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13.グミの呪いを受ける

 

 探偵と二人で、ベンチに腰掛けていた。

 佐々木を待っているのだ。

 

 約束の一週間は、まだ三日しか経っていない。

 けれど仕事は今日で終わりだという。

 

 探偵は初めて俺の携帯に電話してくるなり、すぐに銅像の前まで来いと告げ電話を切った。

 何かから逃げている途中だと説明されれば納得する。

 そんな電話の切り方だった。

 

 俺は急いで支度をし、財布を掴んで部屋を飛び出したのだが……ドアを開け、財布の小銭入れの中から鍵を取り出そうとして唖然とした。

 

 開いた口が塞がらない。

 こんな言葉があることは知っていた。

 知ってはいたのだが……使い道を一つ覚えた。

 

 もしも財布の小銭入れの中いっぱいに潰れたグミが詰め込まれていたら……人は間抜けにも口を開けたまま固まってしまうのだ。

 誰かに聞いたことがないので、俺だけかもしれないが。


 部屋に戻って小銭入れの中のグミをかき出しゴミ箱に捨てていると、携帯の着信音が鳴った。

 

 メールだ。

 悪の親玉からのメールを開くと、


『グミの呪いを受け取るがよい』


 かわいらしいデコレーションで飾られたメール。

 ご丁寧に擬人化されたグミのキャラクターが画面の中で踊っている。

 

 どこかで見ているのではないか? 

 そう疑いたくなるくらいに、タイミングばっちりだ。


 俺はグミの呪いの恐ろしさを味わい、今後グミには関わるべきではない。

 そう決意して、今度こそ部屋を出たのであった。


 ただし、新たな呪いを置き残して。



 

 公園に着くと、探偵はベンチに座って真っ直ぐに銅像を見上げていた。

 膝の上にはA4用紙が入る大きさの茶封筒。

 

 ここに浮気の証拠、もしくは浮気をしていない証拠が入っているのだろう。

 そのことについては、一切説明してもらっていない。


 何を聞いても無視なのだ。

 だから諦めて、俺は財布にこびりついたグミの残骸を爪で引っ掛けては剥がすという作業をしているわけ。

 

 探偵が電話をかけると、佐々木はまだ仕事中だったらしく、三十分待っていてくれ、とのこと。

 もうそろそろ三十分が経つはずだ。

 

 俺は目を凝らして、こっちに近づいてくる人の中から佐々木を探した。

 それでも見つからないと、改めて探偵の膝に置かれている封筒に目を落とした。

 

 探偵の弟子なのだから見る権利はあるはずだ。

 何一つ手伝いはしていないとしてもだ。


「なぁ」


 声をかけると、意外にも探偵は返事をした。


「なんだい」


「仕事は終わりって言ったよな?」


「言ったよ」


「その封筒の中に答えがあるわけか?」


「これ?」


 探偵は膝の上の封筒を無造作に掴み、


「どーだろうね」


 どうでもいいように答えた。


「でも何かわかったんだろ? だから佐々木に連絡して、今から会うんじゃないのか?」


「んー、わかったことはわかったけどね」


 なんだか煮え切らない探偵の態度。

 俺は決定的な質問をすることにした。


「で、どっちなんだよ? 佐々木の彼女、横沢恵子は浮気をしているのか? していないのか?」


「さてね」


「さてねって、お前なー」


 俺が思わず立ち上がるのと同時くらいに、ダークグレーのスーツ姿で佐々木が現れた。

 走ってきたのだろうか。

 呼吸と、セットした髪の毛が少し乱れている。


「すいませんね。お待たせしてしまったみたいで」

 

 ポケットから出した真っ白なハンカチで、薄っすらと掻いた汗を拭った。


「佐々木さんは、仕事大丈夫なんですか?」


 探偵が何も答えないので、代わりに俺がしゃべった。

 佐々木の仕事の都合なんて、本当はどうだっていいのだけど。

 会話の流れというやつだ。


「ええ、ちょうど一段落着いたところでしたので。それよりも」


 佐々木は探偵に向けて、歪んだ笑顔を見せた。


「まだ約束の一週間は経っていないはずなんですが、何かわかったことがあるということですよね?」


 何故か佐々木の表情には恐れも不安もないように思えた。

 あるとすれば……いや、俺にはよくわからない。


「はい、これ」

 

 探偵は佐々木の質問にも答えることなく、封筒を手渡した。

 

 佐々木が座りたそうだったので、俺はベンチから立ち席を譲った。

 佐々木は、「どうも」と言って、俺が座っていた場所に腰を下ろし、雑誌の袋綴じを開ける時のように慎重に封筒を開け、中身を引き抜いた。


 そこにはA4サイズに大きく引き伸ばした三枚の写真。

 一枚見る度に、佐々木の表情から血の気が失せていく。


 探偵はそんな佐々木を気にする様子もなく、足をぷらぷらさせて

 銅像を眺めていた。


 銅像を見るのがそんなに面白いのだろうか? 

 一瞬佐々木の存在を忘れ、俺も一緒になって銅像を見上げた。


 がっしりした藍色の男が真っ直ぐに立ち、遥か遠くを見据えている。

 横にいる相棒の犬も同じだ。





お読みいただきありがとうございます。


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