第8話 スープの余韻はどこ行った?
伝説のスープに期待した余韻が感じられなくて。
ついつい、不満そうな顔になってしまった。
それをめざとく感じた4代目料理人が気にしている。
「なにか、問題がありますか?」
「3日後にエルフの王様に献上する料理です。もし問題があるなら教えてください」
村長からも聞かれてしまった。
ここは正直に言うしかないな。
「余韻がないんです。これだけ美味しいスープなんだから当然あるはずなんですが・・・」
「なんだと。なんだ、その余韻って言い草は!お前、人の料理に文句を言いたいだけだろう」
「いえ、そんな。美味しいのは美味しいんですが・・・」
「お前、料理人だってな。もしかして、俺の方がうまく作れると言うんじゃないか」
うーん。どうだろう。
本音を言えばできる気もする。
だけど、伝説のスープにいちゃもんつける気はないんだけどな。
「おまえ、今、俺の方がうまいの作れると、思っただろ。顔に出ているぞ」
「・・・うーん」
「否定しないな。よし、作ってみろ。いかにこのスープが大変な代物なのかは作ってみれば分かること」
そんなの分かっているって。
味が層を成して形成されている。
計算しつくされた素材の数々。
素材のタイミングだってすごく難しい。
だからこそ、余韻がないのが理解できないだけ、だって。
「あの。もしよかったら、本当に作ってみてはもらえないだろうか。必要な素材はワシの方が用意はさせていただくが」
「えっ、いいんですか、そんな。伝説のスープと対決するようなことしてしまって」
「重要なのは、エルフの王様に献上する品です。もし、問題があるなら、中止もしないといけなくなりますから」
「そうだぞ、お前。ただ、いちゃもんつけたかっただけでした、では済まされないぞ」
なんか、この料理人、むかつくな。
ただ、一子相伝のレシピをもらって、その通り作っているだけじゃないか。
偉いのは、お前じゃなくて、ひい爺ちゃんだろう。
「それでは、参考の為に僕のスープも味わってもらいたいと思います」
「言ったな、おまえ。伝説のスープに対する挑戦状だぞ、それは」
「そういうんじゃなくて・・・」
「わかりました。4代目調理人と旅人調理人のスープ対決という形でやりました。期日は明日のこの時間で」
「わかりました。やりましょう」
「吠え面かくなよ。審査員は村長ほか4人の村の重鎮達だ。逃げるなよ」
うーん。逃げたくなってきた。
だいたい、その人たちの舌、大丈夫なのだろうか。
余韻って分かるのかな。
翌日。
徹夜で、僕の舌で分析した伝説のスープのレシピを書き上げた。
さすがに、レシピを見せてくれともいえないから、スープだけを小鍋にいっぱいもらってきた。
あと、ちょっと大きめの厨房を借りた。
村のパーティ用のとこらしい。
レシピを書き上げるために、いろいろと実験もした。
実は錬金料理には、いろんな便利な道具もあるんだ。
今回活躍したのは、魔素センサー。
料理に含まれる火、水、気、土の4元魔素の濃度が分かる。
そこから、スープに含まれる素材を類推してみた。
錬金料理人だから、できるレシピ診断だね。
後は、午前中にレシピ通りのスープを作ればいい。
おっと間違った。同じじゃダメなんだ。ちゃんと余韻が残る様にする。
そこが大切なことだね。
だけど、だいたい予想はついているんだ。
余韻が消えてしまった意味が。
そこを対応することができるかが、今回の対決の勝敗を分けるということだ。
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