3-3 同盟
中国領・山口市 麌本家
権次と策真は次代当主を決める会議のため、姫山内部にある麌家の屋敷を訪れた。
「策真様と権次様のお戻りだー!!」
門番の男が、門を開けると同時に大声で叫ぶ。
「「「お帰りなさいませ!」」」
門が開き、権次たちが屋敷の庭に足を踏み入れると、今度は二人を待って待機していた使用人たちが出迎える。
「おう!ごくろーさん」
「皆、いつもありがとう」
権次たちがそれぞれ労いの言葉を掛けていると、使用人たちの中から一人、メイド服の女性が前に出る。
「お待ちしておりました。策真様、権次様」
他の使用人たちとは違う、フリルの付いたミニスカートのメイド服が、持ち前の童顔とグラマラスな体型によく似合っている【異能者:堂河内周】は、麌家の使用人筆頭を任される人物である。
「周さん、いつもありがとう」
堂河内に改めて労いの言葉を掛ける権次に彼女は笑顔で答える。
「ありがとうございます権次様。瓜はお役に立っておりますでしょうか?」
「あぁ、瓜にはいつも助けられてばかりだ。周さんにも会いたがっていたよ」
堂河内と勝呂の能力はよく似ている。
権次の補佐役である勝呂は24時間に一度だけ他人の体感時間の100倍の速度で思考することができる強化の中位能力。
そして堂河内はその上位版である制限なく他人の100倍の速度で思考する強化の上位能力を持っている。
そのため勝呂が麌家に使え始めた頃、堂河内と師弟関係のようなものを築き、能力の汎用性を広めていた。
「そうですね、権次様がご当主に成られれば瓜も本家に戻ることになるでしょうから、私も楽しみです」
堂河内の言葉を聞いた他の使用人たちから黄色い声が上がる。
「やっぱり、権次様がお継ぎになられるのね!」
「ね!私の行ったとおりでしょ?」
「堅楼様もお喜びになるわ!」
「ま、待ってくれ!周さんまで兄上と同じようなことを!」
「あっはっは!ほれみろ権次!皆お前が継ぐのに大賛成みたいだぜ!」
慌てる権次の背中を叩きながら、策真は嬉しそうに笑う。
その様子を見た堂河内が腕を勢いよく振りながら慌てて声を上げる。
「皆さん静粛に!申し訳ございません権次様。策真様からそのようにお聞きしていたもので、てっきり権次様もご承知なのかと」
使用人たちを諌めつつ権次に謝罪する堂河内の一連の流れが余りにも愛くるしかったため、一瞬にして場の空気がほんわかとしたものになる。
「いや、取り乱した僕も悪かった。それで他の皆は?」
「はい、香華様は夕方のご到着になるとご連絡が、陸様と魯々様は大広間にてお待ちです」
権次は謝罪しつつ、自分たち以外の麌家の主要人物の到着について尋ねることで自然と話題を逸らす。
「では兄上、とりあえずは大広間に向かいましょう」
「はいよー。まぁ、アイツらにもお前が当主になることは言ってあるけどな」
「・・・周さん。香華が着いたら話し合いを始めるからその時は同席してくれ」
「畏まりました。権次様」
策真の抜け目無い行動に、いったいどれだけ話が広がっているのか不安になりつつも、なんとか平静を装いつつ権次は大広間に向かうのだった。
麌本家・大広間
「私のほうが早く着いたんだからね!」
「何言ってんだ!俺のほうが早かっただろ!」
権次と策真が大広間に近づくにつれ、若い男女二人の怒鳴り声が聞こえてきた。
「あぁ、またやってんのかアイツら」
自由奔放で何事も自分が楽しくなるように動く策真が、珍しく呆れ口調で呟く。
「ヤんのかこら!」
「何よ!かかってきなさいよ!」
「まぁ、いつもの事ですから」
権次もまた呆れたように呟きながら大広間の襖を開ける。
するとそこには一触即発の雰囲気を醸し出す制服を着た高校生くらいの男女ふたりが睨み合っていた。
「君たちはまた揉め事か?」
「権次様!」
「権次様!?」
策真たちが大広間に入っても気づく様子のない彼らに権次が声を掛けると、ようやく気づいたのか二人は揃って声を出す。
「ちょっと!真似しないでよ!」
「お前こそ!真似してんじゃねぇよ!」
そしてまた揉めだす二人の制服姿は、とても親族の葬儀や重要な会議に出席するような身だしなみではなく、一言で言えば如何にもヤンチャしてる感じの学生風だった。
金髪の髪にボロボロの制服を着崩した男性【異能者:林田陸】はこれでも麌家の分家である林田家の当主であり土で出来た分身を複数生成する中位能力を持っている。
茶髪のロングヘアーにバッチリとメイクをキメ、開いた胸元には薔薇のタトゥーが見える女性【異能者:滝川魯々】は林田家と同じく麌家の分家である滝川家の当主代行を任されており、水で出来た分身を複数生成する中位能力を持っている。
「おい、俺も居るぞ」
「すんません!策真様!」
「ごめんなさい!策真様!」
「だから真似すんじゃねぇよ!」
「それは、あんたでしょ!」
何気なく呟いた策真の言葉に対する反応がまた被った二人は遂にお互いに両手で組み合う格好になる。
「止めるんだ!それでも中国領の管理者か!」
「「・・・・」」
権次の言葉を受けて二人は組み合ったまま動きを止めた。
「そーだな。無能者の管理なんざしてるヤツを攻めちゃ可愛そーだぜ」
「なっ!?」
しかし、組み手を解くと同時に放った林田の言葉が滝川の怒りを再燃させる。
「おい陸、」
「ザッケンじゃないわよ!アイツらの相手すんのがどんだけ大変だと思ってんの!?」
権次が林田の不用意な発言を注意しようとする言葉を遮って、滝川は怒りをぶつける。
「はっ!だったら境界線越えようとする奴らくらい無くしてもらいたいもんだね!」
「それはそっちも一緒でしょ!盛りのついた猿じゃあるまいし!ちゃんと管理しなさいよね!!」
中国領では元島根県と元鳥取県一部を無能者生活区と定めることで日本唯一の無能者たちが内戦以前と同じ生活が出来る環境を整えた領である。
元広島県と元山口県および元岡山県一部は異能者生活区とし、互いの生活区を一般人が超えることを禁止している。
林田家は異能者生活区を滝川家は無能者生活区をそれぞれの当主が管理者の役割を任させているため、能力も似ている上に役職も相反する地位に就いている林田と滝川は中国領設立以来の犬猿の仲なのだった。
「いい加減にしやがれ!テメーら!」
「「っ!」」
権次たちが入ってきた時よりも言い合いヒートアップしていた二人だったが策真の怒鳴り一つで借りてきた猫のように大人しくなった。
「相手のことばっか見てねぇーで、テメーの仕事にもっと気合入れろや!いいな!」
「はい」
「すんませんした」
「・・・」
二人を叱る策真を見ながら権次は、やはり兄が当主になったほうがいいと考えていたが、矛先が自分に向かないために口にはしないのだった。
異能者生活区・広島市
「あら、おかしいですね?」
「どうかしたんですか?」
「どうやら迎えが遅れているみたいです。ごめんなさい」
ピンクの着物で身を包む、目鼻立ちの整った20代前半ほどの女性が、迎えの車が来ていないことを二人の客人に謝罪する。
「ありゃりゃー、困りましたねー。どうしましょう?雅人さん」
全く困った様子ではない客人の一人、月城夜魅は楽しそうに連れである、真壁雅人に話を降る。
「どうするも、このまま待つしかないだろ」
「えぇー!そんなのつまんないですよー」
月城は駄々をこねる子供の様に真壁の腕を掴み何度も引っ張ってみせる。
「お前なぁ」
「そうですね。このままというのも退屈ですし、何処かでお食事でもどうでしょう?」
「ホントですかー!ほらほらー、雅人さんよりお姫様の方が分かってるじゃないですかー」
「・・大丈夫ですか?香華さん」
麌家の娘である【異能者:麌香華】の言葉にテンションを上げる月城とは反対に真壁は不安を口にする。
「軍の人がよく使うお店がありますから大丈夫ですよ。そこなら軍用の回線も使えます。迎えにはそちらに来てもらうよう連絡しましょう」
「軍の人たちが通うお店ですかー!期待できますね!早速行きましょう!」
「わっ、ま、待ってください月城さん」
真壁の腕を離した月城は、今度は香華の手を掴み勢いよく歩き出した。
「おい待て!お前は店の場所を知らないだろ!」
香華が指摘しないところ方向自体は合っているようだが、真壁は月城を一度止めようと、そんなセリフを叫びながら二人を追いかけるのだった。
麌本家・大広間
策真に怒鳴られたことで落ち着きを取り戻した林田と滝川はそれぞれ、自分の担当地区についての報告をしていた。
「まぁ結局、どっちも大した変化はねぇってこったな」
二人の報告が終わると策真はダルそうに一言、感想を述べた。
「しかし、境界を越えようとする者が減ってきているのは喜ばしいですね」
策真とは逆に権次は、嬉しそうに二人の報告に答える。
「まぁ境界超えは問答無用で禁固刑っすからね。流石に悪ふざけで越えようとする奴はもう殆どいませんよ」
「あら、ホントかしら?この間だって低位能力の学生がこっちに来て捕まったんだけど?」
「なっ!テメの方こそ異能者に成りたいからとか意味分かんねぇ理由でこっちに来やがった奴がいるだろーが!」
「なによ!」
「なんだよ!」
「う、ゔぅん!」
「・・・」
また言い合いを始めそうな雰囲気の二人を権次が咳払いをすることで正そうとする。
「!す、すみません」
「すんませんした、」
策真の睨みもあってか二人からはすぐに謝罪の言葉が告げられた。
「まぁ、二人とも良くやってくれているようだし、これからも頼むぞ」
「「!!はい!」」
「終わりなら今度は俺からいいか?権次」
林田と滝川の威勢のいい返事を聞いた策真はいきなり別の話を持ち出す。
「?、、何でしょう、兄上」
策真が改まって話をする時は昔から突拍子もない事を言い出すと知っている権次は、心構えをしつつ兄の言葉を待つ。
「実は一つ、親父からの遺言があってな」
「「「!!!」」」
「・・いったいどのような?」
「「・・・」」
権次の問いかけが策真から帰ってくるのをじっと待つ三人。
「俺は正直どっちでも良いと思うが、、関東領と手を組め、だとよ」
「「!!」」
「なっ、関東領、ですか」
策真の言い方や雰囲気から冗談で言っているわけではない事が分かった三人は驚きのあまり、林田たちは声を失い、権次も一言だけ返すことしか出来なかった。
「厳密にゃあ、親父が死んだ段階で関西領と決着が着いてなけりゃあ、関東領と共闘して関西領と中部領を潰せだとさ」
真面目な話をして疲れたのか、策真はそこまで話すと手元のお茶を一気に飲み干した。
「関東領との共同戦線。父上は何故そのような。そもそも関東領が頷くとも思えません」
「確かに、奴らとの接点なんて俺らにないだろ」
「そうねよね。お互い、目の前の相手に手一杯って感じだし」
権次の言葉に林田たちは同意見と、あとに続く。
「さぁな。俺は親父に言われたことを伝えただけだ。だが、奴らは乗り気みたいだぜ?」
「?どういうことですか?」
「お前んとこに行く前に香華んとこに寄ったんだがよ。あいつの部下に関東領の人間が接触して来たみたいだ」
「まさか!?」
「俺もそう思ったけどよぉ。その関東領の使者様は、うちの家紋を持ってたんだと」
「「!?!?」」
次々と飛び出す予想打にしない情報に林田と滝川は既にキャパシティオーバーになり状況を理解できないでいた。
「それはつまり、父上が亡くなる前に関東領の人間を招いていたと?」
だが権次は一度驚きはしたものの、策真から告げられる情報をしっかりと整理して一つの推測を立てた。
その様子を見て策真は口角を少し釣り上げながら答える。
「どうだろな?まぁ香華もそう考えてるみてぇだから、そいつ等を待ってから此方に来るとよ」
「兄上はそれでよろしいので?」
「知るか。言ってんだろ、当主になるのはお前だ!自分で判断しやがれ」
「!またそのような、、」
「・・・」
「「・・・」」
策真に抗議の言葉を返そうとした権次だったが、彼の迷いのない瞳と不安そうにする林田たちの様子を見て口を止める。
「分かりました。その使者を招き入れ、話をしましょう」
「はっはっ!良いじゃねぇか!当主ぽっいぞ権次!」
「はぁ、初めからそのつもりだったのでしょう?兄上は」
ため息を漏らしながらボソリと呟いた権次の言葉など聞こえないかのように、策真は彼の背中を楽しそうに何度も叩くのだった。
→第三章・四話【試される力】




