3-1 再会
関東領 政務庁・第一会議室
月城たちが中部領に潜入して中部五官である異能官の福田玄治を殺害してからニ週間。
関西領と革命軍の動きを調査するという偽造任務の報告をするため、月城と真壁は政務庁に足を運んでいた。
「本日は皆様、お忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます」
「(誰だ!!!)」
丁寧口調で深々と頭を下げる月城を横目に、叫びたい衝動を必死に抑える真壁。
現在、第一会議室に居るのは六人。
出入口の扉を背にして、円卓の前に立つ月城と真壁。
彼らから見て左側に座るのは赤い軍服を身に纏う、軍事庁長官の本郷将義。
その正面、月城たちから見て右側に腰掛けるのはスーツ姿の老人、財務庁長官の内藤忠敬と彼の後ろに控える黄色い軍服の女性。
そして会議室の一番置く月城たちの正面に座るのが、高級感漂う黒のスーツを纏う政務庁長官の三神慎夜だ。
「固ってーなー!いつもの調子で良いんだぜ、嬢ちゃん」
月城に違和感を感じたのは真壁だけでは無かったようで、本郷が軽い口調で話しかける。
「・・・」
だが自分よりも位の高いはずの本郷からの言葉に対して、月城は反応もせずにすまし顔でジッと立っている。
まるで誰かの指示を待っているかのように。
「構わないよ、夜魅」
「!!ホントですかー!!ありがとうございますー!三神さまー!!」
「なっ!?」
「「「・・・」」」
三神の一声で豹変した月城を見て、真壁は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
結果、三神と月城を除く三人の視線が真壁へと集まった。
「ところで、そちらの男性は何方でしょうか?」
微妙な空気の中、初めに口を開いたのは内藤だった。
「こちらは雅人さんですー。私の付き人として来てもらいましたー」
「真壁雅人です。ご挨拶が遅れてしまい、失礼しました」
「・・・」
「そっか、そっか。嬢ちゃんにも春が来たかー」
「もうー、やだー!本郷さんたらー」
自己紹介を済ませる真壁に対して、やじを入れてくる本郷とは反対に内藤は何か言いたげに彼を睨んでいた。
「・・会議に連れてくる同行者は一人までと決めていませんでしたか?三神さん」
「何故私に?彼は夜魅の付き人ですよ?」
「その月城嬢は、貴方の部下でしょう!」
政務庁の会議室を使っている上に、参加者の半数が政務庁所属の人間であることが納得出来ない内藤の口調は、ついつい荒くなってしまう。
「落ち着けよ、旦那。この会議は俺ら三人と嬢ちゃんの四人でやるって決めたじゃねぇか」
「その通りです。今回に限っては夜魅にも付き人を連れてくる権利があります」
「っ、、」
前回の話し合いで会議に月城を参加させることを認めていた内藤は言い返すことが出来ず、言葉に詰まる。
すると、意外な人物が手を上げた。
「あのー、何でしたらー、雅人さんには離席してもらいますかー?」
「「は?」」
月城の予期せぬ発言に対して今度は二人が素っ頓狂な声を上げる。
「おい、良いのか?付いて来るように言ったのはお前だろう?」
その一人、当人である真壁は当然のように月城に問いかける。
「はい、良いですよー。連れてきたのはー、雅人さんを皆さんに紹介したかったからですしー」
そう伝えると、もう用は済んだとばかりに真壁の背中を出口に向って押す月城。
「お、おい押すな!分かった!外で待ってる!」
月城は真壁を退室させると、改めて内藤の方に向き直る。
「これで良いですかー?内藤さーん?」
「・・・あ、あぁ」
さきほど、真壁と一緒に月城の発言に不意打ちを食らった内藤は、呆気にとられながら同意の返答を返す。
「ぶふっ、、ふ、、ふ!、ゔぅん、そ、そんじゃ!そろそろ始めようぜ、なっ!慎夜!」
あまり見ない内藤の様子に思わず笑ってしまった本郷が、笑いを堪えながら三神に会議の進行を促す。
「あぁ夜魅、報告を」
「了解です!三神様!!えー、結論から申しますとー、関西領と革命軍が繋がってるのは本当みたいですー」
三神からの指示に笑顔で報告を開始する月城。
「うへ、マジかよ」
「何か物的証拠が手に入ったのですか?」
月城から伝えられた悪報に本郷と内藤がそれぞれ反応を見せる。
「はいー。流石は資本主義の関西領ですー。革命軍との取引実績データも買えちゃうんですからー」
そう言いながら月城は胸元からUSBを取り出すと円卓に接続する。
すると三神たち三人の手元のディスプレイに関西領と革命軍が行なった、食料や資材の取引データが映し出された。
「これは、、」
「おー、よく手に入ったな、嬢ちゃん」
「関西領は雇われの傭兵さんとかも多いですからねー。お金さえ払えばー、何とでもなりますよー」
流し読みをしてデータの入手方法を月城に聞いてくる本郷とは違い、内藤はデータの隅から隅まで見落としが無いように確認する。
「取引の大半は食料と生活に必要な資材関連ですか。月城さん、他に獲られたデータはありませんか?」
「ここ一ヶ月では、それだけみたいですよー?」
「ふむ、、額面も多少ですが高い表記になっていますね」
「旦那、何が言いたいんだ?」
月城に確認を取りつつ、データを見て湧いた疑問を自己解決しかけている内藤に本郷が問いかける。
「いえ、このデータを見る限り、、」
「同盟ではなく、ただの取引相手に過ぎない。ですか?」
本郷の疑問に答えようとする内藤に割って入ったのは、今まで黙って成り行きを聞いていた三神だった。
「え、えぇ、その通りです。しかし、そうなると気になることが、」
内藤はそこで口を噤み、月城の方に視線を送る。
「えーとー、壊滅させた革命軍の基地に関西領の商品はなかったですよー?」
月城は内藤が言いたいことが分かったのか、言われる前に彼の問に答える。
「そうですか。では何故、、、」
「・・・」
「・・・」
「おいおい、俺だけ仲間外れかよ?誰か説明してくれ」
内藤、三神、月城の三人がそれぞれの思惑でだんまりを決め込んでいると、状況が読ま込めない本郷が声を上げる。
「あははー、簡単ですよー本郷さーん。要は何で関西領はー、革命軍と取引してるのかー?ってことですー」
「??アイツ等は四国とか九州とも商売してんだろ?そんくらい、何か気にすることか?」
「それは互いに利益を得られる関係だからです。ろくな財力を持たない革命軍と取引しても小銭稼ぎ程度にしか成りません」
本郷の言葉を内藤が否定し、月城がそれに続くように口を開く。
「つまりー、関西領はお金以外の目的で取引をしているってことですねー」
「金が命みたいな関西領が?なんだそりゃ?」
「情報、でしょうね」
そこで三神が確信を突く言葉を口にした。
「やはり、そうなりますか」
三神の発言に内藤は苦虫を噛み潰したような顔をしながら呟く。
「夜魅、何か用意しているんだろ?」
「??」
三神は内藤がその顔をするのを待っていたかのように月城に話を振る。
「あは!流石、三神様ですー!こちらをご覧下さーい!」
本郷がまだ状況を飲み込めていない中、月城は満面の笑みで円卓のパネルを操作してディスプレイの画像を切り替える。
「・・ほう」
「!こりゃ、」
「・・マズイですね」
手元のディスプレイを見た三人はそれぞれのリアクションを見せた。
三神は不敵な笑みをこぼし、本郷は純粋に驚き、内藤は想像していた以上の状況に焦りを覚えた。
「ご覧頂いた通りー、これはー、一週間前の出荷データでーす」
月城が言うように、ディスプレイに映し出されたのは関西領から出荷された商品と取引相手のリストだった。
「これって、あれだろ?ネズミ共の情報を利用して、他の領が欲しがってるものを売ったってことだろ?ヤバくねーか?」
問題なのは今まで四国領と九州領だけだった取引相手に中部領と東北領が加わっていることであり、さすがの本郷も状況を理解したのか慌てだす。
「東北領は電子機器の部品類、中部領は生成生物ですか。どちらも軍事利用可能な代物ですね」
三神の落ち着いた発言に内藤が興奮気味に反応する。
「落ち着いている場合ではありません!不戦中立を宣言している東北領はともかく、中部領と関西領に繋がりが出来たのは最悪と言ってもいい!」
「ネズミ共を掃除しちまった俺たちには取引の話が来てねーんだろ!?」
お互いの発言が相乗効果となり更に慌てだす内藤と本郷。
「やはり、革命軍を潰すのは早計だったのです!取引相手にならない我々は関西領にとっては敵対勢力でしかない!」
「中部領と組んで本格的に攻めて来るかもな、、」
「どう責任を取るつもりですか!?三神さん!」
複数の領との全面戦争。
その未来に現実味を得た内藤は、関東領の革命軍を排除した三神に責任を求める。
「責任、ですか。ではお聞きしますが、内藤さんは我々の内部情報を関西領に渡すべきだったと?」
「うっ、そ、それは、、」
「それに物資の取引をしたとしても、あの中部領が他領に下ったり、共闘するとは思えません」
「それにー、関西領は中国領と絶賛戦争中ですよー??」
言葉を詰まらせた内藤に三神と月城は畳み掛けるように関西領と中部領の共闘の否定材料を提言する。
「うーん、でもよー?実際、無視は出来ねぇだろ?何かしら手を打たねーと」
三神と内藤の言い合いを見て少し落ち着きを取り戻したのか、本郷が意見する。
「そうですね。実は今後の方針について思いついたことがありまして、お二人に意見を求めたいのですが」
「??」
「??」
革命軍の排除など基本的に、相談もなく即断決行、事後報告の三神から意見を求められた二人は、疑問と不安を感じながら首を傾げた。
政務庁・一階ロビー
会議室を追い出されたあと真壁は特にする事もなくロビーで月城を待っていた。
「おぉ!嬢ちゃんの彼氏じゃねーか!」
「??」
ソファに座っていた真壁は少し前に自分が歩いて来た通路から声をかけられ立ち上がる。
「さっきは悪かったな。追い出すみたいになっちまってよ」
気さくに話しかけてくるのは軍事庁長官の本郷だった。
「いえ、自分が居ても会議の役には立てなかったと思いますので。それと、彼女とは仕事上の関係でしかありませんので」
「はっはっ!そうか、そうか!まっ色々と頑張れや!」
そう言いながら本郷は真壁の肩を軽く叩き政務庁を後にした。
「いや、ですから!、、、はぁ、、、っ!」
何か誤解をしたまま去る本郷に、訂正するのを諦めて振り返った真壁の視界に財務庁長官の内藤が映った。
「・・・」
「・・・(ペコリ)」
内藤は特に話しかけることもなく真壁の前を通り過ぎ、彼の後ろを付いて歩く女性軍人も会釈だけして去っていった。
「あっ!おーい、雅人さーん!」
「!・・おぉ、会議は終わったのか?」
内藤が去ったあとすぐに月城と三神がやって来た。
「はい!お待たせしましたー」
「そうか、なら行こう」
「あ、待ってくださいよー。三神様からお話がありますのでー」
「・・・」
月城と合流した真壁は、すぐにその場を立ち去るため出口に向かおうとするが、呼び止められてしまい、仕方なく、ゆっくりと振り向いた。
「お久しぶりですね真壁さん。随分とお若くなられたようで」
「あぁ、お陰さまでな。三神」
会議の時よりも砕けた雰囲気で話す三神に対して真壁は素っ気ない態度で返す。
「おや?以前のように名前で呼んではもらえないのですか?」
「今はお前の部下のような立場だからな。それで、何の用だ?」
「そうですか残念です。いえ、夜魅を送るついでに挨拶をしようと思っただけですよ」
月城はそう言いながら月城の頭を左手で優しく撫でる。
「もぅー、三神様ったらー!」
嬉しそうにする月城と、その姿を微笑ましそうに見つめる三神を見て真壁は、言いようのない不快感を覚えた。
「・・・お前はまたそうやって、、」
「??どうかしましたかー?雅人さーん?」
「いや、何でもない」
思わず呟いてしまった言葉は月城には聞こえなかったようで、真壁は彼女の問いかけになるべく平静を装う。
「夜魅にはまた重要な任務を任せていますから、サポートをお願いしますね」
「あぁ、全力を尽すさ」
「まっかせて下さーい!三神さま!しっかりと、やり遂げて見せまーす!!」
「頼んだよ夜魅。では、私はまだ仕事がありますから、これで失礼します」
月城の頭から手を離した三神は改めて真壁の方を向くと別れの言葉を告げて去っていった。
「・・・・」
真壁はその姿を両手で作った拳を震わせながら見送るのだった。
→第三章・二話【得位能力】




