第25話 野菜剥きは得意なんです
「おい、いい加減にしろよ。トイレだ、たばこだ、ってさぼってばかりで・・・あれ?誰かな」
「僕はミッシェル。今、オークみたいなチーフに雇われました」
「おー。手伝いが増えた。助かった」
でっかい木の作業台があって、そこで向いた野菜をかごに入れて一杯になったら、向こうに置く。
そんなことが、見ただけで分かってしまう。
簡単な仕事だ。
「これを剥けばいいんですよね」
「そうだ。お前、野菜剥きはどのくらいやったことある?」
「えっと、普通に料理するのに必要な数はやっていますが」
「じゃあ、素人に毛が生えたくらいか。俺はもう半年もこれを剥き続けているんだぞ」
「すごいですね」
えっと・・・半年しても、上に上がれないってことかな・・・なんてことは言わない方がいいよね。
「だろ。だから、野菜の皮剥きのプロだ。こいつはまだ3カ月だからまだまださ」
うーん。あんまり野菜剥きを自慢されても。
「よし、野菜剥きのスピードがどれだけ違うかを見せてやろう」
そういうと、3人の前に100個くらいのじゃがいもをそれぞれ山にしておく。
「誰が一番早く剥けるか勝負だ」
「えっと、僕が早かったらどうなってしまうんですか?」
「おい、生意気だな。聞いてなかったのか。俺はプロだって」
「はい。分かってます。もし、万が一、僕の方が早かったらと」
「よし、銅貨1枚賭けようか。その方が真剣にできるだろう」
「そのくらいなら、いいですね」
「おっ、のったな、この賭けによ。最初に向き終わった奴が他のふたりに残っているじゃがいもの個数だけ、銅貨を渡すってルールだ」
「えっ、1個で銅貨1枚ですか。なんか随分と高額な気が・・・」
「もう決まったことだ。よーい、スタート」
ふたりはじゃがいもを剥きはじめた。
まずは、僕はそれを観察してみる。
さすがにずっと野菜剥きしているだけあって、慣れているな。
だけど、そんなに早い訳でもない。
「おい、早く始めないと差がついてしまうぞ」
親切に言ってくれる。
「じゃあ、いきますか」
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
一気に10個向いてみた。
ふたりは、って見てみると、まだ1個半くらいしか剥けていない。
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
もう10個、剥いてみた。
「おいおい、それ、どうやっているんだ。不自然に早いぞ。ただ、早ければいいっていうんじゃないぞ」
「どういうことですか」
「下手な剥き方だと、ダメだってことだ」
「これはダメですか?」
僕の剥いたのをひとつ渡してみた。
「そんな乱暴に剥いたら・・・えっ。綺麗に向けているじゃないか。ぜんぜんダメじゃない」
「ですよね」
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。しゅるん、ころん。
話しているうちも、10個ほど剥いている。
「ど、どうやっているんだ、それ」
「こうやっているんですよ」
しゅ・・・るん・・・。ころん。
ちょっとスローにテンポでやってみせた。
「手品かそれ」
「いえ、ちょっとナイフが良い物なんです」
「ちょっとって・・・」
あっけにとられているから、とにかく全部剥いてしまえ。
しゅるん、ころん。X69
「できました!」
「ええ、もう?」
ふたりはまだ10個くらいしか剥けていない。
「僕の勝ちですね」
野菜剥きで小遣い稼ぎしました。
楽しく書いて、楽しく読んでもらえたらうれしいです。
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