第12話 ドヤ顔の理由
「ほら、みろ。さすがエルフ王だ、ちゃんと違いが分かってくれるんだ」
横にいる4代目料理人が嬉しそうにささやいてくる。
うーん、そうなるか。
「このスープは何なんだ?村の長よ」
「このスープは、旅人の料理人が作りました。伝説のスープを飲んだ後に」
「その者はここにいるのか、つれてまいれ」
その言葉を聞くと嬉しそうに4代目料理人が手を上げる。
「ここにいます。この者こそ、そのスープを作った張本人です」
犯罪者を突き出すようなノリだな、おまえ。
なんか、むかつく。
「本当にそなたなのか、このスープを作ったのは?」
じっと僕の目を見て、話しかけてくる。
そのエルフ王の表情は、なぜか、がっかりしている。
「このスープは、伝説のスープではない。このスープは『失われた伝説のスープ』だ」
初代料理人が作ったスープ。
村では、それを「伝説のスープ」と呼んでいる。
そして、代々伝わっているレシピで作るスープも「伝説のスープ」だ。
しかし、エルフ達の間では、初代とその後のスープは別の名前で呼ばれている。
「伝説のスープ」と「失われた伝説のスープ」と。
初代のスープと全く同じ味のスープ、それが現れた瞬間。
もしかして、初代料理人が生きているのかと勘違いしたエルフ王。
ただ、作ったのがまだ年若い男だと知るとがっかりしたのだ。
「お前は、初代料理人の生まれ変わりなのか?」
「いえ違うと思います。ただ、初代の作ったレシピを想定して作ったのが、このスープです」
スープ対決の勝敗を聞く前に、がっかりしてうなだれてしまった4代目料理人。
最後の力を振り絞って、聞いてくる。
「なぜだ。一子相伝のレシピに忠実に作った俺のスープがなぜ初代と違うのだ?」
「それは、時代の違いです。100年経つと変わることがあります」
エルフ王も『失われた伝説のスープ』のレシピの秘密を知りたくて、ふたりの話を聞いている。
「それは、人間と魔物の領域の違いです」
今から100年前。
人間が住んでいる領域は今よりもずっと少なかった。
もっと多くの魔物がぼっこする領域があった。
魔物の森もいまよりずっと魔物が多かったはずだ。
人間に討伐されて魔物の森の魔物たちは少なくなっていった。
同時に起きることは、魔素の変化だ。
魔物がいる領域は、魔素が強くなっていく。
人間がいる領域は、魔素が弱くなっていく。
今より100年前、この地は魔素がもっと強かったはずだ。
初代のレシピはそのころの素材をベースに作られている味だ。
その違いが、余韻という形で出てくる。
余韻がもっと多くなるように、魔素が強い食材でバランスを取りながら伝説のスープを作る。
その結果、初代の求めていた味と同じになった。
「すごいな。旅人よ。そなた、そこまで考えて料理が作れるのか」
「はい」
「そなた、ただの料理人とは思えないが」
ちょっとドヤ顔で言ってみた。
「私は、錬金料理人です」
オリジナルな味。錬金料理人はドヤ顔しました。
3日で4話づつアップしました。
明日も4話予定です。
今、メインで書いているのは、錬金料理人のこれと。
書籍化が決まったこれ。
『超強力な土魔法使いの実力。土建チートで巨大建造物を作って世界を変えてしまっています』
よかったら読んでみてね。
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