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転職の神殿を開きました  作者: 土鍋
転職の神殿を開きました
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漸進

【クルシス神殿長代理 カナメ・モリモト】




『……どうやら成功のようね。カナメ君、お久しぶり。みんな元気かしら?』


『お久しぶりです、ミレニア司祭。今のところ特に調子を崩した者はいません』


 目の前の装置を通じて、頭へダイレクトに声が響いてくる。その感覚を久しぶりに味わいながら、俺は挨拶を交わした。


『それはよかったわ。……それにしても、こうして辺境にいるカナメ君と念話が繋がるなんて、本当に驚きね。出力不足で半ば諦めていたのに』


 その言葉を聞いて、俺は目の前にある装置を改めて眺めた。


 それは、まだ王都にいる頃にミレニア司祭から見せてもらった念話機だ。その外見はあの頃からまったく変わっていないが、その内側には、王都‐辺境間の念話を成功させた立役者が格納されているはずだった。


 王都と辺境という長距離を結んでみせた立役者。……それは、以前に俺が討伐した地竜アースドラゴンの瞳だった。


 この瞳は、エリンから色々な素材を引き取った際に見つけたのだが、以前にミレニア司祭が言っていた念話機の核の条件である「同質の魔力を持った二つの核」と「凄まじい魔力」を兼ね備えているのではないかと思って、辺境をぶらついてから王都へ帰ろうとしていたマルロー司祭に一緒に持って帰ってもらったのだ。


 そして、それを受け取ったミレニア司祭は、念話機の核に地竜アースドラゴンの瞳を据えつけて、再び俺のいるルノール分神殿まで送り返してきた。その道程で往復二か月ほどかかったわけだが、それだけの価値はあったようだ。


『……カナメ君? 今、なんだか物騒な言葉がうっすら聞こ『地竜アースドラゴン……!?』えてきたわよ?』


『……え?』


 なんだかミレニア司祭の言葉がブレて聞こえてくる。おかしいな、さすがに距離が遠すぎて動作不良を起こしているんだろうか?


『故障はしていないはずよ。……それより、この素材は上位竜の瞳だったの……!?』


『なんでそれを……?』


 俺が素で問いかけると、ミレニア司祭はどこか楽しそうに笑った。


『カナメ君、念話機は利用者が心に思い浮かべたこともうっすら聞こえて来るのよ』


『あ……そうでしたね』


 しまった、そういえば念話機にはそういう危険な特徴があったんだ。ということは、さっきの地竜アースドラゴンのくだりも筒抜けだったのか……?


『筒抜けと言うほどではないけれど、なんとなく伝わってはきたわ。……三頭獣ケルベロスを討伐した時も驚いたけれど、まさか上位竜を倒していたなんてね……』


 もはや呆れが入り混じった様子で、ミレニア司祭の念話が伝わってくる。


『ところで――』


 そこでミレニア司祭は一度言葉を切った。だが、ざわざわと何かが聞こえてくる。明確な声にはなっていないが、無形の圧力を感じて俺は何となく身を引いた。


 すると、それとほぼ同時にミレニア司祭の勢いのある言葉が頭に響く。


『――カナメ君! 地竜アースドラゴンの素材はまだ余っているの!?』


『……はい?』


『だって地竜アースドラゴンの素材よ? さぞかし扱い甲斐のある素材なんでしょうね……!』


『はぁ……』


 装置の向こうで、ミレニア司祭が瞳を輝かせているのが目に浮かぶようだった。たしかに、地竜アースドラゴンは巨大だったため、牙でも骨でも鱗でも大量に在庫があるのは間違いない。ただ、問題はどうやって輸送するかということだ。

 今回はたまたまマルロー司祭という信頼できる運び手がいたからよかったものの、上位竜の素材なんて代物をそこらの人間においそれと託すわけにはいかないからなぁ。


『たしかにそれは問題ね……そうそう辺境へ行く用事なんてないでしょうし』


 俺の懸念を受けて、ミレニア司祭は心底残念そうに呟いた。


『もう……いっそのこと、私も辺境へ移住したいくらいよ。上位竜に限らず、辺境で採れる素材は質が高いようだし』


『こっちは大歓迎ですけど、プロメト神殿長が許してくれますかねぇ……』


『どうかしらね……今は新しい副神殿『けれど、なんといっても上位竜の素材よね!』長が頑張ってくださっているから、私が抜けても問題はないと思うのだけれど』


 清々しいほどに竜の素材を熱望しながら、ミレニア司祭は俺の言葉に応じる。そうか、今度の副神殿長はちゃんとした人なんだな。


『……あら、誰かお客様が来たようね。カナメ君、悪いけれど今日のところはこれで失礼するわ』


『分かりました』


『あ、それと』


 そう答えると、ミレニア司祭は付け加えるように口を開く。


『カナメ君なら分かっていると思うけれど、この念話の魔道具のことは信頼できる人にしか明かしちゃ駄目よ』


『もちろんです』


 なんせ、馬車で一か月かかる王都‐辺境間で、タイムラグなしに情報がやり取りできるのだ。その価値は計り知れない。

 軍事的な価値も非常に高いし、下手な人間に知れるとミレニア司祭の身が危険に晒されることは充分考えられる。……いや、そもそもこの念話機を狙われる可能性も高そうだな。上位竜の瞳なんて普通手に入らないだろうし、完成品を奪ったほうが早いと考える輩は大勢いるはずだ。


『お願いね。……それじゃカナメ君、またね』


 ミレニア司祭の挨拶と共に、何かと接続していた感覚が消失する。装置がもう動いていないことを確認すると、俺はふっと溜息をついた。特に後ろ暗いことはないが、余計なことを考えないようにするというのは難しいものだ。


 だが、これで困った時には本神殿に相談することができるし、何か緊急事態が起きた時には、迅速に情報をやり取りできる。それは非常にありがたい話だった。


 そんなことを考えながら念話機の余韻に浸っていると、コンコンッ、と元気よく神殿長室の扉が叩かれた。その音を聞いて、俺はノックの主を推測する。


「どうぞ」


「失礼します! カナメお兄ちゃ……しんでんちょーだいり! お客さんが来ました!」


 扉を開いたのは予想通りの人物だった。二か月ほど前に雇った、とても元気な生粋の辺境民で、マリエラという十歳の女の子だ。


「そうか、ありがとう。誰が来たんだい?」


「えっと……」


 俺の問いかけを聞いて、彼女は困ったような表情を浮かべた。どうやら忘れてしまっているようだが……まあいいか。心当たりもあることだし。


 そう考えた瞬間だった。彼女の横手から別の声が割って入る。


「――リカルドと名乗る人です、神殿長代理」


「あ! フィロン君!」


 助け舟を出してくれた人物を見て、マリエラが嬉しそうな声を上げる。そこに立っていたのは、彼女の同僚にして同期である十歳の少年だった。

 マリエラが生粋の辺境民であるのに対して、彼は移住民の出身だ。賢くて真面目な子なのだが、いささか押しに弱いところがあるようで、彼がマリエラの元気さに振り回されている光景は、もはや神殿の日常となっていた。


「ちゃんと名前を復唱しないから忘れるんだ」


 どうやら、彼もその場に立ち会っていたようだ。マリエラを心配して追いかけてきたのだろうと思うと、そのぶっきらぼうな態度も微笑ましい。


「フィロン君、ありがとう!」


「そ、そんなことより、どうするのかは聞いたのか? 神殿長室へお通しするか、それとも応接室にするのか――」


「ああ、この神殿長室で構わないよ。それじゃマリエラ、お客様をこの部屋へ呼んでくれるかな。フィロンはクルネを呼んできてほしい」


「分かりました」


「うん!」


「そこは『はい』だと思う……」


 そんなやり取りをしながら去っていく二人を見送ると、俺はお客を迎える準備を始めた。




 ◆◆◆




「やあ、カナメ。クルネさんも元気そうだね……おっと、カナメ神殿長代理とお呼びしたほうがいいかい?」


「勘弁してくれ。……久しぶりだな、リカルド」


 そう挨拶すると、俺たちは向かい合ってソファーに腰を下ろした。


「クルネさんも座ってよ。僕がカナメを襲うはずはないんだし」


「そうだな、他人の目もないし」


「ええと……」


 俺たちが口々にそう勧めると、クルネは少し迷った様子を見せた後、俺の隣に腰かけた。それを見て、リカルドが満足そうに笑う。


「相変わらず仲がよさそうで何よりだよ」


「護衛と護衛対象の仲が悪くちゃまずいだろう」


 俺がそう返すと、リカルドは少し肩をすくめてみせた。


「ところでリカルド、本当にいいんだな?」


「もちろんだよ。いつ首を突っ込もうかと機を窺っていたところだし、むしろありがたかったよ。……まずは村長さんに挨拶をしたいんだが、紹介してもらえるかい?」


「もちろんだ。なんせ一緒に仕事をする(・・・・・・・・)んだからな(・・・・・)。」


 俺の言葉にリカルドは素直に頷いた。……そう、リカルドがルノール村を訪れたのはただの様子見ではない。


 ルノール村だけなく、辺境全体をまとめる立場になり、フォレノ村長が疲労困憊していることはミルティから聞いて知っていた。

 たしかに、村の統治と辺境全体の統治はまったくの別物だ。なぜなら、後者は辺境だけでなく、辺境以外の動向や情勢を常に考えなければならないからだ。

 政治的なあれこれを好まない辺境の人間からすれば、それが煩わしいことであるのは間違いない。


 そこで、俺はリカルドを勧誘することに決めたのだった。元々、リカルドは飼い殺しにされてろくな職を与えられなかった身の上だ。普通の町であれば、王子の肩書を持つ人間を雇おうなどとは考えるはずもないが、ここは辺境だ。よくも悪くも、王子の肩書の重みは軽い。

 しかも、さすが王子だけあってと言うべきか、リカルドは治政や国際事情にも明るいし、移住民にとってはリカルドは『王子様』だ。そう軽んじられることもないだろう。ルノール村とリカルド、どちらにとっても悪い話ではないはずだった。


「まずはルノール村の村長補佐といったところかな? 今は村長の娘さんが補佐を務めていると聞いたけど……」


「ミルティの本職は魔法研究所の研究員だからな。リカルドが補佐を務めることになれば身を引くだろうさ。……むしろ、この話に最初に賛成したのは彼女だしな」


 リカルドが真面目な顔で頷くのを見て、俺は言葉を追加する。


「そうそう、友人の誼で忠告しておくけど、フォレノ村長はミルティを溺愛しているからな。紛らわしい行動はとらないほうがいいぞ」


 俺はリカルドと初めて出会った時のことを思い出す。転職ジョブチェンジ屋に入るなり、クルネに向かって「なんて美しい人だ!」とかのたまっていたからな。ミルティに対しても同じことをやられると、俺が間に入って仲裁に苦労する未来しか見えない。


「……カナメ、君の僕に対する評価はよく分かったよ。まあ、たしかにそう取られるような行動をしていたことは認めよう」


 すると、リカルドは素直に俺の言葉を認める。少し意外だったが、それだけ心当たりがたくさんあったんだろうか。


 そんなことを考えていると、リカルドは少し大仰に首を横に振ってみせた。


「だけど、それは昔の話だよ。あの日以来、僕の心を占めるのは彼女だけだからね」


 焦がれるような面持ちで、だがきっぱりとリカルドは言い切った。その『彼女』がミュスカのことを指しているのは考えるまでもない。

 辺境へ来てしまっては、余計にミュスカから遠ざかるような気もするが……。まあ、それはリカルドだって分かっていることだろうし、何も言うまい。


「ところでカナメ、一つ確認しておきたいんだが、いいかい?」


 ゆるんでいた表情を引き締めると、リカルドは口を開いた。


「なんだ?」


「村の統治に対して、クルシス神殿はどこまで関与するつもりなのかな?」


 それは政治家としてのリカルドの顔だった。そして、政治と宗教というものがややこしい関係にあるのは、どこでも同じ話なのだろう。


「クルシス神殿に限らず、統督教のスタンスは知っているだろう? 政治への過度の干渉はご法度だ」


「表向きはね。……ああ、勘違いしないでほしい。カナメ、僕は口を出すなと言っているわけじゃないんだよ。むしろ逆で、統治機構の一員となってほしいくらいだ。

 これまで、辺境にはリーダーシップをとるような村がなかった。あくまで村々は独立していて、有事の際に近隣の村長が話し合いの場を持っていた程度だ」


 さすが、以前は辺境の開拓長官に収まろうとしていただけあって、リカルドは辺境の風習に詳しかった。彼の言葉に俺は頷きを返す。


「だが、今は違う。このルノール村が辺境の中心となりつつあるのは周知の事実だ。それこそ、辺境の外にまで聞こえてくるくらいにね。となれば王国や、場合によっては他の国々と交渉するためにも、辺境全体を束ねる力が必要だ」


「……だが今まで、辺境で村を超えた枠組みでの統治機構が存在していた例はない。そこで後ろ盾がほしいと?」


 それは自信過剰な感のある台詞だったが、リカルドは笑顔を浮かべた。


「辺境がここ数年で急速に発展している背景には、なんと言っても固有職ジョブ持ちの増加が上げられる。王都で転職ジョブチェンジした人間も多いはずだけど、辺境のように自らの故郷に留まって治安維持に努めるという御仁は少ないようだしね。

 そして、君がその立役者であることは国中に広まりつつある。転職ジョブチェンジの神子が『辺境の守護者』を戦士ウォリアー転職ジョブチェンジさせたという話は、リビエールの町ではもはや常識だ」


「……」


 その『辺境の守護者』は、今度は守護戦士ガーディアン転職ジョブチェンジしたわけだが、さすがにそこまでは伝わっていないらしい。


 そんなことを考えている間にも、リカルドの言葉は続く。


「というわけで、君の持つ影響力というのは馬鹿にならないんだよ。なら、同じ陣営に属してくれていたほうが何かと便利なんだけど……。

 まあ、無理は言えないからね。僕たちとクルシス神殿が友好的な関係であることを祈るばかりだよ」


「どうせ、俺もリカルドも当面は辺境の自活問題に取り組むことになるんだろうし、方向性は同じだと思うけどな」


 なんせ、今の辺境には問題が山積みだ。衣食住のすべてが不足しているし、もしそれが満たされたとしても、質の向上や産業の発展等、課題はいくらでもある。

 そんな俺の言葉を聞いてリカルドは笑顔を浮かべた。


「ということは、君も辺境の課題を解決するつもりでいるんだね。それは心強いよ」


「……言っておくが、クルシス神殿の財布は俺が自由に出し入れできるわけじゃないからな? そっち方面をあまり期待しないでくれよ」


「それは残念だね。けれど、別の組織に志を同じくする人間がいてくれるのはありがたいことだよ。

 ……カナメ神殿長代理、これからもよろしく」


 そう言って差し出された手を、俺は握り返した。




 ◆◆◆




「カナメ君、こんばんは」


 リカルドと共にフォレノ村長の下を訪れ、話をまとめて神殿へ帰ってきた俺は、屋内に足を踏み入れるなり声をかけられた。

 今日はいろんな人間と出会うな。そんなことを思いながら言葉を返す。


「ああ、クリストフか。こんな時間にどうしたんだ?」


 そこにいたのは、故郷を引き払って辺境へ越してきた魔獣使い(ビーストマスター)だった。彼が初めてこの村を訪れてからもう二か月が経つが、移住希望者の支援のためあちこちを飛び回っていたせいか、彼と顔を合わせるのは久しぶりのことだった。


「さっき、最後の希望者を連れて来たんだ。その報告にね」


「そうか、お疲れさま。その話、フォレノ村長には?」


「これから行くところだよ。カナメ君にはお世話になった……いや、お世話になっているからね。まず報告しておこうと思って」


 相変わらず穏やかな笑みを浮かべながら、クリストフは口を開く。


 クリストフを代表とするマデール商会や、彼の村から移住してきた人間は、ルノール村の南東に設けられた専用スペースで暮らしている。もちろん、その専用スペースを用意したのは俺だし、その後も色々と暮らしやすくなるようにと、ミルティと一緒に手を貸していたのだ。


 幸い、クリストフが警備用の魔獣を用意しているおかげで、シュルト大森林に食い込むような形で存在しているスペースの割には、モンスターの被害が出ていない様子だった。


「アニスもお疲れさま。クリストフがいない間よく頑張ったな」


 次に、俺はクリストフの後ろに控えている少女に視線をやった。クリストフが巨大怪鳥ロックと共に各地を飛び回っている間、辺境に辿り着いた村の人々をまとめていたのはアニスだったのだ。


 二百人超という大所帯だったにも関わらず、特に目立った混乱もなくこれまでやってきたのは評価に値するだろう。クリストフのような固有職ジョブの力はないが、村人をまとめる人望のようなものはあるようだった。


「別に、お兄ちゃんの苦労に比べればなんてことないわよ」


 アニスはそう答えると視線を外す。最初は嫌われているのかと思ったが、どうやら照れているだけらしい。クリストフにそう教えられてからは、微笑ましい目で彼女を見ることができるようになったものだ。

 ……どうも兄を英雄視しているきらいがあって、たまに暴走するのは困ったものだが。


「それにしても、これでようやくクリストフも一息つけるな。村の人も安心するんじゃないか?」


「そうだね、セイヴェルンでの買い付けはコルネリオ君が引き受けてくれたし。久しぶりに少しのんびりできるかな。彼には頭が上がらないよ」


巨大怪鳥ロックがいなければ成り立たない取引だし、お互い様じゃないか? それに、あいつは無料で里帰りできるわけだしなぁ」


 そうなのだ。自治都市セイヴェルンで食料の買い付けを計画していた彼らだったが、あまり人との化かしあいは得意ではないらしい。そのことをコルネリオに話したところ、とんとん拍子で彼に売買の代行を依頼することになったのだという。


 コルネリオにしても、辺境の素材が出回り始めているリビエールの町ではなく、そういった品があまり出回っていないであろうセイヴェルンで品を売り捌けるのはとても嬉しい話であるようだった。


 しかも、セイヴェルンはコルネリオが生まれ育った町だ。勝手も分かっているだろうし、適任と言えた。


「ああ、聞いたよ。彼はあのミルトン商会の御曹司なんだってね? びっくりしたよ」


「あんまり御曹司ってガラじゃないけどな」


 その言葉に、その場にいた全員が軽く笑う。自治都市セイヴェルンを統治する、評議員の議席を持っている大商会。その権勢は下手な貴族よりもずっと上だ。

 その御曹司とは思えないコルネリオの性格は、好意的に迎えられているようだった。


「……それじゃ、カナメ君が言う通り、僕たちはフォレノさんに挨拶してくるよ」


「ああ、気をつけてな」


 狼を連れている魔獣使い(ビーストマスター)には無用の気遣いだろうが、彼はその言葉を聞いてにこやかに頷く。


 そうして、彼らを見送るために神殿を出た頃には、もうすっかり夜になっていた。二人と一匹の後ろ姿を見送ると、俺はクルネと一緒に神殿へと戻る。


「リカルド殿下も来たし、クリストフさんも本格的にこっちに住み始めるし、なんだか賑やかになりそうね」


「ああ、上手く辺境の発展に寄与できるといいんだが」


 彼ら二人のことに留まらず、様々な要素が辺境に集まり始めている。それを上手く使えば、今のギリギリの状況を解決することができるだろう。そんな予感がした。


「なんだか楽しみだね」


 そんなクルネの言葉に俺は頷く。


 辺境を震撼させる事態が近付いてきているとも知らず、俺たちは笑顔を向け合っていたのだった。


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