表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/388

第121話 古巣

宝徳学園には、私のことをよく知っている人が何人もいる。だから、こうやってちゃんと敬遠されているのだと思う。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 左翼手 伊藤真凡

2番 中堅手 春谷久美

3番 一塁手 本城友樹

4番 三塁手 実松奏音

5番 右翼手 江渕智賀

6番 捕手  梅村詩野

7番 投手  西野優紀

8番 遊撃手 鳥本美織

9番 ニ塁手 鳥本奈織



大会8日目の第2試合。宝徳学園対湘東学園の試合は宝徳学園が1点をリードする1対0で2回裏を迎え、私に対する真弘ちゃんの1球目は外角低め、全力で投げられたワンバウンドするボール球だった。


……試合前に向こうのキャプテンになっていた裕香ちゃんと握手した時、試合後に色々と話したい旨を伝えられた。そして小声で、絶対に負けないから、と言っていたことも私の耳は聞き逃さなかった。お互いに、複雑な感情を持ち合わせていることは確かだ。


大きく外角へ外されたワンバウンドする全力のストレートを、簡単に打てるほど私は人間をやめてない。1球ぐらい、バットに届きそうなコースに来て欲しかったけど、残念ながらそれは叶わずにフォアボールで出塁することになった。





(流石のカノンも、あの敬遠球はバットが届かなかったみたいね。……あー!もう!何で勝手に神奈川へ行って、私達の相手として立ち塞がるのかなぁ!)


2回表に先頭バッターの5番、神里が先制ホームランを打ったことで幾分気が楽になっていた井上は、奏音をはっきりとしたボール球で敬遠する。ガールズ時代、頼もしかったチームの4番が敵になっていることは、彼女にとっても予想外だった。


(盗塁の可能性もあるけど、あの5番が送りバントの構えは珍しい。送らせても、良いかな)


ノーアウトのランナーが出て、5番の江渕は送りバントの構えをする。御影監督はワンナウトランナー2塁の場面を作り、梅村に任せる算段だった。しかし江渕はストレートをバントでピッチャー前へ強く弾き返してしまい、井上は打球を拾った後に素早く2塁へと送る。


(ヤバい、間に合え!)


本来ならば余裕でアウトになるタイミングだが、奏音はセカンドリードを大きくとっており、2塁はアウトかセーフが微妙なところだった。滑り込むカノンに対し、宝徳学園のショートの荻野はベースから離れて送球をカットし、ファーストへ素早く送球する。結果、1塁はアウトとなった。


「……ナイスプレー」

「ありがと。咄嗟の判断は、誰かさんに仕込まれまくったからね」


井上のフィルダースチョイスを防いだ荻野を奏音は素直に褒め、荻野は淡々とその言葉を受け取る。井上の判断は間違っておらず、ランナーがカノンで無ければ2塁でアウトに出来ていたことを考えると、荻野は奏音のことを塁上に出るだけで厄介な存在だと感じた。


6番の梅村に対して、井上はまともな勝負を避ける。1塁が空いている上に、次のバッターが西野だからだ。3-1から5球目、はっきりと外れたスライダーを梅村は見送り、四球で出塁。ワンナウトランナー1塁2塁となり、西野の打席を迎える。


(サインは……そりゃ、送りバントだよね。ツーアウトランナー2塁3塁にして、奈織先輩に任せよう)


ここでも御影監督は送りバントを選択し、西野はバントの構えをする。バントが上手い方であり、そのために2番にも採用されたことがある西野は、ストレートの勢いを殺して、確実に送れるよう1塁線へと転がした。


ツーアウトランナー2塁3塁で、バッターボックスには奈織が立つ。勢いは、湘東学園にあるように思われた。




「ぅ、ごめんなさい」

「んー、満塁であの打球を処理されたら相手を褒めるしかないですよ」


2回裏の湘東学園の攻撃は、ツーアウトランナー2塁3塁となった後に奈織先輩が勝負を避けられ、美織先輩がショートゴロに倒れた。センター前に抜けそうな打球を裕香ちゃんに止められ、そのまま2塁にトスでスリーアウトチェンジ。


三者残塁で、無得点に終わる。井上さんは図太くなったというか、打たれそうな時は四球で逃げられるのは投手として凄い才能だと思う。残塁が積み重なるほどこちらの勢いは削がれるし、余計な疲れも溜まっていく。一歩間違えれば大量失点もあり得るのだけど、そのミスが無い。


そして3回表。上位に戻った宝徳学園打線に優紀ちゃんが捕まり、ワンナウトランナー2塁3塁というピンチを迎えて4番キャッチャーの篠宮(しのみや)先輩、5番ファーストの勇菜ちゃんという打順を迎える。ここで、私が継投することになった。たぶん、3回と4回を抑えろということだと思う。


優紀ちゃんと私のポジションが入れ替わって、投球練習を開始する。試合中にピッチャーとして甲子園のマウンドに立つと、何だか感慨深いものがあるね。


「……肩は温まってる?」

「いや、まだだね。3塁へ牽制しつつ、4番は歩かせるよ。

それと、ノーサインで本当に大丈夫?」

「大丈夫。後ろへは絶対に逸らさないよ」


ワンナウトでランナーが3塁にいるので、3塁への牽制球が少し多くなったところで対して問題視はされない。こういう時、4番にスクイズをさせるのも宝徳学園の怖い所なので、慎重に行かないとね。


篠宮先輩との勝負は避け、5番の勇菜ちゃんと対峙する。1回戦では4打数1安打1四球だったけど、パワーはあるし、2回にホームランを打っているから最大限に警戒しないといけないバッターだ。そして初球、私は縦のスライダーを勇菜ちゃんの膝元へ投げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓にランキングタグを設置しました。ポチっと押して下さると作者が喜びます。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ