第127話 神奈川対大阪
準々決勝は奈織先輩が3安打の活躍で勝利し、準決勝に進出したベスト4が確定した。準決勝の組み合わせは大阪の大阪桐正と神奈川の和泉大川越。大阪の履陰社と神奈川の湘東学園になる。
これで決勝戦は大阪同士の対決か、神奈川同士の対決か、神奈川対大阪のどれかになることも確定した。決勝戦が同県対決は珍しいし、世間では予想が頻繁に行われている。
私達は準々決勝を優紀ちゃんと智賀ちゃんで乗り切ったため、準決勝では久美ちゃんと私が投げることになっている。しかし和泉大川越は、大槻さんの連投だ。大阪桐正を相手に、2番手ピッチャーを投げさせるわけにはいかなかったのだろう。
大会11日目の今日は準決勝が2試合行われ、その後に1日の休みが挟まり、13日目に決勝戦が行われる。日程的には、超が付く過密日程なんだよね。甲子園の使用料は高いそうだし、過密日程になるのは仕方ないと思うけど。
まず今日の第1試合で、日本中の高校野球ファンが待ち望んでいた藤波さんと大槻さんの投げ合いが始まる。互いに剛速球が持ち味の右腕で、今年のドラフトの目玉だ。この2人は4月に行なわれるU-18W杯代表候補の合宿メンバーにも選出されており、投手戦が予想された。
……ちなみに、私も選出されているから合宿には行くことになった。あとは本城さんもファーストかDHの候補で合宿メンバーには選出されているので、湘東学園から2人揃って行くことになりそう。
「4番の根岸玲さんは、中学3年生の時に131キロをマークして一時期有名だったね」
「……そういう人が、ライトを守っている時点で色々と凄いわよ。というか、和泉大川越が負けそうね」
「選手層の違いが顕著だから仕方ないかもしれないけど、純粋に大阪桐正の方が強いよ」
しかし、大槻さんの方はそこまで調子が良くない。ここまでの3試合全てに登板し、確実に疲労が蓄積しているのも原因だ。一方で藤波さんは、5回でマウンドを降りたり、登板していない試合もある。両先発の疲労度の差は、確実に試合展開へ影響していると思う。
それに加えて、大槻さんは4番を打っているのに対して藤波さんは9番。打者としてのチームからの期待度も大きく違う。藤波さんと大槻さんで、バッティング能力に差があるようには思えないけどね。2人とも1発のある打者だし、バッターとしても似ているかも。
結局試合は、2対0で大阪桐正が勝った。点差だけ見れば2点差だし、良い試合のようにも見えたけど、内容を見れば和泉大川越の完敗だ。毎回のようにランナーを出した大槻さんに比べて、藤波さんがランナーを出したのは2回だけ。点差以上に、力の差が出た試合だった。
「よし、行こうか。決勝戦を大阪同士の対決にはさせたくないから、今日は必ず勝って決勝まで行くよ」
湘東学園 スターティングメンバー
1番 左翼手 伊藤真凡
2番 三塁手 西野優紀
3番 一塁手 本城友樹
4番 中堅手 実松奏音
5番 右翼手 江渕智賀
6番 ニ塁手 鳥本奈織
7番 遊撃手 鳥本美織
8番 捕手 梅村詩野
9番 投手 春谷久美
今日は2回戦や準々決勝の時から少し打順が入れ替わっている。ジャンケンでは勝ったので、私達が後攻だ。
まずは1回表。履陰社打線が早くも機能し、久美ちゃんのドロップカーブが打たれ続ける。久美ちゃんは現在カットボール、ドロップカーブ、フォークの3球種を投げれるのだけど、決め球はドロップカーブだ。
この3つの変化球を投げ分けているから、普通の対戦相手だとドロップカーブに空振るのだけど、履陰社打線はそのドロップカーブを狙っており、長打にすらなる。久美ちゃん自身の調子があまり良くないこともあり、先頭バッターから3連続ツーベースヒットを許してしまう。
その後は4番を敬遠して塁を埋めたところで、5番がセカンドへの併殺打を打ってくれたお陰で助かったけど、ツーアウトランナー3塁から6番にシングルヒットを打たれて3点目。初回から、3対0とリードされる展開は厳しい。
7番をセカンドフライに打ち取って、ようやくスリーアウト。これはこの回に1、2点は返さないと、ずるずる点差を離されて負けるだろうな。
「ほら、しょげてないで切り替えて行くよ」
「……はい」
スリーアウトを取って、ホッとしている久美ちゃんのお尻をグラブで叩いて気持ちを切り替えさせる。失点してしまったものは仕方ないから、バットで取り返すのみだ。
そして1回裏。マウンドには履陰社の背番号11番、法島 姫子さんが登る。左腕で最速131キロ。コントロールはかなり良く、スライダーとカーブ、チェンジアップを投げてくる。これが控え投手で出て来るのだから凄い。
「地区大会でも、左バッターが多い打線を相手に安定した投球をしています。基本的に中継ぎでしたから、多く投げても3イニングまでですね。ビデオを見ていると、コントロールがとても良い事は分かります」
「ん、ありがとう。……そっか。エースでも2番手でもなく3番手が投げるんだ」
「前日にその2人で東洋大相模打線を1点に抑え込んでいるので、単純に連投となる今日の登板は回避したのだと思いますよ」
相馬さんによると、法島さんの甲子園での登板は1試合だけだけど、3回を無失点に抑えている。うちのチームの智賀ちゃんのような存在なのだから、まずはこの人を打ち崩せないと話にならない。
しかし先頭バッターの真凡ちゃんはセカンドゴロ、続く優紀ちゃんもライトフライに倒れたので簡単にツーアウトになってしまった。
本城さんが出塁しても、私が敬遠されれば点に結び付きにくいか。そんなことを思っていたら、本城さんが打球をかっ飛ばした。