第29話 バレるかバレないか、それが問題だ
「えっ、なんだ?」
「できました。レシピのスープ完成しました」
「本当か?」
「試食してみてください」
完成したスープを器に少量盛ってスプーンと共に差し出す。
「俺の舌は敏感だから、ちょっとの違いでも見抜いてしまうぞ」
「はい。よろしくお願いします」
ちょっと緊張するな。求める味は出ているはずなんだが。ただ、ちょっとレシピをいじってしまったことが気になる。
もしかしたら、違うと言われてしまうかもしれない。
「おおー。すごい!まさにこれこそ、当店の名物料理のスープの味だ」
あれ、大丈夫だったらしい。
本当はこのオーク顔チーフ、あんまり舌が敏感じゃないのかも。
後から、もっと味が分かるお偉いさんが出てきて、「なんだ、このスープは」と怒られたやだな。
「えっと。このスープは他のお店の人が試食したりしますか?」
「それはない。俺がすべて任されているからな。こう見えても信用があるんだ、俺は」
本当かよ。今日の分のスープがない、なんてとんでもない失敗しているのに信用があるのかよ。胡散臭いな。
「あとはお客さんがこのスープをどう味わうか、だ。今日の予約には常連客もいるから、いつものスープと違うと騒がれたら問題になるぞ」
「えっと。グルメなお客さん多いんですか?」
「普通のお客さんなら大丈夫だろう。ただ、今日は王宮関係者の予約が入っている。そのお客にさえバレなければ、問題はないだろう」
大丈夫なのか。
さすがに王宮関係者ともなると舌が肥えている可能性が高いな。
「そろそろ。オープンだ。お前がここにいると、いつも違うことがバレるから、野菜剥きの部屋に戻っておれ。なんかあったら呼びに行くから」
あーあ。
せっかく、いろんなスープやソースが集まっている宝の山なんだけど、追い出されてしまった。
残念だ。
だけど、普通は入れはしないとこに入れただけで良しとしよう。
あとは、目立たない行動をしていればいい。
「ただいま」
「あれ、戻ってきたんですか?」
「うん。野菜剥きしていろって言われて」
「じゃあ、今日の分をささっと剥いてしまいましょうか」
「そうだな」
特別製のナイフで野菜をしゅるんと剥いていく。
スープのことが気になるけど、今は野菜剥きだ。
早く終わらせてしまいましょう。




