同合宿で一緒になったもう片方の高校、三島東高校は無事に甲子園出場を勝ち取っている。
関東の注目所だと東東京は日大産が、西東京は二本松岳栄大付属高校が優勝しており、城西高校は決勝で敗れている。多久大光陵は芳田さんが1人で投げ切り、西千葉大会を優勝。北埼玉は、花咲栄徳が春夏連続出場だね。そして北神奈川代表が統光学園で、南神奈川代表が湘東学園。
結局北神奈川は、和泉大川越対統光学園の試合が事実上の決勝戦だった。統光学園が苦しんだのは、その試合だけだったはず。一方で湘東学園は3回戦と準決勝以降でわりと苦戦していたから、チームの総合力は拮抗している所も多かったと思う。
注目の関西勢は東大阪代表が大阪桐正で、西大阪代表が銀光大阪。どう分けたのかは知らないけど、大阪を縦で二分割はかなり無理があると思う。神奈川も横で無理やり分割したから他所のことは言えないけど、銀光高校の位置で西大阪に区分されるのは作為的なものを感じるね。
京都は北京都が福智山星美で、南京都が龍安大平刻と双方ともに強豪校が勝ち進んでいる。今年だけ分割されるような県は試合数が例年より少ないから、層が厚いということは必ずしも有利に働かないだろう、と思っていたけど全然そんなことは無く、層の厚さで2校とも甲子園出場を決めている。
地方で有名所は、大体春夏連続出場な感じもするかな。あと、強そうなところは西愛知の愛光大名伝に東愛知の東報高校。和歌山の智伝和歌山と西広島の広稜高校も強くて有名な高校だけど、そもそも甲子園に出ている時点で何処も強い。
「そう言えば、甲子園の出場選手は決まったんですか?」
「え?あ、うん。御影監督と矢城コーチ、萩原監督と詩野ちゃんと私の5人で話し合ったよ。……まあ、明日には御影監督の口から発表されると思う」
久美ちゃんが、甲子園への出場選手について私に聞いた途端、1軍入りしている1年生の中で緊張が走る。……どう考えても1年生から2人を外すことは目に見えているし、覚悟はしているだろうけど、明日になれば御影監督の口から告げられると思う。
地区予選のベンチ入り定員20人に対して、甲子園のベンチ入り定員は18人だ。明日になれば、2人は2軍落ちになる。今回は、戦力のことを第一に考えて決断した。
「あ、真凡ちゃんは怪我が治ってもしばらく激しい運動はせずに上半身の筋トレ中心のメニューにするから、後で練習内容の調整もするよ。明後日には完治すると思うけど、医者へ行くのはその次の日だね」
「……それって、甲子園に行くまでほとんど練習出来ないわよね?」
「甲子園に行ってからも、練習時間はちゃんとあるし大丈夫だよ。あと2軍は、1軍が甲子園滞在中に関西の強豪校を梯子する予定らしいから覚悟しておいてね」
高校野球の規定として、大会期間中に甲子園出場校同士の練習試合は行えない。しかし、甲子園出場校でも甲子園出場が出来なかった高校となら練習試合が組める。確か前世だと試合そのものが出来なかったはずだけど、甲子園出場が決まった日から甲子園で試合をする日まで、かなりの期間が空く高校への配慮と手助けみたいなものだね。
それを利用して、履陰社の新チームとかと湘東学園の2軍が練習試合をする予定。1軍の練習試合は、大会日程次第かな。今年は特に試合数が多いから、大会序盤で空白期間が出来るかもしれないし、もしかしたら何試合か練習試合を組むかもしれない。