第1章 議会
零れ落ちた壁の破片を踏みながら、一人、また一人と、重そうなマントを『背負った』人々がそこに吸い込まれるように入っていく。
大聖堂には明かりが灯っていた。蝋燭が何本も何本もさしてある豪華なシャンデリアは赤々と周りを照らしているのに、そこに集まった人達は暗い顔をしていた。人々は囁きあっていた。どこまでも低いその声は何人も何人も重なり合う。誰もが不幸になってしまうような、そんなBGMだった。
人々が入ってきた入り口から見て最奥にある扉が、ギイィと音をたてると、人々の声はピタリと止んだ。二人の女が入場してきたからだ。一人はベールを被っていて、シャンデリアのあの明かりでも、彼女の顔の美醜は判断つかない。ただ、その頭上に載せられた冠が身分だけを表していた。その隣には一人の女官。彼女の側近である。女王は、その場に不釣合いなほど豪華な椅子に腰掛けると女官は話し始めた。
「今夜あなた達に来ていただいたのは、勿論『戦士』の件についてです。」
誰もが、はっとした。戦士。それは希望の光、とともに暗黒の根源だった。誰もに讃えられながらも、誰もに忌み嫌われる存在。世界を救う救世主であり、世界を滅ぼす災いの元でもある。どんな良薬でも甘いものはない。どんな逸材でもいつまでも逸材でいられるわけがない。女官が口を開く。
「戦士が見つかりました。『水』の人です。」
人々は、正直安堵した。数年前に『緑』の人が見つかって以来、残り3つの能力者は見つかっていなかったからだ。
「それで、その子は何処の家の者なのですか?」
「その子は…、」
女官は女王の方を向いて、一瞬ためらったが、
女王は女官を見なかった。
「この国の者ではありません。外部からの子です。」
一瞬、沈黙が降りた。それもそのはず、元々門地を聞くつもりの質問だったのだろうから。
「…ご冗談でしょう!」
聴衆の中のから年増の女が叫んだ一言で、皆、我にかえったようだった。
「いいえ、冗談ではありません。」
確かにあの子には水を司る力が感じられた。
それは、変えることが出来ない真実だった。
初老の男は赤ら顔で怒鳴った。
「冗談じゃない!!!そんなものは認めるものか!代々、由緒ある家柄から輩出してきた戦士に、外国人がなるとは、まことに汚らわしい…!!」
「黙りなさい。」
女王が初めて口を開いた。凛とした声。人々は驚いた。
通常、議会では国王は口を出さない。発言するにしろ、側近に耳打ちし、代わりに話してもらうのがしきたりだった。
「大昔から、この国は他の世界との関係を断ち切っていました。しかし今、この世界は危険な状態です。この状態を脱出するには、戦士が4人必要です。1人欠けては、この世界は救えません。」
「しかし、」
「それでもいいのですか?これではこの世界は成り立たないのです。戦士がいない世界は、どんな打開策をもってしても確実に、滅びます。今はまだ持ちこたえているようですが、あと何十年もしないうちに荒廃が国を食い尽くすことになるのです。」
「その子のせいで他の国に邪悪な魔法が広がったら…?」
「その危険性はこの国だって同じことでしょう?この国が破滅すれば邪悪な魔力は国外へ拡大します。それだけは避けなければなりません。」
男は言い返すことができない。『魔法』は他の世界に伝えてはいけない、そんなことしたら、やがてその世界は魔法でしか、物事を解決しようとしなくなる。そうすれば確実に災いがおこる。今までそう教えられてきた。でもその言葉は私たちでも当てはまるのではないか。事実、この国は傾いている。次々と優秀な魔術師を数多く輩出してきた名家は、途絶えようとしている。荒廃は目前だった。
若い女が問うた。
「本当に、戦士は民を救ってくださるでしょうか?」
「そうです。私たちも出来る限りの努力をしてます。直ちに残りの戦士を見つけださなければ。」
もう反対派の人間はただ睨む事しかできなかった。女王は立ち上がって、扉の奥へ消えていった。
なんだか皆『冗談』って言葉言いすぎですよね(笑)
次の次の章で、なぜ議会が大聖堂で行われてるかが分かります。