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第183話 疑念

「あのプレイ、武藤さんが逸れた球を捕ろうとするのは分かるんだけど、捕ろうとして跳んだら真凡ちゃんを踏むのは分かるよね」

「……それって、わざと踏んだってこと?」

「あの一瞬で、交錯上等で跳んだかは流石に分からないよ。ただ、お互いにお互いが見えて無かったからというのは交錯の原因あるね」


プレイが再開されたので、真凡ちゃんの様子を確認しながら、怪我の原因を話していく。……ワンナウトランナー1塁3塁で1塁ランナーがスタートして、キャッチャーが2塁へ送球するなら、1塁ランナーは挟まれに行く場面だ。


同点のこの場面、湘東学園は勝ち越しの点が欲しい。真凡ちゃんはキャッチャーが投げようとしているのを視界に捉えた瞬間に、1塁へ帰塁する必要があった。


このことは真凡ちゃんも分かっていたはずで、それなのにあの瞬間は2塁へ滑り込んでセーフになろうとした。一方で武藤さんも、真凡ちゃんが滑り込んでいるのは見えていたはず。それなのに跳んで、逸れたボールを捕ろうとした。


お互いにお互いの行動が見えていたのにも関わらず、見えていなかったんだと思う。だから、交錯した。武藤さんも真凡ちゃんが怪我をしたと分かった瞬間に足を吊ったフリをしていたし、そのこと自体は良く思えないというか怒りすら覚えたけど、武藤さんが全面的に悪いわけでもない。


……でも、武藤さんの方が悪いかなぁ。鎌倉学院のような悪意は感じられなかったから、お互いにプレイに必死過ぎたんだと思う。


真凡ちゃんは医務救護スタッフさんに応急処置をして貰った結果、切り傷の方は深く無く、捻挫の方も1週間程度で治るものと診断された。ただ、しっかりと治さないといけないようで、今日の試合には出るなと言われる。今日勝てば、明日に行なわれる決勝戦にも、出ない方が良いだろう。


落ち込んでいた真凡ちゃんを慰めていたら、本城さんがヒットを打っていたけど高谷さんはホームへ戻れず、ワンナウトランナー1塁3塁。そして再度本城さんが走ると、今度も横須賀港高校の捕手は2塁へ投げ、その間に高谷さんはホームへ走る。


高谷さんの足は、一年生達の中でトップクラスに早い。しかし、今回は相手の方が上手かった。相手投手の長谷川さんが2塁への送球をカットし、本塁へ投げる。高谷さんは、見事に挟まれてしまう。


……それでも、挟まれてからしぶとく粘った高谷さんは走り回って3塁へ帰塁した。右にフェイントして、左にフェイントしてからボールを持っている選手の右下を潜り抜けて滑り込み、セーフ。地味に横須賀港高校の守備、挟んでから追いこむまでのプレイが下手だったね。


ワンナウトランナー2塁3塁となり、聖ちゃんはセーフティスクイズを仕掛ける。高谷さんがホームに突っ込むかと思ったら、3塁へ帰塁。長谷川さんはフィールディングが良い方だけど、高谷さんの動きに惑わされたせいで、聖ちゃんは1塁でセーフとなった。


まあ、次が私だから突っ込まなくても良いと言う判断だろうね。そして長谷川さんはまともに勝負をする気が無いのか、大きく外れるボール球を投げる。しかしバットに届く範囲だったので、2-0からの3球目で打ちに行った。


「なっ!?」


そして打ちに行った瞬間、長谷川さんが笑ったように見えた。ストレートとほぼ変わらない球速で投げられた球は、僅かに内側へ曲がる。完全に、意表を突かれた形だ。


ゴンッと鈍い金属音が鳴り、ボールは高く上がる。ホームランになるはずだった打球は失速し、ライトへの大飛球となった。


結果的には犠牲フライとなり、高谷さんは帰塁。2年生になってから、これが初めての凡退かな?思っていた以上に、読み合いが上手い。……これは久しぶりに、反省するべきプレイだね。放っておけば、四球で1点を貰えたのだから、今の私のプレイはアウトカウントを1つ増やしただけになる。


というかカウント2-0から外角高めへ外す球で新しい変化球を投げたのは、完全に私の行動パターンを読んだ上で投げた球だよね。


「これは、してやられたと思ったよ。……流石に腕を伸ばした状態だと、芯を外したらフェンスを越えないよね」

「……今の、逆風が無ければ入ってましたよ」

「いや、それでも読み切られた時点で私の負けだよ……。あ、そうだ!ナイスランだったよ。特にスクイズの時、そのままホームに突っ込まなかったのは正解だったね。守備はそのままレフトで出すと思うけど、大丈夫?」

「大丈夫です。レフトでの打球処理も、練習していましたから」


ホームベースを踏んだ高谷さんと一緒にベンチに戻ると、御影監督からため息と「ええ加減にせえよ」というお言葉を頂く。敬遠が犠牲フライになったのは、100%私が悪いのでしゅんとなるよ。続く智賀ちゃんもセカンドゴロに倒れ、5対3と2点リードの状態で3回表を迎える。


「絶対勝つから、真凡ちゃんは安静にしながら、安心して見ててよ!」

「……ええ、分かったわよ」


大量得点で真凡ちゃんを安心させることは出来なかったけど、まだ試合はこちらが優勢のはず。本職ライトの高谷さんがレフトへ行くのは少し不安だけど、守備の動きも良いし、出来るだけ失点は抑えて行こう。

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