蠢動
【クルシス神殿助祭 カナメ・モリモト】
「これは国防の一大事である! この国に神殿を構えておきながら、なんだその態度は!」
「我々が、国同士の争いに手を貸すことはありません。和睦調停の依頼であればお受けすることもあるでしょうが、国の一方を過度に利する行いは、統督教として禁じられております」
激昂する男に対して、プロメト神殿長が淡々と反論を返す。その取りつく島のない態度に、男の気勢が少し削がれたようだった。
神殿長がかけているソファーの後ろに立っていた俺は、気付かれないように目の前の男を観察した。ベリオット伯爵。クローディア王国の軍閥の一角を担う貴族であり、今回の帝国との国境戦争においては、王国軍の副司令官を務めるという。
伯爵は、怒りを露わにして机を叩いた。
「この王都が壊滅すれば、困るのはお前たちも同じだろう! さっさと転職者のリストを渡すのだ!」
そんな伯爵に対して、プロメト神殿長は冷ややかな視線を向ける。
「……はて、此度の戦争は国境付近が戦場のはず。ベリオット伯爵率いる王国軍がいながら、この王都にまで攻め上られるということはありますまい。
もちろん、このクルシス神殿に害を為そうという輩があれば、我々も黙って見ているつもりはありません。その時は我々なりのやり方で、敵を退けましょう」
「ぐ……!」
皮肉交じりの神殿長の言葉を聞いて、ベリオット伯爵が押し黙った。統督教は、各国の政治に深く介入することを禁じている。それは千年前の終末戦争の反省により生まれたルールだ。そして同時に、統督教の各宗派施設を襲うようなことがあれば、その国や集団は、統督教によって報復される。
そのため、もし王都が戦いの場になったとしても、そこに所在する神殿そのものが狙われる可能性は非常に低いのだ。もちろん、それを利用して戦いを有利に運ぼうとする輩は後を絶たないため、別の意味で気を遣う必要はあるのだが。
その辺りのことについては、ベリオット伯爵も分かっているはずだ。その上で脅しをかけようとしたのだろうが、さすがに神殿を見くびり過ぎというものだった。
「だが、帝国に居を構えるガレオン神殿は、帝国軍に便宜を図っているというではないか!」
だが、ベリオット伯爵は諦めが悪かった。その言葉に対して、神殿長室にいる神官全員が小さく反応を示す。もしそれが事実であれば、非常に厄介なことになるからだ。
そんな雰囲気に気付いたのか、どこか勝ち誇った様子の伯爵に向かって、神殿長が問いかける。
「ほう……? もし伯爵のお言葉通りであれば、それは重大な教義違反ですな。ぜひとも告発にご協力頂きたいのですが、詳しくお伺いしてもよろしいかな?」
「え?……いや、その……手元に資料がないゆえ、今は分からぬ」
自分が望まぬ方向へ話が転がりそうだと察したのか、ベリオット伯爵は目を泳がせて弁解する。もし彼の口走った内容が事実無根であった場合、ガレオン神殿が彼を糾弾することは間違いないからだ。
「もちろん、後でご連絡頂いても構いません。ガレオン神殿が特定の国を過度に利しているとなれば、これは由々しき大事件。多少時間がかかっても、真実を追及する必要がありますな」
この話は大々的に取り扱いますよ、という神殿長の言葉を聞いて、伯爵の顔が青くなる。
「……ま、まあ、その辺りについては、儂も詳細な確認まではできておらんのでな。もう一度情報を精査した上で、問題がありそうな時にはまたご連絡差し上げましょうぞ」
最初の勢いはどこへやら、完全に逃げ腰になったベリオット伯爵は、性急な動きでソファーから立ち上がった。
「左様ですか、お待ちしています。……アルバート司祭、伯爵のお見送りを頼む」
「分かりました」
神殿長の指示を受けて、アルバート司祭が神殿長室の扉を開いた。すっかり毒気を抜かれたのか、ベリオット伯爵は大人しく神殿長室から退出する。それに引き続いて、伯爵のお付き数人が出て行くのを見送ると、ほっとした空気が神殿長室内に漂った。
「まったく、あの伯爵は困ったものですわね。統督教の大原則くらいご存知でしょうに」
神殿長室の扉が閉じられたのを確認して、同席していたミレニア筆頭司祭は溜息をついた。その溜息の中には、ベリオット伯爵がミレニア司祭をちらちら眺めて、好色な笑みを浮かべていたことも含まれているのだろう。
「非公式ながら、クルシス神殿から出てきた、転職を終えたと思われる人間を、帝国がスカウトしているとの情報もある。我々は神殿の外まで関知できんからな。
そもそも、転職者がどの国に仕えるかなど、個人の自由だ。今まで何も手を打たず、この瀬戸際になって転職者のリストを渡せとは、あまりにもお粗末な話だったな」
プロメト神殿長の言葉は辛辣だった。だが、それに異を唱える者は誰もいない。
俺にとっても意外だったのだが、転職者の中で、軍や貴族に雇用されることを願っていた人間の数は、あまり多くなかった。
それが、今までの固有職持ちや、その優遇制度に対する反感から来るものなのか、もっと別の理由から来るものなのかは分からなかったが、少なくとも、貴族が椅子にふんぞり返っているだけでは、固有職持ちを獲得できないのは明らかだった。
「それより、ガレオン神殿の件はどう思われますの?」
と、そこでミレニア司祭が話題を変えた。火神の神殿が帝国軍を不当に利している。もしそれが本当であれば、重大な事件になることは間違いない。そういう意味では、プロメト神殿長が伯爵に言った言葉は、決して脅しだけではなかったのだ。
「ガレオン神殿は、戦いを司る神殿でもある。帝国軍が、勝利に際しての願掛けや誓願を行うことについては、特に目くじらを立てるようなことではあるまい。もしそれを超えるような行いがあれば、話は別だがな」
例えば、ガレオン神殿が宝具を帝国軍に貸与したり、神官戦士が従軍するようなことがあれば、それは露骨な教義違反となる。だが、本神殿が帝国にあるとはいえ、そんな危ない橋を渡る必要があるとは思えなかった。
「あの伯爵が何か言って来ない限り、この件については忘れ去ってしまってよかろう」
プロメト神殿長が下した結論に、俺たちは黙って頷いたのだった。
◆◆◆
クルシス神殿の庭は、意外と日当たりがいい。花々が咲き乱れる庭園ではないものの、木々が生い茂り、落ち着いた緑の空間を醸し出している。暖かい日差しや、風に揺れる草木のざわめきも心地よく、クルシス神殿の来殿者の中には、必ずこの庭に寄って行く常連もいるくらいだった。
しかし、そんな穏やかな空間も、人の心理状況によってはあまり役立たないことがある。
「司祭様、帝国との戦争が始まったら、私たちはどうすればいいのでしょうか……? 帝国は、占領地に対して容赦がないと聞きますし……」
「焦らず、いつも通りに過ごすことです。……あなたはどんなお仕事をなさっているのですか?」
「小さなパン屋をやっています」
「それなら、いつも通りに美味しいパンを焼き続けてください。とても不安でしょうが、大丈夫、神は私たちを見守ってくださいます」
俺は、そんな話をしている彼らの横をすり抜ける。戦争の話が広がるにつれ、こういった問いかけをする来殿者が増えてきているのは事実だった。
実際には、両軍が対峙するのは国境沿いと遠いため、どれだけ帝国が大勝したとしても、この王都まで攻め込まれることはない。もしそれが可能であれば、それはこの王国が滅びるということだ。
だが、いくら国力の高い帝国といえど、国一つを滅ぼすほどの余裕はない。せいぜい、領土を切り取るくらいが関の山だった。
「キュゥ!」
そんなことを考えながら、俺は庭の主と化している相棒の下へと向かう。接近に気付いた妖精兎は、その場で小さく飛び上がって歓迎の意を示してくれた。
「休憩時間なんだが、なんだかいい天気だからな。一緒にのんびりしないか?」
「キュッ!」
そう言って、近くの木にもたれかかった俺に触れるようにして、キャロが日向ぼっこの体勢をとる。ふわふわの毛皮を撫でながら、俺はゆっくり息を吐いた。
……うん、やっぱりキャロを撫でると落ち着くな。
そんなことを思いながら、俺は目を細めて丸まっているキャロに目をやった。
「あ、聖獣さまだ!」
すると、ほぼ同じタイミングで、女の子の声が聞こえてきた。その言葉を聞いて、俺は思わず噴き出しそうになる。
……そう、実は、キャロはクルシス神殿の『聖獣』として認定されたのだ。
数か月前の蒼竜事件を始めとした、幾つかの事件を発端として、王都に「規格外の強さを誇る兎がいるらしい」という噂が、半ば都市伝説のように王都を駆け巡ったのが発端だった。
それだけなら、あまり気にする必要もなかったのだが、戦争が近いことも手伝ってか、一部の貴族や商人が、その兎を得ようと動き始めたのだ。
もちろん、野生の勘と固有職の力を併せ持つキャロが、そんな奴らに捕獲される心配はしていないが、それでも万が一ということはある。
そこで、なぜかキャロの聖獣認定に前向きなミレニア筆頭司祭の後押しを受けて、キャロはクルシス神殿の聖獣として正式に認定されたのだった。
さすがに、統督教が認めた聖獣に手を出そうなどという、気概のある輩はいなかったようで、王都の兎騒動は鳴りを潜めることになる。
そんな簡単に聖獣認定をしていいのかと思ったのだが、蒼竜騒動でのキャロの活躍は意外と目立ったらしく、それを理由にした聖獣認定の申請は、あっさり通ってしまったのだった。
聞いた話では、意外と聖獣認定の基準は甘く、過去にはもっと地味な理由で認定された動物も多々いたらしい。
なお、聖獣の存在には、来殿者数をアップさせる効果があるそうなので、「どうせなら『キャロまんじゅう』とか『キャロぬいぐるみ』を売り出しましょうか!」と提案してみたところ、一部を除くほとんどの人間に却下をくらったことを記しておく。
「あの、聖獣さまの近くにいてもいいですか?」
と、そんな過去のことを思い出していると、先ほど呼びかけてきた少女が、すぐ目の前まで近付いて来ていた。俺が思案するようにキャロの方を見ると、キャロは「キュァ」と鳴いて再び丸くなった。いいよ、という返事だろう。キャロがこんなに警戒しないのは珍しいが、ひょっとしてこの庭の常連なのだろうか。
そんなことを思いながら、俺は眼前の光景を眺めるのだった。
◆◆◆
七大神殿の一つ、風神を祀るエネロープ神殿は、自由奔放な女神を戴いている関係か、神官も自由闊達な者が少なくない。
噂には聞いていたものの、その実物を見ることがなかった俺は、目の前にいる人物を見て、一人納得していた。
「おー、お前さんが転職の神子ってやつかい?」
実に砕けた口調でそう話しかけてきたのは、エネロープ神殿のイルハス神殿長だった。まだ四十代半ばだろう彼は、黒髪に緑色の瞳、そして浅黒い肌と、異国情緒溢れる男性だった。
後ろに控えている人たちも似たような風貌であることを考えると、エネロープ本神殿の所在する国の民族的特徴なのかもしれない。そんなことを考えながら、俺は握手の代わりに聖印を切った。
「神子などという大層なものではありませんが……。クルシス神殿にて特別司祭を務めております、カナメ・モリモトと申します。」
そんな俺の前置きに感じるものがあったのだろう。イルハス神殿長は、たははは、と笑い声を上げた。
「ま、呼び名については諦めなって。なんせ、国外にまで噂が回って来てるんだからな。いいじゃねえか、転職の『聖女』と転職の神子でバランスもいい」
「バランスはいいかもしれませんが、背中がむず痒くて仕方ありません」
俺が本音を答えると、イルハス神殿長は陽気な笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。
「どうやら、おだてられて調子に乗る性格でもなさそうだな。安心したぜ。さすが、プロメト神殿長をして、他の神殿長相手に啖呵を切らせただけのことはある」
「はぁ……」
なんのことか分からず曖昧な答えを返していると、くすっと横手からミレニア司祭の笑い声が聞こえた。俺とイルハス神殿長の視線が、自然と彼女に集まる。
「あら、ごめんなさいね。……その話、プロメト神殿長の前ではしないでくださる? そのお話を振ると、少し不機嫌になりますから。……まあ、照れているだけですけれど」
「そりゃ珍しいモンが見られそうだな」
にこやかに笑うミレニア司祭に合わせて、イルハス神殿長も豪快に笑い声を上げる。そんな俺たちの下へ足音が近づいてくるのを察して、俺は姿勢を正した。
「……ふむ、待たせたようだな。イルハス神殿長、この度はわざわざ当神殿をご訪問頂いてかたじけない」
「プロメト神殿長、お久しぶりです。こちらが勝手に用件を持って来たんですから、気にしないでくださいや」
さすがのイルハス神殿長も、プロメト神殿長に対してはそれなりに敬語を使うようだった。まあ、それでもだいぶフランクな話し方だと思うけど、この地方の人ってそういうものなんだろうか。
「ふむ……。用件とは何かな?」
そんな自由な物言いを気にした様子もなく、プロメト神殿長は興味深そうに尋ねる。それに対して、イルハス神殿長は、少し気まずそうな表情を浮かべて口を開いた。
「実は――」
◆◆◆
「ねえカナメ、結局どうだったの?」
「一人だけ資質持ちがいた」
転職の儀式の間をチェックしながら、俺はクルネの問いに答えた。その表情に、かつてのような憂いはない。
「そうなんだ……。四人中一人って、すごい高確率だよね」
「しかも、あの神殿長だからな」
「えぇっ!?」
俺の言葉に、クルネが驚きの声を上げた。
そう、エネロープ神殿の長が、クルシス神殿へ立ち寄った理由の一つは、固有職資質の確認を行い、もし可能なら転職させてもらうというものだった。
元々、クルシス神殿に用事があったため、ついでに噂の転職ができるか見てもらいたい、ということだったのだが、まさか風神殿の神官四人の中に、本当に資質持ちがいるとは夢にも思わなかった。
「それで、どの固有職の資質があったの?」
興味津々といった様子で訊いてくるクルネに対して、俺は少し苦笑を浮かべながら、答えを口にする。
「……盗賊だ」
「え……」
予想外だったのか、俺の言葉に目を丸くしたクルネは、一拍遅れて口元に手を当てる。それが、笑いを堪えているのは明らかだった。
まあ、彼女の気持ちは分かる、神殿長が盗賊とか、人聞きが悪いことこの上ないもんな。固有職名の盗賊と、人のものを掻っ攫う『盗賊』ではだいぶ意味が違うけど、どうしてもイメージが重なるからなぁ。
まあ、そのことを話したところ、イルハス神殿長は「マジか!? ラッキーだったな、よろしく頼むわ!」と大喜びだったのだが。
ちなみに、今日は、転職業務を扱っている日ではない。本来であれば、神殿関係者であろうと特別な事情がない限り、通常の転職希望者と同様に取り扱うのだが、プロメト神殿長曰く、「イルハス神殿長には会議での借りがあるからな。丁度いい」とのことで、特別に儀式を行うことになったのだった。
儀式の間の確認を終えた俺は、準備ができたことを伝えるために、連絡用魔道具のスイッチを押した。直に、あの賑やかな神殿長が姿を現すことだろう。
俺は儀式の間の扉が開かれるのを、じっと待った。
◆◆◆
「いやいや、こりゃ凄えな! まさか、こんなに力が溢れてくるとは思わなかったぜ! ありがとな!」
儀式を終えて、神殿長室へ入室した俺は、部屋に入るなり感謝の言葉に出迎えられた。声を発したイルハス神殿長は非常に上機嫌な様子で、腕をぶんぶんと振っている。その姿は、まるで子供のようだった。
「……イルハス神殿長、話を続けてもいいかな? カナメ助祭を呼んだのは、この話に関係する情報を、彼が持っている可能性があるからだ」
そこへ、プロメト神殿長が話しかける。その言葉を聞いたイルハス神殿長は、興味深そうな表情を浮かべた。
「おお? そうなんですか。いやいや、早とちりしてすみませんね」
「あの、失礼ですが、なんのお話でしょうか?」
話にまったく付いていけなかった俺がそう尋ねると、ソファーに腰掛けていたミレニア司祭が口を開く。
「イルハス神殿長は、帝国がこの王都へ潜入して、何かの企みを進めていると、そう仰っているのよ」
「しかも、こいつは確証が取れてないが、下手をすると王国教会まで絡んでやがる。万が一教会が絡むとなると、統督教としてもややこしい話になるが……」
ミレニア司祭の言葉に続いて、イルハス神殿長が説明を補足する。
「カナメ助祭。君は、先だってワイデン子爵と呼ばれていた男と接触したと、そう言っていたな」
突然話題を振られて、俺は一瞬なんのことかと思い悩む。……ああ、あいつか。
「ワイデン子爵は帝国貴族だ」
プロメト神殿長の言葉は、特に驚きをもたらすようなものではなかった。むしろ、王国貴族だと言われたほうが、違和感を感じるくらいだ。俺の反応を見ながら、神殿長は言葉を続ける。
「イルハス神殿長の情報が正しければ、そのワイデン子爵とやらが王都で暗躍している可能性は高い。帝国と王国の間で戦端が開かれるまでにはまだかかるだろうが、その間に工作の一つもしておこうと、そう考えるのは何もおかしいことではないからな」
そう語る神殿長には、動揺している様子はなかった。
「しかし、暗躍と言っても、具体的に何を企んでいるかが分からなければ、手の打ちようがありません」
「ワイデン子爵には、時空魔導師が同行していたのだろう? 王国の有力な勢力に対して、切り崩しを行うだけであれば、わざわざそんな重要人物を動かしたりはするまい」
俺の問いかけに対して、神殿長が間髪を入れず答える。
「あの偏屈なじじ――もとい、癖の強いあの魔導師を、帝国がうまく御しきれるとは思えないのですが……」
俺の失言を聞いて、イルハス神殿長がぶふっと噴き出した。だが、そこは歴戦の強者というべきか、プロメト神殿長は彼を一顧だにせず話を続ける。
「だが、少なくとも合同神殿祭の魔工巨人騒ぎと、竜の暴走については自白していたのだろう? 再び、王都に物理的な危害をもたらす可能性は充分ある」
「しっかし、問題はどうやって尻尾を掴まえるかですね」
そこで話に入ってきたのは、さっき無視されたイルハス神殿長だった。なんだか楽しそうな表情を浮かべているのは気のせいだろうか。
「今の時点では潜伏先も分かっておらんからな。多少は密偵も放っているが、どこまで突き止められるものか……。教会のことがなければ、素直に王国政府に任せてしまうところだ」
「教会か……」
俺はぼそりと呟いた。実際、マクシミリアンが教会所属のエディと何らかの討論をしていたのは間違いない。ということは、少なくとも帝国と王国教会の間にパイプが存在しているのだろう。
とはいえ、マクシミリアンが、本当に学術的興味だけでエディに会いに来た可能性は、低くないと俺は予想していた。なんといっても、あの研究バカだ。帝国が「王都を潰しに行くぞ」と言ったところで、「勝手に行け。儂は忙しい」としか言わない気がするのだ。
むしろ、マクシミリアンがエディに会いたいと言ったことで、これ幸いと帝国がそれに合わせて、色々と工作しているような印象を受けたのだが……
「ま、ここで思い悩んでも仕方ありませんって。そういうわけでプロメト神殿長、俺た……私たちも王都のエネロープ神殿に数日滞在する予定ですから、何か分かったら教えてくださいよ」
そう言って、風神殿の長は去って行ったのだった。