表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/388

第95話 選抜へ向けて

10月下旬、関東大会の1回戦が始まる。僅か6日間で終わってしまう大会で、1回戦は2日に分けて行なわれ、3日目が休養日になっている。その後の2回戦と準決勝、決勝戦は連闘となるから投手が少ないチームほど不利な大会だ。どんな大会でも、投手の数は多い方が良いけど。


湘東学園は僅か部員9人+マネージャー2人の野球部にも関わらず、投手を務められるのが4人もいることは強みでもある。智賀ちゃんを4人目として育てていて、本当に良かったと言わざるを得ない。4人目がいるといないのとでは全く戦略が違って来るし、智賀ちゃん自身も投手をすることで成長した部分が多い。


その1回戦、湘東学園は1日目に試合がある。要するに、1回戦の後は中2日で3連闘だ。まあ、勝ち上がったらの話になるし、まずは目先の試合が重要なんだけど。


「咲進学園と前橋栄徳は咲進学園が9対4で勝ち、東甲斐大甲府と霞ヶ浦女学院は13対9で霞ヶ浦女学院の勝ち、花咲栄徳と中欧学院は6対3で中欧学院の勝ちか」

「今日の試合は、全て2位側の高校が勝っていますね。この流れに、乗りたいところです」

「今日の調子はどう?」

「良いと思いますよ?大事な初戦で、先発ですからね。気合いは入ってます」


久美ちゃんの調子は良さそうなので、そう簡単には打たれないと思いたい。賢大高崎の方は、2年生エースの長井(ながい)さんが先発だ。右投げのオーバースローで、ストレートの平均球速は125キロと速く、ツーシームやスライダー、カーブやシュートなどを投げるみたい。


得意球や決め球は無さそうで、コントロールはそこそこ良い。まあ、打ち頃とまでは言えないけど、うちの打線なら捉えられそうなピッチャーかな。どちらかと言えば、速球派の投手だと思う。


重要な初戦は、気を引き締めてかかろう。今日の打順は、3位決定戦の時の打順から優紀ちゃんと奈織先輩が入れ替わっている。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 左翼手 伊藤真凡

2番 捕手  梅村詩野

3番 中堅手 実松奏音

4番 一塁手 本城友樹

5番 右翼手 江渕智賀

6番 投手  春谷久美

7番 三塁手 西野優紀

8番 遊撃手 鳥本美織

9番 二塁手 鳥本奈織



まずは1回表、久美ちゃんがワンナウトから四球でランナーを出すと、すぐに賢大高崎は盗塁をして来た。久美ちゃんはかなり早いクイックだったし、詩野ちゃんの送球は正確だったけど、2塁はセーフ。


一気にピンチを迎えると、今度は3塁への盗塁も仕掛けて来た。賢大高崎の3番は、アシストスイングも非常に上手かったけど……。


それ以上に、詩野ちゃんの方が上手かった。スイング後、極力3塁への送球を邪魔しようとするバッターを避けて詩野ちゃんは3塁へ送球。優紀ちゃんが捕球したその位置がタッチしに行く場所だったこともあり、2塁ランナーは楽々とアウト。


ツーアウトランナー無しとなって、久美ちゃんは3番を三振に打ち取り、1回表を0点に抑えた。試合は、私達の攻撃へと移る。


「見た感じ、好調時と不調時の波が大きそうな投手や。今日の調子を探るためにも、真凡は三振になってええから粘りな」

「はい!」


御影監督の指示を聞き、ヘルメットをキュッと被って、打席へと向かう真凡ちゃん。真凡ちゃんはこの関東大会までの間に、さらに金属バットの大きなミート範囲を活かしたバッティングが出来るようになったから、上手く1塁線と3塁線へ飛ばすことが出来るようになった。


「……実松さんは、良いんですか?伊藤さんは金属打ちに慣れさせてしまうのが、あまりに惜しいバッターでしょう?」

「そうなんですけど、木のバットを取り入れるのは冬になってからで良いと思います。訓練のためと称して、いずれ木のバットは持たせるつもりですが……野球を始めて1年も経ってないことを考えれば、まだ金属打ちで打ち続ける方が良いと考えているので」


矢城コーチから、真凡ちゃんを金属打ちに慣れさせてしまって良いんですかと聞かれたけど、木のバットは冬の合宿で智賀ちゃんと真凡ちゃんに振らせてみようかなとは思っている。その後は、普段の練習や練習試合の時に木のバットを使わせることで、バッティング技術を磨かせたい。


まだ芯の範囲が狭い木のバットを使うのは早い、という判断かな。木のバットは折れやすいし、ボールが飛ばなくなってしまうとバッティングの楽しさが半減する。


そんな真凡ちゃんは、上手く芯を外して飛距離を減らすことで、前身守備の外野の手前に落とした。そろそろ、真凡ちゃんの目にバッティング技術が追い付く頃だ。バスター打法も、徐々にスイングの距離を増やせば飛距離が伸びていくはず。


詩野ちゃんも上手くレフト前へ流して、ノーアウトランナー1塁2塁の場面で私の打席だ。どうやら勝負してくれるみたいなので、公式戦で私は13打席振りの勝負になる。


……そろそろこの敬遠率は、話題になるのかな?と考えながら、来た球にジャストミートする。この夏と秋に増えた筋肉と柔軟力のお陰で、バネの力は増したし、スイングスピードは確実に成長したと思う。


そんな私の打球は、軽々とバックスクリーンの上を超えた。流石にあそこまで飛ばしたのは初めてだし、久しぶりに自分の身体に引いた気がする。私の理論が間違ってない証明でもあるから、嬉しいんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓にランキングタグを設置しました。ポチっと押して下さると作者が喜びます。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ