合同神殿祭・上
【クルシス神殿助祭 カナメ・モリモト】
合同神殿祭当日。クローディア王国の首都クローヴィスは大勢の人でごった返し、街の隅々までもが熱気に満ちているようだった。
この祭りに合わせて、王都に店を構える者はもちろんのこと、行商人や職人、果ては一般人までもが露店や屋台を出していることも、その熱気を更に押し上げる要因となっていた。
合同神殿祭という名称ではあるものの、各神殿が演し物をする以外に強い宗教的な要素は感じられない。ただただ、人々が日々の憂さを忘れて朗らかに騒ぐことこそがこの祭りの本義だった。二日にわたって行われるこの祭りの間は、夜通しで酒を飲んで騒ぐ人間も珍しくないと聞く。
「こちらがクルシス神の護石です。貴方に神のご加護がありますように」
そんな合同神殿祭の一日目。王都でも最大の広さを誇る中央広場の一角で、俺は何十度目かの口上を述べていた。寄進という名の対価を受け取り、何やら儀式を施したらしい護石を渡す。俺がいる天幕の後ろには、まだまだ護石が積み上げられていた。
「ごめんね、カナメ君。ただでさえ明日の準備で忙しいのに……」
お客さんが入れ替わる合間を縫って、隣のマイアさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。彼女はこの護石の受け渡し業務の実質的な現場リーダーであり、数人の受付担当と共にテキパキとお客さんの応対をしていた。
だが、今年はいつもよりお客さんが多いようで、クルシス神殿のブースに長蛇の列ができているのを見つけた俺は、彼女たちの手伝いを申し出たのだった。
「今日できる準備は全て終えましたから、意外と暇なんですよ。もう少し落ち着くまではここにいるつもりです」
俺の言葉を聞いて、マイアさんは心からほっとした様子だった。
先だって転職部門に異動した俺ではあるが、実は受付部門にも併任されたままだった。そんなこともあって、受付部門の人間で構成されているこのブースを放っておくつもりにはなれなかったのだ。
……それに、このお客さん増加の原因って転職の噂のせいかもしれないしな。そんなことを考えながら、俺は次のお客さんへ笑顔を向けるのだった。
◆◆◆
「カナメ君、もう大丈夫だと思うわ。本当にありがとう」
マイアさんがそう声をかけてきたのは、手伝い始めてから一時間以上経った頃だった。気がつけば空には夕焼けが広がっている。
「そうですか? まだお手伝いしますよ?」
「今日はすることがなくても、明日大切なイベントがあるんだから、身体を休めなきゃダメよ。今日はもう非番なんでしょ? それに――」
「それに?」
話の途中で、彼女の視線が俺の背後へ向けられた。それにつられて後ろを振り向いた俺は、そこに見知った姿を見つける。
「お友達が迎えに来てるわよ」
そこに立っていたのは、楽しそうに手を振っているセレーネと、その陰に隠れるようにして顔を覗かせているミュスカの二人組だった。
「……セレーネ、仕事はいいのか?」
なんだかニヤニヤしているマイアさんに別れの挨拶をすると、俺は手を振っているセレーネに向かって質問を飛ばした。
「あら、固いこと言わなくてもいいじゃない。せっかく学友が再会するシーンなのに」
あ、これサボリだな。そんな確信を得た俺は、艶然と微笑むセレーネにジト目を向ける。それなりに付き合いが長くなってきたおかげで、彼女の色気に振り回されるようなことはなかった。
「それより、カナメ君はお仕事終わったのかしら?」
だが、そんな俺の視線を一向に気にした様子もなく、セレーネはしれっと口を開いた。
「ちょうどお払い箱になったところだ」
「あら本当? ちょうどよかったわ」
俺の答えを聞いたセレーネが、楽しそうに言葉を続ける。
「じゃあ、ミュスカのエスコートをよろしくね。カナメ君が言った通り、まだ私は仕事中なのよね」
そう言うと、セレーネは手を振って俺たちから去っていった。呆気にとられた俺は、しばらく彼女の後ろ姿を見送る。
どれくらいの間そうしていたのだろうか。俺は、服の肘を軽く引っ張られたことで我に返った。
「あの……カナメ君……?」
まだ卒業してから半年は経っていないはずだが、その声は懐かしく聞こえた。数か月ぶりの再会に、俺は笑顔を浮かべる。
「久しぶりだな、ミュスカ。元気そうでよかった」
「カナメ君も、元気そうでよかったです……」
そう言うと、ミュスカは嬉しそうな表情を浮かべる。当然ながら、今日の彼女は私服だ。俺にとっては、この祭り会場は仕事場でもあるが、教会派の彼女にとってみれば関係のない話だもんなぁ。むしろ法服なんて着ていたら、敵地に乗り込む気分になりそうだ。
そんな彼女に合わせるように、俺は携帯していた薄手の上着を羽織った。神官服の上から羽織るだけで、それっぽさを隠してくれるお得アイテムだ。いくら非番とはいえ、神官服を着て祭りをうろつく勇気はない。
「ところでミュスカ、今日はどうしたんだ?」
「その……あの、せっかくのお祭りですし、カナメ君やみんなに会えるかなって」
なるほど、そういうことか。それでセレーネに会いに行ったら、まだ仕事中だったと。セレーネの担当は各演し物の後方支援だから、仕事を上がるのはまだ先の話になりそうだな。
「多分、セレーネの手が空くのは夜のイベントが終わってからだぞ。まだ大分時間があるけど、どうする?」
「も、もしカナメ君がいいなら、一緒にお祭りを見たいです……」
「せっかく来たんだものな。……じゃあ、フレディがどこにいるかは分からないけど、あいつの捜索も兼ねて祭りを見て回ろうか?」
「はい……!」
そう言って微笑んだ彼女は、今日一番の笑顔を見せてくれた。
◆◆◆
合同神殿祭のメイン会場はどこかと言えば、それはさっきまで俺がいた中央広場ということになる。だが、それはあくまで催しが多く行われるという意味だ。
もしそれが別の目的……例えば食べ歩きが目的であれば、中央広場の外れから少し進んだところにある商店街や、その外れにある空地にひしめく屋台を目指した方がいい。
といったマイアさん情報を思い出しながら、俺はミュスカとお祭りムードの真っただ中を歩いていた。中央広場から離れると、既にできあがった酔っ払いたちが、陽気に騒いでいる姿がちらほら目に入る。
そんな中、俺はきょろきょろと周りを見回した。俺の行動を不思議に思ったのか、ミュスカが少し心配そうな表情で問いかけてくる。
「あの、カナメ君、どうかしましたか……?」
「ああごめん、今日はミュスカの護衛が見当たらないな、って思ってさ」
『聖女』認定された後のミュスカには、基本的に護衛が付いていた。もちろん神学校内に入ってきたことはないし、そう露骨に傍に立つわけでもなかったが、戦闘能力のない彼女の近くには護衛の姿があるのが常だった。
そんな俺の言葉を聞いて、ミュスカは少し得意気な表情を浮かべた。彼女がこんな表情を浮かべるなんて珍しいな。そんな感想を抱きながらミュスカの言葉を待っていると、ふと彼女の魔力が動いたことに気付く。
それに少し遅れて、ミュスカの周囲がうっすら光り始めた。ひょっとして、と思った俺は、彼女の方へ手を伸ばしてみる。だが、俺の手は彼女には届かなかった。ミュスカの手前三十センチくらいのところで不可視の障壁に阻まれたのだ。
「魔法障壁……?」
「はい……!」
俺がそう呟くと、彼女は嬉しそうに答えた。なるほど、これなら常時護衛をつける必要はないかもしれない。大勢の人間に取り囲まれた時なんかには不安が残るが、そっちは緊急連絡手段でも用意しておけば事足りるか。
四六時中護衛が張りついていると経費がかかって仕方ないだろうし、教会も喜んでいることだろうなぁ。
「護衛の方は、基本的に夕方までの契約ですから、それ以降の外出には制限があったんです。……でも、またこの前みたいなことがあった時に、護衛がいないから助けに行けないなんて嫌ですから……」
そう言うミュスカの瞳には、珍しく強い意志の色が浮かんでいた。この前みたいなこと、というのは、俺がベルゼット元副神殿長から致命傷を受けたことだろうか。そういえば、クルネもあの日を境に厳しいトレーニングをするようになったって、仲間の誰かに聞いた気がするなぁ。
どうやらあの一件は、終わってからも方々に心配をかけているようだった。
「そうだったのか……。ところで、魔法障壁なんてよく覚えられたな。何か魔法書でも読んだの?」
「ファメラさんに教えてもらったんです」
……誰だそれ。突然飛び出した名前は、俺の知らないものだった。そんな思考が顔に出ていたのだろうか、ミュスカが慌てて説明を補足してくれる。
「あ、ごめんなさい、ファメラさんは『聖女』のお一人で、わたしと同じ治癒師なんです」
「あー……」
それを聞いて俺は納得した。魔法書を読むより、現役の固有職仲間に教えてもらった方がそりゃ効率もよさそうだよな。一瞬、またミルティに教わりに行ったのかとも思ったけど、今のミュスカの立場で魔法研究所に行くのはなかなか厳しいものがあるだろうしなぁ。教会の立場というのも、なかなか難しいものがあるようだった。
と、そう考えた時、俺の中に一つの疑問が浮かんだ。
「なあミュスカ、教会の人って、こういう神殿派の祭りに参加してもいいのか? ……あ、別にミュスカが迷惑だとか、そういう意味じゃないからな」
俺が慌ててそうつけ加えると、ミュスカはくすりと笑った。
「たしかに、教会のみなさんは、あんまり積極的に参加しないみたいです……でも、信徒の方々が参加するのは自由ですし、わたしも、大司教様に聞いたら『安全さえ確保できるなら好きにするといい』って許可が出て……」
「へえ、意外だな」
俺はそう答えながらも、いきなり出てきたバルナーク大司教の名前にびっくりした。そうか、そういえばミュスカは『聖女』の一人なんだから、職階的にはバルナーク大司教に近いんだよな。
なんだか、大企業の新入社員が「社長にお願いしたら許可もらえたよ」って言っているような違和感を感じて仕方がないな。
「大司教様は、『教会と神殿では、催しの意味が違ってくる。催しに何かしらの理由を求める我々と違って、彼らは人々の心を明るくすることを第一に考える。そのあたりの空気を感じてくるといい』って……」
だが、ミュスカが口にした内容は、いかにもあの大司教が口にしそうな言葉だった。あのおっさん、今頃どこで何をしてるんだろうな。
「大司教様なら、今頃はミスティム公国に――」
「ちょっと待てミュスカ、それって俺に喋っていい内容なのか?」
「あ……」
そんな話をしながら、俺たちは祭りで賑わう街並みを進んでいった。
◆◆◆
「なああんた、もしかして『聖女』さまじゃねえのか?」
見知らぬおっちゃんからそう声をかけられたのは、俺たちが中央広場からだいぶ遠ざかり、食べ物フロアで賑わう商店街に差し掛かったあたりだった。
だいぶ酔いが回っているのか、真っ赤な顔をしたおっちゃんは、そう言うと手に持った陶製のジョッキをあおった。
「いえ、あの……」
「いや~、よくそう言われるんですよ。私も『聖女』様のお姿を拝見した時、彼女にそっくりだってびっくりしましたからね」
突然のことに口ごもるミュスカに代わって、俺は他人の空似説を主張することにした。けれど、おっちゃんはまだ首を捻っていた。
「そうか……? けどそっくりだと思うんだがなぁ……」
「だって、本物の『聖女』様だったらこんな風に街中をデートしたりしないでしょう?」
「デ……!?」
隣から取り乱した気配が伝わってくるのを無視して、俺はおっちゃんに笑顔を向ける。すると、おっちゃんは納得したように頷いて、俺の肩をばんばんと叩いた。
「そりゃそうだな! 『聖女』さまが男連れでこんなところに来るわきゃねえな! ……姉ちゃん悪かったな、俺はあの『聖女』さまがお気に入りでよ! あんまり別嬪さんだったから間違えちまったぜ!」
おっちゃんはガハハと笑うと、ジョッキを掲げてふらふらとどこかへ去っていった。おそらくお酒を補充しに行ったのだろう。その姿は、やがて人込みに飲まれて見えなくなった。
「あの、カナメ君、ありがとう……ごめんなさい」
おっさんの姿が見えなくなった頃合いで、ミュスカが顔を真っ赤にして謝罪してくる。別に謝られることでもないんだけどな、と思いながら俺も口を開く。
「いや、俺のほうこそ悪かった。とっさに嘘を並べてしまったな」
「……そうですね……」
俺がそう答えると、ミュスカは俺から視線を逸らした。その表情は、なんだか少し不機嫌なように見受けられた。あれ、突然どうしたんだろうか。
と、彼女のそんな様子に戸惑っているところで、俺たちの横手から救いの手が差し伸べられた。
「カナメ! ……それに、ミュスカかい? 二人とも久しぶりだね」
「フレディ!」
救いの神は、数か月ぶりに会う学友だった。今ではダール神殿の神官となっているフレディは、相変わらずの爽やかな笑みを俺たちに向ける。
「フレディさん、お久しぶりです……」
俺に少し遅れて、ミュスカも挨拶を返す。そんな俺たちの姿を見て、フレディは周囲を見回した。
「君たちだけかい? てっきり、他の皆もいるのかと思ったよ」
「セレーネはまだ仕事中だよ。それに、教会派の神官はさすがにこういう場には出てきにくいらしい」
「あぁ……」
俺がそう言うと、フレディはその辺りの機微を理解したようだった。そのあたりの理解の早さは、さすがと言ったところだな。
「ところでフレディ、そっちこそどうしたんだ? 今日はもう非番なのか?」
「うん、今日は朝が早かったからね。その分早めにお勤めが終わったんだよ。だから、こうしてお祭りを楽しんでいるのさ。……不謹慎だと思うかい?」
俺の問いにそう答えると、フレディは質問を返してきた。それに対して俺はかぶりを振る。
「祭りってのは、普段と違う空間を用意することで、日々を真面目に生きている人々に息抜きや刺激を提供することだ。神官だからといって、その対象から除外される謂われはないだろう」
俺がそう答えると、フレディは少し驚いたようだった。少し興味深そうな表情をして、彼は口を開く。
「それは、クルシス神殿の考え方かい?」
「……いや、ただの私見だ」
「あはは、君がそんなに真面目に祭りのことを考えているなんて、思ってもみなかったよ。『仕事が増えていい迷惑だ』って言うと思っていたのに」
フレディの言葉に、俺は苦笑を浮かべた。もしこれが元の世界の話だったら、フレディが指摘した通りの感想を抱いた可能性が高いが、今ではそんな気はしない。
それがこの世界に娯楽が少ないことに起因しているのか、それとも他の理由によるものなのかは分からないが、何とも不思議な心境の変化だった。
「……ところでカナメ、一つ聞きたいことがあるんだが」
そんなことを考えていると、フレディが小声で話しかけてきた。
「ん? 改まってどうしたんだ?」
「いや、ちょっとした確認なんだけどね。……カナメ、クルシス神殿が転職事業を始めるというのは本当かい?」
そう尋ねるフレディの表情は、単なる興味本位というにはいささか不釣り合いな真剣さを帯びているように見えた。見れば、ミュスカも幾分身を乗り出している。やはりその噂は広まっているのだろう。……まあ、教会派としては噂どころの騒ぎじゃないだろうけどね。
「ああ、本当だ」
事ここに至ってしまえば、もはや隠す必要もないだろう。そう判断した俺は、素直に彼の質問に答えることにした。
「やっぱり本当だったんだね……」
フレディはそう呟いたきり、下を向いて黙り込んでしまった。その様子をしばらく見守っていた俺だったが、依然動かないフレディに痺れを切らして声をかける。
「それがどうかしたのか?」
だが、フレディは自分の思考に入り込んでしまっているようだった。そこで、俺は彼の肩をポンと叩いた。はっとした表情と共に、フレディの瞳がこちらへ向けられる。
「……いや、この大陸を揺るがしかねない大事件だと思ってね。そんな渦中の神殿に勤めている君とセレーネは大変だろうね」
「それは間違いないな」
俺はフレディの言葉に同意した。だが、同意を受けたたはずのフレディは、なぜか険しい顔をしていた。
「カナメ、これは本当に大事件なんだよ。君もセレーネも、万が一に備えて用心に用心を重ねてくれ。絶対にだ」
「フレディ、いくらなんでも……」
「――大袈裟だと思うかい? それでもいいから、本当に身の安全に気をつけてくれ」
俺の声に被せるようにしてフレディは口を開く。その声色の真剣さに驚いた俺は、思わずミュスカと顔を見合わせた。その戸惑ったような表情を見て、彼女も同意見であることを確認する。
だが、語調はどうあれ、その言葉の内容におかしなところはなかった。彼が心から心配してくれているのは分かったし、それ以上追及するつもりはなかった。
「ああ、分かったよ」
その答えを聞いたフレディは、再びいつもの爽やかな笑顔を浮かべた。そのことに、俺はなんとなくほっとした。シリアスな空気は心臓に悪いからな。
「ところでフレディ、今から屋台を覗こうと思ってるんだけど、一緒に来ないか?」
まだ場に漂っている真剣な空気をかき消すために、俺は努めて明るい声を出した。美味しいものは大勢で食べた方が楽しいからな。……まあ、仲のいい友人に限るが。
だが、フレディは笑いながら首を横に振った。
「学友に恨まれたくはないからね、僕は遠慮しておくよ。……二人とも、今日は会えて嬉しかった。また会おう」
そう言ってフレディが手で示したのは、屋台が立ち並ぶスペースだった。俺たちはフレディに別れの挨拶をすると、彼が示した方へと歩き出す。すると、背後の微かな声が耳に届いた。
「……カナメ、君は神をどんな――」
「え?」
俺は思わず振り向いた。だが、フレディは「どうしたんだい?」とでも言いそうな顔でこちらを見ているだけだった。……おかしいな、気のせいかな。なんだか狐につままれたような気分になりながら、俺は再び歩き出した。
◆◆◆
「だいぶ食べたな……」
「はい……。でも、美味しかったです」
屋台の料理は、俺が思っていたよりもずっと美味しかった。なんでも、この祭りを年に一度の発表の場とするべく、料理を研究し続けている素人料理人は多いらしい。
これは料理の屋台に限らず、装飾品や衣類などの出店に関しても同じことが言えた。それだけ、この祭りを王都の人々が楽しみにしているということだろう。
そんなことを考えながら、俺は何となく空を見上げた。いつの間にか、空はすっかり夜になっている。それでも祭りの灯りが煌々と輝き続けているおかげで、街に夜が訪れるのはまだまだ先の話になりそうだった。
「ところでさ、他の皆はどうしてるんだ? エディとか、ミンとか、シュミットとか」
その光景を見ていると、ふと彼らの顔が頭をよぎった。なんだろう、卒業式の日の打ち上げを思い出したのかな。
突然の俺の質問に、ミュスカは笑顔で質問に答えてくれる。
「みんな、まだ王都の本教会にいます。でも、そろそろ異動する人も出てきそうで、ちょっと寂しいです……」
そうか、さすがにいつまでも王都に勢揃いしてる筈がないよなぁ。ひょっとするともう会うこともないかもしれないが、元気でやってほしいものだ。
そんなことを考えていると、ミュスカが何かに気付いた様子で俺の服を引っ張った。
「カナメ君、あれ、セレーネさんですよね……?」
「あ、本当だ」
ミュスカの指し示す先にいたのは、間違いなくセレーネだった。彼女もこちらに気付いた様子で、こちらへと手を振ってみせる。
やがて会話できる距離まで近づいてきたセレーネは、楽しそうな表情で口を開いた。
「どう? 二人でさんざん楽しんだかしら? さぁ、今度は私に付き合ってもらうわよ」
「お、おう……?」
セレーネと合流して色々引っ張り回された俺が自室へ帰り着いたのは、夜もだいぶ更けてからのことだった。