3-4 試される力
中国領・麌本家 権次自室
策真から関東領との同盟についての話を聞いた後、権次は一人、自室で布団に横になりながら今後の対応について考えていた。
そんな権次のもとに、部屋に響くノック音が伝わってきた。
「権次様。香華様とお客様がご到着されました」
聞き覚えのある可愛らしい声は麌家の使用人を束ねる女性のものだった。
「あぁ、分かった」
権次が短く返事をすると堂河内が部屋から離れていく足音が聞こえてくる。
「(さて、どんな人物か)」
「不安そうにだなご主人」
体を起こしながら心の中で呟いた権次に、何もない空間から声がかかる。
「土虎。戻ってたのか」
しかし権次は驚く様子もなく、声の主に話しかける。
「おう。それより気をつけな。お客人、俺に気づいてやがったぜ」
「・・・そうか。悪いが引き続き香華を頼む」
未だに姿の見えない相手からの情報に、権次は少しだけ顔を顰める。
「あいよ。風の、ご主人は頼んだぞ」
「・・・」
声の主は最後に、権次以外の誰かに声をかけると、そのままを気配を消したのだった。
権次もそれに続くかたちで自室を出て、彼を待つ者たちの元へ向かうのだった。
麌本家・大広間
先程まで策真たち四人が居た大広間の中央には現在、五対ニの構図でそれぞれの領メンバーが向かい合い座っている。
上手の中国領側は中央を開けてその左右に策真と香華が、彼らの後ろには堂河内、林田、滝川が控える。
下手の関東領には月城と真壁が並んで座り、皆が権次の到着を待っていた。
「なんだかソワソワしますねー」
「・・・」
「あれー?雅人さーん?聞いてますー?」
言葉とは裏腹に緊張など全くしていない様子の月城は、いたずらっぽく真壁の頬を突く。
「はっはっ!関東の使者様は愉快だねぇ」
「そうなんですよ策真兄様。夜魅さん達ったらいつも楽しそうで、本当に羨ましい限りです」
大声で笑う策真に香華は、二人を本家まで連れてきた道中を思い返しながら楽しそうに策真に語る。
「もー姫様ったら褒め過ぎですよー」
「ねぇねぇ、何かもう意気投合しちゃってない?」
月城たちの様子を見ていた滝川が林田と堂河内に小声で話しかける。
「だな、なんか拍子抜けだぜ。でも連れの方は難儀だな」
「・・・」
「そうですね。少し心配になるくらいです」
「えっ?何が?」
「おま、わかんだろフツー。ありゃそうとう尻に引かれてるぜ」
「そうかしら?何だかんだ楽しそうじゃない?」
「あの方を見てそのような、魯々様さすがです」
「えぇー!?周さんまでコイツと同じこと言うんですか?」
真壁以外がそれぞれの会話に花を咲かせていたところ、待ち人の登場によって談笑は唐突に終わりを迎えた。
「お待たせしました」
言葉とは裏腹にゆっくりとした動作で襖を開けて大広間に入る権次の行動には相手に威厳を示す意味も込められていたのだろう。
「いえいえー。お会い出来て光栄ですよー」
そんな権次の意図を組んだのか気にもしていないのか、月城は立ち上がって近づくと左手を差し出して握手を求める。
「・・こちらこそ、まさか先日耳にしたばかりの、関東領の隠し玉とお会いできるとは」
権次は含みのある言い方をしながらも月城の握手に答える。
「おやー?何のことでしょうー?」
「いくら関西領と戦争中とは言え、中部領幹部の暗殺ともなれば、こちらにも話は入ってきますよ」
「あははー、嫌ですよー。私達がそんな大それたことをしたとー?」
「僕の考えが正しければ、ですが」
「まぁまぁ、権次兄様も夜魅さんもそのくらいで」
手を握りあったまま不穏な空気が流れ出したところで香華が仲裁に入り、真壁もそれに続く。
「月城、今は他に話すことがあるだろ」
「・・分かってますよー」
真壁の忠告を素直に受け入れた月城は権次の手を話すと元いた場所に座る。
「権次、オメェが座んねぇと話が始まんねぇぞ」
「兄上。、、はい、失礼しました」
月城に先に戻られたことで動き出すタイミングを失っていた権次は策真に急かされ、中国領側の中央に腰を下す。
「おし、役者も揃ったことだしサッサッとおっ始めようぜ」
「その前に一つ尋ねても構わないでしょうか?」
「あん?何だよ関東領のアンちゃん」
話の出鼻をくじかれた策真は少し不機嫌そうに真壁に聞き返す。
「・・失礼を承知でお聞きしますが、中国領代表の麌家当主、麌堅楼殿が他界された今、その後を継がれたのは何方なのでしょうか?」
本来の年齢を考えるとアンちゃんなどの呼び方は相応しくない上に、見た目も幼い策真から年下扱いされて一瞬言葉の詰まらせた真壁は何とか問を投げかける。
「何だ!そんなことか。今の家の大将は、」
「仮に、ではありますが、僕が当主代行を務めさせて頂いています」
「・・チッ」
「仮にですかー?」
「はい。何分急な事でしたので。しかし当主不在という訳にもいかず正式な当主が決まるまでは僕が代行を務めます」
「いつ頃決まりそうですかねー?私達としてはー、ちゃんとしたご当主様と同盟関係になりたいんですけどー」
策真の舌打ちは聞こえたのか聞こえなかったのか、権次と月城は話を進めていく。
「僕たちとしても父の遺言がある以上、正式な形で約定を結びたいと考えています。戦線のこともありますし、数日の内には決定致します」
「うーん。私達も何時までも居られる訳じゃないんですよねー」
「それは承知しております。しかし関東領としても相手の内情を知ってからのほうが、手を組みやすいのでは無いですか?」
「えぇー?何か秘密情報でも教えてくれるんですかー?」
「僕自ら話さなくても、数日滞在すれば見えてくる物もあるでしょう」
「もぅ、権次兄様、せっかく本家まで来ていただいたのに、このままでは平行線ですよ?」
互いに牽制し合いながらの会話に香華が割って入る。
「ふむ、だがな香華、」
「そうですねー。お姫様の言うとおりかも知れませんねー」
香華の言葉に賛同しかねる様子だった権次とは違い、意外なことに月城は彼女に同意の意思を示す。
「ならどうすんだぁ?こっちの頭が決まるまで待ってくれんのか?」
「正直ー、それでも良いんですけどー。どうせならもっと手っ取り早くしませんかー?」
茶化し半分で尋ねた策真の問に月城は中国領の誰も予期しなかった返答を返す。
「どういうことですか?」
「えー?ですからー、当主さんが決まるまで時間がかかるならー、その間に関西領を潰しちゃおーってことですよー」
「「「なっ!?」」」
「「えっ!?」」
「・・・」
中国領の面々が驚きを見せる一方で、月城の隣に座る真壁は少し呆れ顔を見せるだけだった。
「それは何の冗談でしょうか?」
「あれー?私何か変なこと言いましたかねー?」
「はぁ、だから無茶だと言っただろ」
「ですよね。流石に、」
真壁が月城の意見に反対していると思った香華の言葉は彼の次のセリフによって遮られる。
「三年近く続いてる戦争相手を数日で潰すだなんて誰が信じると思う?」
「え?」
「おいおい、アンちゃん。その言い方だと関西領の奴らを潰せるみてぇじゃねぇか?」
「・・・信じられないとは思いますが、それ自体は可能ですよ。月城がやろうと思えばすぐにでも」
「えっへん!」
真壁が掌を上向きにして右手で月城を示すと彼女は、どうだとばかりに胸を張る。
「それを僕たちに信じろと?」
「別に信じてくれなくてもいいですよー?ただ関西領を潰したあとはー、一緒に中部領を倒してほしいだけですー」
笑顔でそう告げる月城から権次たちは、彼女が嘘やハッタリを言っているとは感じなかった。
月城が本気で関西領を潰せると考えていると分かるからこそ、権次は次の言葉を出せずにいた。
「・・・」
「ならヤッてもらおうじゃねぇか」
「!!兄上!?」
「良いだろ?ヤッてくれるってんならやってもらおうぜ?」
「あはっ!お兄さーん、話が分かりますねー」
「但し俺も好きに動かせてもらうぜ?元々、俺は当主なんざになるつもりはねぇからな」
「大丈夫ですよー?寧ろ前線は二つとも、いつも通りに維持してもらえた方がありがたいですー」
「あはは、策真兄様も夜魅さんも自由過ぎますよ」
諦め半分でから笑いする香華とは違い、権次は話を進めようとする二人を止めに入る。
「兄上お待ちください!いくらなんでもそのようなこと!」
「まぁ落ち着けや、俺も本気で関西領をヤれるとは思っちゃいねぇよ」
「えぇー。ヒドイですよー」
ふざけた様子の月城に苛つきを覚える権次とは違い策真は笑みを浮かべて言葉を返す。
「でもよ、お前の虎たちに気づくぐらいだ。関西領の奴らを引っ掻き回すぐらいは出来んじゃねぇか?」
「っ!、、それは」
「あれ?夜魅さんたち気づいてたんですか?」
痛い所をつかれたとでも言うような表情を見せる権次の代わりに香華が月城たちに確認する。
「俺は月城に言われるまで気づかなかったですけどね」
「もぅー、雅人さん、まだまだ精進が足りないですねー」
「言われてわかるものでは無いはずなのですが、、、確かに僕の能力に気づいたのなら其れなりの力量はあるのでしょう」
権次は渋々といった様子で月城たちの実力を認める。
先程から話題に上がる権次の能力だが、彼はそれぞれが土、風、水の特性を持った三匹の虎を従者として生み出す上位の生成能力を持っている。
その内、土の特性を持った土虎と呼ばれる虎は戦闘に適していないながら第二前線の参謀本部総長を務める香華のボディガードとして使えさせていた。
「前線で指揮させろって訳じゃねぇんだ。試しに好きにやらせりゃ良いんじゃねぇか?」
「・・・分かりました。当主の決定と、それに伴う上層部の配置変更、各部への通達を含め、一週間で新体制を整えます」
「つまり、その間に結果をだせと?」
真壁からの質問に権次は頷いて肯定を示しつつ言葉を続ける。
「はい。ただ先程も言いましたが、本当に関西領を倒せるとは僕も考えてはいません」
「あはっそれってー、本当に私達が関西領を潰しちゃったらー、後々の立場に影響が出ちゃうからですかー?」
「はっはっ!全く、口の減らねぇ壌ちゃんだぜ!」
「ともかく、何かしら中国領にとって、有益となる状況を生み出して下されば結構です」
「りょーかいです!では!一週間後にまたお訪ねしますねー」
「あっ!夜魅さん待ってください!」
用は済んだとばかりに勢いよく立ち上がり大広間を出ようとした月城たちを香華が呼び止める。
「?何ですかー?」
月城は少しだけ意外そうに振り返って香華に尋ねる。
「あの私も連れて行って貰えませんか?」
「香華!?」
「「香華様!?」」
思いもよらない香華の申し出に権次と林田、滝川が声を上げる。
「ほう」
「あらあら」
策真と堂河内は驚きつつも落ち着いた様子で静観する。
「ダメ、でしょうか?」
「えぇー?私は別に良いですよー?」
「やった!」
「待つんだ香華。何を考えている?」
月城からの了承を得て喜ぶ香華に権次からの静止が入る。
「権次兄様。対等な同盟関係を結ぼうとしているのに関東領のお二人にだけ危険を犯せるわけにはいきません」
「それは、」
「私の能力なら少し前線から離れたくらいなら効果は持続します。今後に遺恨を残さないためにも私はお二人に同行したいのです」
「いやぁー立派になったもんだなぁ香華!権次、せっかく香華がこう言ってんだ、行かせてやろうぜ?」
「兄上、、、しかし、」
「お願いします。権次兄様!」
策真の後押しを受けても不安そうな権次に香華は目の前まで近づいて、両手を合わせて懇願する。
「うっ、、、、、、、、わかった。だが土虎は同行させるぞ。それが条件だ」
「!!ありがとうございます!権次兄様!」
「雅人さんやりましたねー。両手に華ですよー」
香華の同行について特に口も挟まずに静観していた真壁に月城が話を振る。
「はぁ、俺からしたら厄介ごとが増えただけだ」
「それにしては反対しなかったじゃないですかー」
真壁の返答に対して月城は面白そうに彼の脇を肘で叩きながら言葉を返す。
「どうせ何を言っても連れて行くんだろ?」
「あははー良いですねー。雅人さんも段々分かってきたじゃないですかー」
疲れた様子で答える真壁に月城は笑顔で答える。
「迷惑をかけると思いますが妹を頼みます」
面倒くさそうに月城をいなす真壁に権次は立ち上がって近寄ると、彼の目の前で頭を下げた。
それは中国領の麌権次としてではなく、一人の兄としての行為だった。
「俺にも妹がいるんで権次さんの気持ちは分かります。怪我などが無いように全力を尽くします」
そんな権次の姿に感じるところのあったのか真壁は自然と右手を前に差し出す。
「ありがとうございます」
そして権次も頭を上げると自然と右手を前に出し、二人は硬い握手を交わしたのだった。
→第三章・五話【傭兵の流儀】




