2-2 中部最強
中部領・松本市 飲食街
関西領に向かう途中、中部領松本市で宿をとった月城と真壁は夕食のためにとある居酒屋に来ていた。
「月城。この街おかしくないか?」
「うぅーん?何がですかー、、、あっ!このピザ美味しー!!」
白ワインと一緒に注文したシフードピザが気に入ったのか月城は上機嫌にピザを頬張る。
「なんと言えばいいのか活気が無いと言うか、街全体が何かに怯えているような」
「そりゃー高山市が近いですからねー、、あっ雅人さんのピザも食べて良いですか?」
確認を取りつつも既に真壁が注文したマルゲリータを手にしている月城。
「高山市は中部領の中核だろ?普通ならもっと賑わってもよさそうだが」
そう言いながら、このままでは全て月城の食べられてしまいそうなピザを真壁も手にする。
「うん!こっちも美味しですねー!」
「お前なぁ、少しは落ち着いて、、」
次から次へと二皿分のピザを口に運ぶ月城を真壁が注意しようとした時、出入口の方から慌ただしい声が聞こえてきた。
「店主はどこだ!」
甲冑を着た兵士二人連れたスーツ姿の男性が店に入るなり大声で叫ぶ。
「何だ??」
「だーめですよー。雅人さーん」
真壁たちが居たのは店の奥側の席、出入口からは若干死角になる位置だった。
そのため真壁は様子を見るため立ち上がろうとしたが、対面に居たはずの月城がいつの間にか隣に座り、がっちり腕を彼の左腕に絡めてきていた。
「お、おい何を、」
「しぃー。ですよー」
腕を解こうとする真壁に対して月城はそれを許さず更に密着し、人差し指で彼の唇に触れる。
「・・・・」
すると真壁は身動きが取れなくなり心の中で、この指示に従わなければならないことを理解した。
「お、お待たせ致しました!私が店主の相田でございます、」
従業員に呼ばれたのか、慌てた様子で店主の中年男性が従業員室から現れる。
「私は選別戦委員会役員の坂木だ。この店に相田凛という従業員はいるな?」
選別委員会、スーツ姿の男性がその名を出すと他の客がざわめき出した。
「た、たしかに娘は、ここで、働いていますが、、」
「彼女には能力詐称の疑いがある。連れてきてくれ」
歯切れの悪い店主に対して坂木は淡々と話を進める。
「そ、そんな!何か、何かの間違いです!!」
「それを判断するのは私ではない。連行した後、能力の確認を行い然るべき対応をする」
「待ってください!娘を連れて行かれたら、」
「これ以上は妨害行為とみなし貴様も捕縛するぞ」
坂木の言葉と共に後ろで控えていた二人の兵士が前に出る。
「っ!、、、」
「・・・お父さん」
兵士に威圧された店主が声が出せないでいると、従業員室から一人の女性が姿を見せる。
「凛!」
「彼女が相田凛か。確保しろ」
目標を確認した坂木が指示を出すと、彼女はすぐさま兵士に捕まってしまう。
「痛っ!」
「や、止めてくれ!!」
兵士に力ずくで部屋から連れ出される娘を見た、店主は慌てて兵士に立ち向かう。
「さーて、行きましょうかー」
「・・・お、おい」
兵士に掴みかかる店主が坂木たちの注意を引いている間に月城は真壁を連れて外へと出る。
真壁は何か言いたげにしながらも、そのまま月城と一緒に宿へと戻って行った。
松本市 ホテル室内
「それで、何だあれは?」
「ありゃ?もう正気に戻っちゃいましたかー?」
部屋に入るとすぐに真壁が月城に居酒屋での出来事について質問するが、彼女は惚けた態度で接する。
「おい月城、」
「分かってますよー。でもあんなの中部領では日常茶飯事なんですよー?」
真壁の真面目な表情を見て月城は、はぐらかすのを諦めて話を進めだす。
「選別戦委員会とか言っていたが、奴らは何者なんだ?」
「私も詳しくは知らないですけどー、中部では定期的に異能者同士の決闘が行われるんですよー。それを仕切ってるのが選別戦委員会の人たちみたいですねー」
話しながら月城は上着をハンガーに掛けてワイシャツのボタンを外しながら、ソファに腰を下ろした。
「異能者同士の決闘、、、選別戦と言うなら勝者を軍に引き抜くために行っているのか?、、しかし彼女は罪に問われているようすだったが、、」
逆に真壁は入口に立ったまま、その場で選抜戦委員会について考え込んでしまう。
「まぁー、気にしないほうがいいですよー。私達には関係ないですからねぇ」
そんな真壁の様子を伺いながら月城はスカートを緩めてタイツを脱ぎ始め、黒い布の中から白い肌が露わになる。
「だが、数日は中部領で動くのだろう?」
真壁が何を考えているのか、それが分かっている月城はいつも以上に官能的になった姿のまま彼に近寄って行く。
「そうですけどー、雅人さんは優し過ぎますからねー。あんまり余計なことは知らないほうが良いんですよー」
「なっ、、」
ほぼセロ距離の位置で放たれたその言葉は、真壁をからかっている訳でも挑発している訳でもなかった。
「中部領は関東以上に実力社会ですからねー。弱者の扱いは本当、えげつないですよー」
「・・・はぁ、お前がそれを言うか」
ただただ、共に仕事をする相手としての気遣いの言葉だと理解した真壁は強張った表情を解き、彼女をかわして先程まで月城が腰掛けていたソファに向かう。
「あははー、それもそうですねー。じゃ、私はシャワー浴びてきますんで、雅人さんもゆっくり休んで下さいねー」
真壁の皮肉を受け流すと月城はそのまま備え付けのシャワーブースに姿を消した。
「(・・・そうだ、俺はただ小夜の安全だけを考えていればいい)」
ソファに体を預けて天井を見上げる真壁は、義勇軍代表を務める妹の姿を思い浮かべる。
「・・・・・小夜、今度こそ守ってやるからな」
高山市 闘技場観戦室
松本市の居酒屋で一人の女性が捕縛させている頃、近衛官の伊藤は夜通しで改築工事が行われている闘技場の視察に訪れていた。
「この調子なら、間に合いそうですね」
「えぇ!兄貴の指示した仕掛けもバッチリですよ」
伊藤の隣で工事の様子を眺め彼のことを兄貴と呼ぶ、首にヘッドホンをぶら下げてワイシャツの上にパーカーを羽織った茶髪の青年、【異能者︰安倍勇ニ】は得意げに返事をする。
「急にすみませんでした、安倍さん。実験を行うにはどうしても必要だったもので」
福田発案の実験を行うため、伊藤は選別戦を管理する軍部官の安倍に闘技場の改築を依頼していた。
「なーに言ってんすか!兄貴と俺の仲じゃないですか。それに、これだけ早く動けたのは彼女のおかげですしね」
「そういえば、小泉さんは?」
今回の工事は次回の選別戦が行われる二週間後までに完了しなければいけなかったため、迅速な対応が求められた。
そこで安倍の提案により、もう一人とある女性に協力してもらっていた。
「安倍さん、すみません。当日の人員配置ですが、、、」
伊藤が部屋を見渡すと、ちょうど探していた女性がドアを開けて観戦室に入ってくる。
「小泉さん。お疲れ様です」
「ッ!?、、いい、伊藤さん!?いらっしゃってたのですか!?」
伊藤を見るなり素っ頓狂な声を上げ、コレでもかと言うくらい背筋を伸ばすのは、スーツ姿の小柄なショートヘアの内気そうな女性【異能者︰小泉承子】
これでも中部五官と呼ばれ内務官としての仕事をこなす人物であり、中学生と言われても疑われないような幼い外見だが、伊藤や安倍と同年代の二十代半ばの立派に成人した大人である。
「え、えぇ。先ほど到着したのですが、」
「あはは!小泉は相変わらず兄貴に免疫無いのな」
「ち、違います!安倍さん!変なこと言わないでください。すみません、伊藤さん、、」
安倍にからかわれ顔を真っ赤にしながら小泉はゆっくりと二人の側へと歩み寄り、安倍に選抜戦当日についての資料を手渡す。
「いえ、それよりも今回はご協力頂きありがとうございました」
「そんな!領内の施設管理は私の仕事ですから」
「でも、複数人同時の選抜戦なんて思い切りましたね」
安倍が小泉から受け取った資料を確認しながら感想を漏らす。
「たしか、福田さんの発案なんですよね?大丈夫でしょうか?」
福田は優秀な人材ではあるが人格が多少歪んでしまっている、俗に言うマッドサイエンティストであるため、小泉は実験の被検体とも言える伊藤の身を按じていた。
「あの人、かなり変わってるからなー。・・・変わっていると言えば最近、黒田の野郎見掛けませんね?」
小泉に資料を返しながら福田のことを思い浮かべた安倍は、中部五官最後の一人である男性の名前を上げた。
「私がどうかしたか?」
「うわぁ!?」
「きゃっ!?」
小泉が資料を受け取ると同時に、突如三人の背後に黒ずくめの、忍者のような格好をした人物【異能者︰黒田弦】が現れた。
「いきなり現れるなよ!黒田!」
「ビックリしました」
「・・・伊藤さん、報告しても良いだろうか」
黒田の登場の仕方に抗議の声を上げる安倍と一瞬目を合わせた黒田は、それを無視して伊藤に話しかける。
「無視すんな!!」
「伊藤さん、黒田さんに何か頼んでいたんですか?」
「えぇ、すみません。先に伝えておけば良かったですね」
「いえ、伊藤さんに非はありません。私の気配も察知できない安倍が悪いんですよ」
「無茶言うな!お前の能力が意味わかんねえーんだよ!てか何で俺だけなんだよ!小泉も驚いてたじゃねーかよ!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて下さい安倍さん。黒田さんは中部最強と呼ばれるくらいの方なんですから、仕方ないですよ」
何が仕方ないのかは分からないが、興奮気味の安倍を小泉がなだめる。
「黒田さんもあまり安倍さんを挑発しないで下さい。それで対象者たちの様子はどうでした?」
安倍と睨み合っていた黒田も伊藤に注意され、本来の目的である調査報告を始める。
「失礼しました。特に問題ありませんでした。殆どの者が失意の中でしたので徒党を組んで反乱ということも無いでしょう。こちらが各個人の資料になります」
「そうですか。ありがとうございます、助かりました」
「いえ、では私はこれで失礼します」
伊藤が資料を受け取ると同時に、黒田は軽く頭を下げて短い挨拶を済ませると三人の前から姿を消した。
「相変わらず、どんな能力使ってんだか」
先ほどまで黒田の居た場所を見つめながら安倍はボソッと呟く。
諜報官を務める黒田については同じ中部五官である安倍たちにも詳しくは知らされていない。
「伊藤さんは内戦時代からご一緒なんですよね?」
「えぇ、しかし私が雅様に使えさせて頂く前から片腕として尽力されていたので詳しいことは」
中部は内戦時代に強力なテログループが複数存在した地域の一つであり、当時は政府との戦闘以外にも各グループが争い合っていた。
しかし中部を支配する最有力候補と言われていたグループ内でリーダーが暗殺されるという事件が発生した。
「わざわざ、陛下に聞くわけにもいかないですしねぇ」
その事件を起こしたのが現在の中部を治める兒玉雅と諜報官の黒田であり、リーダーを暗殺後二人は敵対勢力を次々と排除していき数日で中部の実権を手に入れた。
さらに途中で他のグループに所属していた伊藤と福田を引き入れ、中部領設立後に兒玉から能力を買われた安倍と小泉を加えて現在の体制が創られたため同格の地位であっても多少の精神的な壁は存在していた。
「噂では黒田さん、内戦時代に一度も相手の攻撃を受けなかったらしいですよ?」
「うへぇ、なんだそりゃ」
「確かに黒田さんが負傷されたという話は聞いたことが無いですね。・・・安倍さん、軍部官としては聞き捨てならないのでは無いですか?」
「ちょ!兄貴勘弁してくださいよー」
「あははっ」
伊藤が安倍をからかう様な発言をしたことで三人の間に穏やかな空気が流れた。
しかし、伊藤たちは知る由もなかった。
黒たが伊藤たちの前から去った後、彼の手によって闘技場の改築工事を行なっていた男性の一人が葬られていたことなど。
高山市 ホテル室内シャワーブース
「!、、あちゃー」
同室の男性のことなどお構いなしに悠々とシャワーを浴びていた月城は思わず声を漏らしてしまった。
「(殺られちゃいましたかー。まさか諜報官さんが戻ってるとは、参りましたねー)」
中部領に潜伏していた部下からの、能力よる思念伝達が途絶える直前の出来事を思い返す月城。
「(能力も全く分かりませんでしたし、たしか昨日までは四国領にいた筈なんですけどねー)」
まだ見ぬ強敵のことを考える月城の表情は心底楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「(流石、中部最強の異名は伊達じゃありませんねー。うーん、雅人さんは大丈夫でしょうか?)」
妹の安全を人質にして協力させている男性は、意識を回復してから驚くほど月城に対して友好的に接してきている。
能力によって絶対服従の関係が成り立っているとはいえ、人格までは変えられないので真壁の行動は月城にとっても意外なものだった。
「(何を企んでるのか分かりませんがー、ここで死んじゃったら元も子もないので、頑張ってくださいねぇー、雅人さーん!)」
近い未来、元無能者と中部最強が自分の目の前で死闘を繰り広げる。
思い描いたその光景に心躍らせながら、月城はシャワーを浴び続けるのだった。
→第二章・三話【接触】




