俺はチキンじゃない
昔 世界を統べている精霊の力を使い神に挑んだ者達がいた。
精霊の強い加護を受けた者達は世界を闇で覆い竜巻で蹂躙し地震でずたずたにし火で炙り最後は水で沈めたが神には勝てなかった。
敗れた者達の殆どはこの世界と精霊の世界の狭間の空間に幽閉されたという。
残された眷族達はこの世界と精霊の世界との壁が一番薄い場所に国を造って、約束の時を待っている。
そして人間は闘いに巻き込まれながらも生き残り、ボロボロにされたこの世界で
二度と悲劇を繰り返さない様に、ある者は眷族に教わった魔法を研鑽しある者は
見聞きした事を歴史に記し各地を廻った。
世界が闇で覆われた恐怖も薄らぐ程の年月が過ぎ、人間同士争う程までに繁栄していたが幽閉された者達への恐怖・憎悪は消えてはいなかった。
魔法使いギルドは、いつか来ると云う約束の時までに幽閉された者達への対抗手段を探っていた。
「まあこんなところかなストーリーは」
俺はそう言いゲーム友達の顔を見た。
まだ明るい日差しの中いつもの様に友達と下校していた。
「まあよくあるファンタジーだね」
と想定された返事を日差しを受けながら後藤憲治こと ごっちゃん はかえす。
「ここからだよチミー」
と人差し指を上げどっかの会社の脂ぎった課長をきどりながらごっちゃんを新しく出るMMOに誘うアピールポイントを思い出す。
頭にヘッドギアを付け電脳世界にダイブするタイプのMMOはすでに飽和状態になっていた。
どれもこれも似た様なファンタジーか近未来戦争で違いはほぼ無いに等しい。
又初期に参入できなかった人は初期組の特に課金勢の装備を指を咥えて観てる状況は今もかわらない。
かくいう俺もごっちゃんと今もやっているサイボーグ戦争のゲームは新参組で無課金のジャンク装備で迷惑をかけない様に人の顔を伺うようなチキンプレイに徹していた。
そんな俺でも華麗に敵を倒してやろうと前にでる事も少なからずある。
俺は装備がショボいだけで心までチキンではないのだ。
ただやはり辛い。ほんとうに辛い。ごっちゃんに誘われて始めた当初はたしかに面白かった。
しかし、やり進めると如何ともしがたいのはロープレと違い戦争ものは装備の差が如実に戦績にでてしまう。
課金初期組スナイパータイプのごっちゃんは被った装備や俺の前衛ジョブ専の装備は惜しげも無くくれるのだが前に出たらほぼ瞬殺される。
ひと昔前のヘッドショットで一発KOはサイボーグでは無くなって変わりに高火力の武器が複数用意され、それ専用防具を付けていれば何発か耐えられるようになってはいる。
普通はそんな高火力の武器は一個しか持て無いが課金勢は2個もてる様になっている。
当然ショボい奴は瞬殺される事に変わりはなく俺はなんどヘッドギアを壁に叩きつけてやろうかと思ったことか。
またそんな事は無いだろうと思うが、ごっちゃんは俺を囮にして撃ってきた奴をたおして…いや考え過ぎるのは悪い癖だ。
そんな事もあり新しいゲームの 初期組ちょっと課金勢 でデビューを考えてネットで新しいゲームを探していたら一ヶ月後でるファンタジー系のロープレが目に止まった。
「クラウドって覚えてる?」
「クラウド……ああサーバー側でデータを記録する奴でしょ」
今時代一家に一台スパコンがあり集合住宅では量子サーバーが付いてるのにわざわざ企業にデータを預けるバカはいない。
量子コンピューターを使う為に集合住宅に引っ越す奴もいるとか。
「そそ。以前、記憶を管理する 思い出メモリー ってCMあったでしょ。そのシステムを応用してゲーム内で起きた出来事の記憶を全てクラウド側で管理するんだって」
ちょっとビックリした様な顔をしたごっちゃんを見て、内心のやってやったぜ感を隠して更にたたみかける。
ただのwebの受け売りだが。
「だからゲームを止めてログアウトすると。ゲームの記憶がサーバーに残ってるから現実のプレイヤーには全く残らないんだって」
「えー」
流石に声にでてびっくりするごっちゃんを見て勝ったと見た俺は決めゼリフを言おうか相手の顔を伺った。
「でも記憶に残らないんじゃゲームする意味あんの?」
「え!?」
あまりの事につなぐ言葉を忘れて、慌ててwebの宣伝文句をおもいだす。
「だってイベントやってもハイエンドの装備とっても記憶残らないんでしょ。それにイベントの攻略方法とかネットで探せないじゃん」
「達成感は確かにリアルに残らないけど現実世界であれやこれや頭悩まさなくていいじゃん」
説得力もなにもあったもんじゃないがとにかくおされた状況を改善しようとつなぐ。
「あ、それに攻略方法をネットで探してその通りにやるってつまんないじゃん。」
「それは確かに一理あるね」
何時もゲームを理詰めでやるごっちゃんが一歩折れた。
攻め所と見た。
「攻略方法はプレイヤーが作るギルドの中の掲示板で共有出来る様にはなってるらしいよ」
「へーそれは新しいな」
誰もが一度は思う、ネットで検索してクリアしてるだけじゃん って思いをこのゲームはクリアしている。
俺がこのゲームに惹かれた一番の理由でもある。
「どうかな、一緒にやらない?」
「ごめん。今入ってるギルド俺が抜けると回らないんだよね」
それは分かる。
ごっちゃんはなんでも調べ上げて準備もきっちり用意してやるタイプなのでギルドでの信認が厚いのはなんとなくわかっていた。
俺はイベントを手伝ってもらうんだが、あれやこれやと指図されるのが時たまわずわらしく思う時がある。
絶対に、絶対に顔には出さないが。
だからこそ記憶に残らないゲームを一緒にやりたかったのだ。
俺が盾でごっちゃんは回復、イメージは出来ていたが残念無念。
「じゃ、俺一人でやっとくから気が変わったらいってよ」
わずかな希望を残す様に諦めのセリフをいう。
「あ、名前なんだっけ」
ごっちゃんがゲームの名前を聞いてきた。
そりゃそうだろ一回聞いただけじゃ覚えられない名前だから。
「この世界に名前はない」