2-4 無能と呼ばれた者達
中部領・高山市 裏市場・最下層
深夜0時、真壁は一人で研究施設へと繋がる扉の前に立っていた。
(「近々、大きな実験をするみたいでー、福田玄治さんは自分の研究部屋にこもりっぱなしらしいですー。私は別ルートから潜入しますからー、先に見つけたら捕まえておいて下さーい!」)
「はぁ、」
月城が分かれる前に言っていたことを思い出し、ため息を吐く真壁。
「(まさか初仕事が中部領幹部の暗殺とはな)」
扉を開き、先の通路を進む真壁は警戒しながらも月城のことを考える。
「(暫く行動を共にしたが分からないことだらけだ)」
月城が真壁を捕える際に、自分の能力を特位能力と話していた。
しかしその後、彼女は能力についての話題は避け続けている。
「(小夜の為にも情報は多いに越したことはないんだが、、!!)」
妹のことを思い浮かべていた真壁は、通路の先から聞こえる微かな足音に気づき動きを止める。
「(気づかれたか?、、、それにしては数が少ないな)」
侵入に気づいた軍の人間が駆けつけたのかと思った真壁だが、聞える足音が一人分なことを確認し、隠れられる場所が無いか辺りを見渡す。
しかし、部屋がある訳でもなく通路自体も狭いため真壁は隠れることを諦めて臨戦態勢に入る。
「(・・・ただの研究員とかだと助かるんだかな)」
相手が軍人の類では無いことを祈る真壁の元に徐々に近づく足音の主。
その姿を真壁の視覚が捉えたとき、彼の祈りは意外な形で叶うこととなった。
「グギギッ」
「なん、だ、?」
姿を表したのは人の形をした黒い化物。
二本の足で立ち、両腕を垂らしながら、目や口は無いが顔を真壁の方に向けているように見える。
「グギ、グ、、、ギャアアア!!!」
数秒、お互いに様子を伺っていると化物は突如、鼓膜を割くような奇声を上げて真壁に襲いかかる。
「っ!!」
視界から消えるほどの速さで距離を詰めると、頭部が口のように裂け、そのまま真壁の肩に噛み付こうする。
「グゲッ」
しかし真壁は自身の能力によって強化された瞬発力で後方に飛んで躱す。
化物の頭部は何も捕えられず唸り声を上げた。
「(速さは異常だが、知能は低いようだな)」
真壁は化物を観察しながら両手で拳を作り、能力で改めて動体視力や腕の筋力、握力などを高めて臨戦態勢に入る。
「グゲゲ?」
化物は真壁を捉えられなかったことを不思議そうに頭部を傾げながら、正面にいる獲物を眺めている。
「グガァァーーーー!!!」
獲物に避けられたことを理解したのか、臨戦態勢をとった真壁と対峙して数秒、化物は再び奇声を上げながら彼に迫る。
「・・・」
先ほどと同じように真壁の視界から消えた化物は同じように彼の前に姿を現すと、大きく頭部を開いて襲いかかる。
「グゥッ⁉」
すると真壁は化物が目の前に現れると同時に左手の拳を解きながら前に伸ばし、そのまま相手の頭部をアイアンクローの要領で掴んで捕える。
「やはり同じ動きをしてきたか、、フッン!!」
「グヴッ!!!」
頭部を捕えた真壁は化物の体全体を一瞥してから、そのまま後頭部を壁に叩きつけた。
「....」
化物の頭部は意外と脆く、果実を落とした時のように黒い液体を流しながら半壊してしまう。
手を離すと同時に崩れ落ちた化物は、そのまま動き出す様子もなく床に転がっていた。
「・・・頭部が弱点で合っていたか」
思いもよらない敵の出現に、咄嗟の判断で行なった対処が成功したことに安堵した真壁は思わず声を漏らす。
「(これを創った異能者は、だいぶ趣味が悪いな)」
化物の死体を眺めながら真壁は生みの親であろう生成能力の異能者に対して不快感を覚えた。
「(しかしマズイな。侵入がバレた可能性が高い以上、引き返すか?)」
こんな化物が襲ってきたことから自分の潜入が敵側に察知されたと考えた真壁は今後の行動について思案する。
「(退却するにしても出口が一つしか無い以上、待ち伏せの危険がある)」
真壁が判断を迷っていた、その時。
真壁の首筋に向って一筋の光が勢いよく迫ってきた。
「っ!」
「!!、、ほう。まさか気付かれるとはな」
高めていた身体能力をまだ戻していなかった真壁は、偶然にも視界の隅に自分の首に近づく刃物を捉えたことで間一髪で体を引き、躱すことに成功する。
「新手か」
攻撃をかわされると同時に後方へ大きく飛んで体制を立て直す、黒尽くめの相手を見て真壁が呟く。
「私はお前の死体とソレを片付けに来たつもりだったんだが」
声色から男と思われる刺客は、真壁の声が聞こえたのか化物を指さしながら答えた。
「それは悪かったな。なんなら見逃してもらえると助かるんだか」
「それは出来んな。面倒ではあるが私が対処しよう」
月城の性格が伝染ったのか、珍しく軽口を叩く真壁を無視するように黒尽くめの男は、握っていたナイフをしまうと、腰から下げていた小太刀を手を掛けた。
高山市 能力研究施設・実験室
真壁が一人、地下通路で化物と遭遇していた頃、別ルートから侵入した月城は既に目的の研究施設に辿り着いていた。
「もぉー!ハズレじゃないですかぁー!!」
敵地のど真ん中に居るにも関わらず大声で叫ぶ月城の足元には一体の死体が転がっていた。
「こんな目、貰っても役に立たないですよー!!」
既に生命機能を停止している老人の襟元を掴み上げ、前後に揺さぶりながら不満をぶつける月城。
彼女が中部領に潜入した目的は中部五官の一人である異能官・福田玄治の能力を奪うためだった。
「情報では全ての異能を見通す上位の強化能力って聞いてたのにー!!!」
イライラが収まらない月城は更に激しく、福田の死体を揺さぶる。
「こんな、属性が分かるだけの力、いーらーなーいーですー」
事前に中部領に送り込んでいた部下からの報告では、福田は異能者を見るだけで詳細な能力内容を把握するという、強化能力を持っていると聞いていた。
しかし実際に福田を殺し、能力を奪ってみれば強化・干渉・生成といった三種類の内、どの属性かが分かるという中位程度の力でしか無かったのだ。
「もぅ!とんだ無駄足ですよー。仕方ないですねー、雅人さんと合流しますかー」
ある程度の鬱憤は晴れたのか、死体を床に投げ捨てると月城はそのまま実験室をあとにする。
「雅人さん、どうなりましたかねー?流石に死んでは無いとは思いますけどー」
真壁が今現在陥っている状況が分かっているかのようなセリフを吐く月城。
その様子を想像したのか彼女の表情に笑みが戻っていた。
「私が行くまで、楽しみは取っておいて下さいねー!」
先ほどとは打って変わり、楽しそうな月城がスキップ気味で進む研究施設の廊下には、老若男女様々な白衣を着た青紫色の死体が複数転がっていた。
能力研究施設・新旧連絡通路
「何故、躱せる?完全に死角を突いているはずだ」
「はぁ、はぁ、、ふぅ。さぁな?偶然じゃないか?」
真壁が初激を交わしてから数分、黒尽くめの男は幾度となく首筋や心臓を的確に攻めているにも関わらず、未だその攻撃はターゲットを捉えていなかった。
「(しかし、そろそろ限界だな。どうするか?)」
相手の攻撃はまるで、意識の外から放たれているかのように、どれだけ警戒してきても小太刀が急所に達する直前まで察知することが出来ない。
そんな相手に対して、こちらの拳や蹴りが当たる訳もなく真壁は反射神経や動体視力の強化にのみ集中することで何とか凌いでいたが、その状態を維持するのにも限界が近づいていた。
「・・・お前、本当に異能者か?」
真壁が必死に攻撃を躱す中、不意に相手からそんな疑問が飛んでくる。
「はぁ、はぁ、、どういう、意味だ?」
息を整えながら真壁は、時間を稼ぐために相手の話に返事を返す。
「(そもそも異能者だなんて言った覚えは無いがな。まぁ、アレを倒した時点で無能者では無いか)」
心の中で呟きながら真壁が一瞬、化物の死体に視線を送ると黒尽くめの男は話を進めた。
「戦い方が不自然だ。俺の攻撃を躱せるだけの力を持ちながら、何故反撃に転じない?」
「??言ってる意味がよく分からん。躱すので精一杯だとは考えないのか?」
真壁の発言は自分の力量をバラすも同然だったが、黒尽くめの男はそんなことは気にも止めずに言葉を返してくる。
「その考え自体が不自然だ。異能者とは自身の能力に依存する生き物、躱せる攻撃をしてくる相手に対して反撃を試みるのは当然の心理のはずだ」
「それってー、異能者というよりー、戦闘民族の考え方ですねー」
「「!?」」
黒尽くめの男に言葉を返したのは、突如真壁の後ろに現れた月城だった。
突然現れた相方に真壁も思わず振り向く。
「月城!どうして此処に」
「えー?そんなのー、雅人さんが心配だったからに決まってるじゃないですかー」
誰が見ても満点を出しそうな造り笑いをしながら答える月城を見て、真壁の緊張の糸が少しだけ緩む。
「おっと!危ないですよー雅人さーん」
『装着承認:甲龍の翼』
「っ!」
真壁の油断を見逃さずに小太刀を突きつけてくる相手の攻撃は、月城が背中から生やした甲鉄の様に硬い翼によって遮られる。
「すまん、助かった」
「明日のご飯は期待してますねー」
黒尽くめの男が再び距離を取ったのを確認しながら月城に礼を言う真壁。
「増援、ではなくお前が本命か。貴様ら何者だ?」
何故か小太刀を鞘に収めながら問いかけてくる相手に、月城が挑発気味に答える。
「あれー?もう攻撃してこないんですかー?中部最強もこの程度なんですかねー??」
「は?中部最強だと?」
月城の言葉に反応したのは黒尽くめの男、黒田弦ではなく真壁だった。
「あれ?雅人さん気づいてなかったんですかー?この人、中部最強で有名な諜報官の黒田弦さんですよー?」
「・・・まさか、こいつが来るのを分かってて別行動にしたのか?」
「えー?なんのことでしょうー?」
「お前、」
「俺のことはどうでもいい。貴様らの正体と目的を明かせ」
月城の挑発や、真壁との言い合いを気にも止めずに黒田は疑問をぶつけてくる。
「もぅー、邪魔しないでくださいよー。今は雅人さんをからかって楽しんでるんですからー」
「なっ!今が、そんな場合かっ!」
「えぇー、雅人さんまでー。まぁー良いですけどー。えーと、私が月城夜魅でー、こちらが真壁雅人さんでーす。目的はー、もう終わってるんでそのうち、報告が来るんじゃないですかー?」
「!?」
「おい!なに本名を明かして、、って、目的を果たしただと?」
「そうだ!聞いてくださいよー!せっかく奪ったのに、全然欲しかったのと違ったんですよー!!」
怒りが再燃したのか、黒田を無視して真壁に愚痴をぶつける月城。
「ま、待て!今はそれどころじゃ、」
翼も生やしたまま掴みかかってくる月城を抑えながら、黒田を警戒して視線を送ると真壁は異変に気がついた。
「ちょっと!雅人さん!話聞いて、」
「月城、様子がおかしいぞ」
「・・・うそ、なんで?真壁って、、でも、え?そんな、、、」
真壁に言われ月城が黒田の方を見ると、そこには先程までの一切スキを見せない強者の姿はなく、現実を受け止められない若者の様にアタフタとする中部最強の姿があった。
「おやー?おやおやー?」
『変更承認:ブーストアーマー』
明らかに正常ではない黒田を見た月城は、楽しそうに悪意のある笑みを浮かべながら、以前見せた移動特化の武装を纏い、彼に近づく。
「ッ!?」
次に月城の姿が現れたのは両手で頭を抱えている黒田の目の前だった。
流石に目前に敵が現れたことには気づいた黒田は急いで距離を取ろうとする。
『変更承認:巨人の拳』
「ダーメ、ですよー」
「ぐっ、」
しかし月城がそれを許すはずも無く、左手を巨大な鉄の拳に創り変えるとそのまま手を開いて黒田を捕まえる。
「(凄いな、様子がおかしいとはいえ、奴をこうも簡単に捕らえるとは)」
「うーん。やっぱり変ですねー?貴方本当に、あの黒田弦さんですかー?」
先ほどの一部始終を見ていた真壁が改めて月城の戦闘能力に関心していると、彼女は何かを疑問に思ったのか黒田に問いかける。
「・・・何が言いたい?」
「さっき奪った福田玄治さんの能力でー、貴方を見てるんですけどー?能力の種類が分からないんですよねー」
「「は?」」
月城の言葉に反応する2つの声。
一人は捕らえている黒田から、もう一人は後ろでジッと月城たちを見ている真壁からだった。
「能力を、奪った、?福田殿の??」
「あっ!その辺は雅人さんの時に説明してるんでー、省きますねー!」
「おい!月城ー!」
月城の謎発言を無視して真壁は彼女に声をかける。
「!、、、真壁さん」
「なんですかー?雅人さーん!」
「欲しかった能力は手に入らなかったんじゃないのか?」
「・・・」
一度は真壁の方を向いた月城だが彼が疑問を口にしている時には既に、黒田の方に視線を向けていた。
「・・?おい、つき、」
「ごめんなさーい!雅人さん。ちょっと待ってて下さいねー」
今度は振り返りもせずに真壁にそう告げる月城の顔には再び、悪意ある笑みが浮かび上がっていた。
「ぐっ、」
「あなたー、もしかして雅人さんとー、お知り合いなんですかー?」
真壁に待機を告げると同時に月城は黒田を自分の顔のすぐ側まで引き寄せ、意外な言葉を口にした。
「なっ!?」
「やっぱりそうなんですねー!!」
「ちが、私は!!」
「わ、た、し、はー、何ですかー??」
「ひっ!!」
後ろ姿しか見えない真壁には分からないが、問いかける月城の笑顔がは更に邪悪なモノとなり、直視している黒田は冷静さは完全に消失していまった。
「これは本当に、、」
月城が確信に迫る言葉を口にしようとした時、通路全体に激しい警報音が鳴り響く。
「「!?!」」
「ざーんねーん。時間切れみたいですねー」
「きゃっ!」
警報音を聞いた月城は何かを諦めたような表情を見せると、黒田を見えなくなるほど遠くまで投げ飛ばした。
「雅人さーん、ずらかりますよー!」
「お、おい」
裏市場最下層の出入口に向って走る月城について行くかたちで真壁も走り出す。
「ところで雅人さん?」
「何だ?」
追いついた真壁を見ると月城が問いかける。
「中部領には革命軍の人たちって居ないんですかー?」
「!」
月城の口から革命軍という単語が出たことで複雑な感情に襲われた真壁。
「??どうかしましたかー?」
しかし、明らかにとボケた様子の月城を見た真壁は一度頭を振ってから返答する。
「いや、、居るとは思うが、詳細については本部に行かないと分からないな」
「えぇー、雅人さんでも、ですかー?」
「知っていて言ってるんだろ?趣味が悪いぞ」
真壁の返答に対して含みのある言葉を返す月城に彼は特に嫌な顔せずに返す。
「あははー。なんの事でしょうー?それより急ぎましょうー!」
すると月城は話は終了とばかりに速度を上げて走り出した。
??領 革命軍本部・中部領対策室
とある領内に存在する革命軍本部の一室、中部領対策室には必要最低限の生活用品と部屋の中心に大きなソファだけが置かれていた。
そんな部屋のソファに腰をかける、学生服を着た瓜二つな二人の少女。
一人は太ももに乗せたノートパソコンをイジり、もう一人はパソコンとケーブルで繋がれたヘッドギアを着けながら横になって眠っている。
「きゃぁぁ!!」
「!?大丈夫、蛍??」
パソコンを操作する音だけが聞こえていた静かな部屋に、横になっていた蛍と呼ばれた少女【無能者:黒田蛍】の悲鳴が鳴り響く。
「はぁ、はぁ。う、うん。ありがとう燿」
「何があったの?」
燿と呼ばれた少女【異能者:黒田燿】は蛍のヘッドギアを外すと、ハンカチを取り出して彼女の汗を拭き取る。
「ま、真壁さんが、、」
「えっ?真壁さんってあの?」
「う、うん。真壁さんが居たの」
汗を拭いてもらった蛍は服の乱れを直しながら起き上がり、ソファに腰をかける。
「でも、蛍。真壁さんは行方不明なんじゃ?」
「た、確かに見た目は、少しだけ、違ったけど、、」
「他人の空似じゃない?関東領から逃げるにしても中部領に行くとは思えないし」
ハンカチを仕舞いながら燿は再びパソコンを太ももの上に乗せて何かのソフトを開く。
「う、うん、そう、だよね?」
「それで?まさか、真壁さんのソックリさんを見つけたからって接続切れちゃった訳じゃ無いんでしょ?」
「えっと、古い通路に、侵入してきた人が、いて、迎撃、したんだけど、、」
「侵入者?、、、あっこれか!」
蛍の話を聞きながらパソコンを操作していた燿は、画面に映る画像に反応する。
そこには中部領の地下通路で戦闘を繰り広げる真壁、その後現れた月城の姿が映っていた。
「そう、その人に、投げられて、、」
「うーんこの女の人、何処かで?、、、あっ、やば!」
「?燿、どうしたの?」
真壁よりも月城に興味を惹かれていた燿が突然焦りだす。
「伊藤が探してるわ!蛍、大丈夫?」
パソコンの画面右上に映し出させているリアルタイムの映像に伊藤の姿が映っていた。
「うん、大丈夫だよ、燿」
蛍はそう言うと再びヘッドギアを装着して横になる。
「ごめんね、私がこんな能力なせいで」
「気にしないで、私には、こんな事しか、出来ないから」
燿の元気のない言葉に返事をすると、蛍は再び瞳を閉じてゆっくりと意識を沈めていった。
→第三章・一話【再会】




