第11話 エルフの王様
エルフの森。
そこは、村から見ると魔物の森と反対側にある大きな森だ。
昔からエルフが支配している森として有名で、冒険者もこの森には入ったりしない。
聖なる森として扱われている。
月に一度、森から行商人のエルフが馬に乗って村にやってくる。
エルフは馬具を使わずにそのまま馬に乗ってくる。
馬とコミュニケーションが取れるエルフだからできる技だ。
そして、年に一度、初夏の新月の日、エルフの王様が村を訪ねてくる。
村とエルフ達の親交を確かめるための行事だ。
その中で定例の行事がある。
村のスープと、エルフのサラダを前菜として一緒に食べること。
そして、その後、村が用意したメインの料理と進んでいく。
毎年、変わらない行事を粛々と続けていく。
それが村の長としての役目だ。
ところが今年は違った。
村のスープとエルフのサラダを食べ終わった後。
村長が言ったのだ。
「じつはもう一つ、エルフ王に飲んでもらいたいスープがあります」
「はて。それはどういうことかな。このスープは伝説のスープではなかったのか?」
既に飲み干しているスープの皿を見て、げげんそうにしている。
さすがに村長、ちょっとあせっている。
「そうです。伝説のスープです。間違いありません」
「そうだろう。100年間、毎年一度、楽しみにしてきた味だ」
そう、このエルフ王は、最初の伝説のスープを飲んでからずっと王の座に座りつづけている。
エルフは人間と違い長寿で、寿命は300歳くらいと言われている。
青年時期に王になったこのエルフは100年経った今でも壮年期だ。
「それは存じています。そう思ってもらえるのを光栄に思っています」
「それなら、なぜ、別のスープを用意したのだ?」
「何も聞かずに、このスープを飲んでもらいたいのです」
見た目、匂い等々、まったく同じに見えるスープが用意された。
エルフの王様なら、分かってくれるはずだ。
このスープの余韻を。
ぜったい、こっちのスープの方が美味いんだ。
「わかった。聞くのはやめよう。まずはこれを飲むということだな」
「はい」
スープ皿に木のスプーンが入れられ、エルフ王の口に運ばれる。
味わうように目を閉じたエルフ王。
からん、ころん。
スプーンはエルフ王の手から離れて、床に転がった。
怒りと戸惑いが混ざったような表情をしているエルフ王。
そして、一言だけ言葉を発した。
「これは、伝説のスープではないな」




