湖の街Ⅴ
俺たちが乗ってきたものより一回り小さい手漕ぎ船。それが波に揺られている様子を、俺たちは緊張した面持ちで見守っていた。
「こっちの方角であっているんだな?」
「はい。救助船が来るとしたら南ミラムール発でしょうからね。ゼザ従兄さんは、南側を重点的に見張っているはずです」
「だとすれば、逆から船が来るのは怪しくないか?」
「北方面からという可能性もゼロじゃありませんし、この島のどこかに隠し持っていた可能性だってあります。少なくとも確認しないわけにはいかないでしょう」
そんなシュミットたちの会話を聞きながら、陽の光を反射する湖面をぼんやりと眺める。ちゃんとした監視は視力のいいテオが担っているので、俺はどちらかと言えば暇つぶしの意味合いが強い。
「シュミット、そう焦るなって。今は自分の力を信じろ」
落ち着かない様子のシュミットに話しかけると、彼の隣にいたラッセルも強く頷いた。
「そうですよ。罠師の固有職持ちなんて、凄いじゃないですか」
……そう。今のシュミットは罠師の固有職を得ていた。と言っても、資質はあるが転職可能なレベルではなかったため、俺がその分を負担している形だ。
特殊職とは言え、上級職でもなければ数十人を相手にするわけでもない。この程度であれば、クルシス神の侵食の心配はないはずだ。
「くそ、他人事だと思って……」
シュミットはぶつくさと毒づく。「お前に転職してもらう」と伝えた時には、仏頂面ながらもソワソワしていたものだが、固有職が罠師だと知ってからはずっとこんな感じだ。
「大丈夫だ。エネロープ神殿の神殿長は盗賊だし、クルシス神殿のアルバート司祭だって以前は破砕者だったからな。イメージなんて気にすることないって」
とは言え、シュミットの気持ちも分からないではない。アルバート司祭の破砕者に見劣りしない、聖職者らしからぬ固有職であることは間違いない。
「問題は、能力をどう活かすかだ」
俺は湖面に浮かぶ船を眺める。一見するとちゃんとした船に見えるが、その正体は船の残骸でシュミットが作成した捕獲罠だ。大きな木箱らしきものから、網や輪っか付きロープが大量にはみ出している。
作動原理がさっぱり分からないが、試しにラッセルが触れてみたところ、あれよあれよと言う間に網に搦め取られていたので、性能的には問題ないのだろう。
ちなみに、そんな即席トラップを船の形に見せかけているのもシュミットの仕業だ。幻影偽装という特技であり、罠に被せた布などに幻覚効果を持たせることで、罠を気付かれにくくするためのものだ。
「見事なものですね。不可視化や映像の投影は僕も得意ですけど、別のものに見せかけるのは苦手です」
褒め言葉を口にしたのは、妖盗のテオだ。元々は彼の光魔法で罠の見た目をごまかすつもりだったのだが、シュミットが役立つ特技を覚えていたため、出番がなくなったのだ。
「その辺りは幻術師の独壇場だからな。むしろ、罠師にこっち系の特技があることを初めて知ったよ。考えてみれば、けっこう凶悪な組み合わせだよな」
「そうなんですか? 神子様でも知らないことがあるんですね」
「固有職そのものはともかく、特技のほうはデータを集めている段階だからな」
……と、そんな話をしていた時だった。
「――来ました!」
テオが鋭い声を上げる。俺にはまだ視認できないが、彼が言うからにはそうなのだろう。
「本当だな。俺にも見えた」
「ええっ? 僕だって目には自信があるんですけど……何も見えません」
「ラッセル、大丈夫だ。シュミットの視力には固有職の補正が入ってるから」
そんな会話をしているうちに、俺の目でも視認できるようになる。今度はちゃんと海賊の固有職資質を確認できたので、村人にしてしまえば一件落着だ。
ただ、あまり多用したくないことと、突然『村人』に戻った彼が混乱して溺れることを懸念して、それは奥の手にするつもりだった。
「ラッセル。お前は離れていろ。従兄との関係を壊したくないだろう」
「わ、分かりました」
シュミットたちがそんな会話を交わしている間に、スイスイと湖を移動する人影は偽物の船に接触して――。
直後。捕獲罠が作動したようで、人影が慌てたように手足を動かす。その数秒後、様子を見ていたテオが声を上げた。
「今だ!」
そして、彼は手にしていたロープを全力で引っ張った。シュミットが作った罠と繋がっているものであり、今は海賊の固有職持ちと繋がっているものだ。
「テオ、頑張れ!」
じきに、彼が持っているロープがピンと張った。海賊も抵抗しているようだが、水中では踏ん張りが利かない。妖盗は力の強い固有職ではないが、この綱引きはテオに軍配が上がったようだった。
「おい! ロープを切る気だぞ!」
だが、シュミットが焦った声を上げる。俺の目にも、海賊が何かを取り出しているのが見えた。ならば――。
「キャロ、頼む!」
「キュッ」
俺の声に答えると、キャロは小さな後ろ足でロープを踏みつけた。そして――もう片方の後ろ足で、海賊側のロープを蹴り飛ばす。
「うおおおおおおっ!?」
一気に湖面から引っこ抜かれた海賊の悲鳴が上空から聞こえて……やがて、俺たちの近くに墜落してくる。しばらく呆然としていた彼は、やがて怒りの形相でこちらへ駆け出してきた。
「――あ。こけた」
だが。こんなこともあろうかと、俺たちの周囲には簡単な罠がいくつか仕掛けてあった。そして、それを仕掛けたのはもちろん罠師だ。
「あれは頭からいきましたね……というか、あんな勢いでこけるものですか? 張られた糸につまづいただけですよね?」
「それが罠師の凄いところなんだ。罠の特性を底上げするからな」
「……今度は見事に穴に落ちましたね」
「なんだか気の毒になってきたな」
俺はテオと顔を見合わせる。戦わずしてボロボロになった海賊と休戦するまでに、そう時間はかからなかった。
◆◆◆
「――ったく。島に置き去りにされた人間が、ノコノコと顔を出しに来るなんて前代未聞だよ」
湖の民の本拠地である北ミラムールの街。とある民家で、俺は彼らの長老と再会を果たしていた。カーロッタと名乗った彼女に、俺は笑顔で答える。
「命まで取られる気はしませんでしたから」
その言葉に嘘はない。ミラムールに『名もなき神』の残党がいるという情報は誤りで、ただアムリアを慕っている人々がいるだけだ。それが俺の結論だった。
「だからって敵の巣窟に乗り込むかねぇ。しかも、助け出されたその足で」
「それが効率的だと判断しました」
俺はにこやかに答える。戦意を喪失した海賊と和解した後、彼が北ミラムールから呼んで来た船に乗って、そのままこの街へ赴いたのだった。
テオは海賊の裏切りを心配していたが、いざとなれば相手を村人に転職させればいいだけだ。
「ゼザさんからも聞きました。どのみち、私たち神官サイドはこっそり助け出すつもりだったんでしょう?」
「……ゼザ。お前は口が軽くていけないね」
「でもよ、こいつらも話してみたら結構いい奴らだぜ?」
「問題はそこじゃないよ。聖地に踏み入った人間をあっさり許してちゃ、他の人間に示しがつかない」
カーロッタさんは、そう言って海賊のゼザをたしなめる。彼はカーロッタさんの孫のようだから、後々を見据えた教育なのかもしれない。
「湖の裁きを受けさせて、適当な頃合いで助けるつもりだったのにねぇ」
「その『湖の裁き』とはどんなものですか?」
気になって問いかけると、ゼザのほうが説明してくれる。
「その名の通り、湖に罪人を突き落とすのさ。罪の重さによって、岸までの距離が変わったり、手枷のような試練が増えたりするんだ」
「なるほど……」
なかなか恐ろしい話だが、だからこそ『裁き』なのだろう。辺境の一部にも、『森の裁き』という似た風習があった記憶がある。
「それなら、今回は海賊のゼザさんという障害を乗り越えたという実績をもって、湖の裁きの代わりにできませんか?」
「……アンタ、図々しいね。本当にあの転職の神子なのかい?」
彼女はそう言って、クックッとしわがれた笑い声をもらす。転職の神子の英雄譚と実物とのギャップに戸惑う人は多いが、カーロッタさんの場合、それがいいほうに作用したようだった。
「いいさ。それで手を打とう。下手な湖の裁きより難易度が高いことは明らかだからね」
彼女はあっさり頷く。すると、今度はシュミットが口を挟んできた。
「アウルはどうなる? 湖の裁きを受けたことになるのか?」
「無理だね。あの罰当たりは何も乗り越えちゃいないよ。……というか、一緒の船に乗せなかったあたり、アンタたちも愛想をつかしたんだろ?」
「乗船は勧めたのですが、行き先が北ミラムールだと知って断られましたよ」
そんな事実を明かせば、カーロッタさんは大笑した。
「ハハ、そりゃ無理もない」
「私としても思うところはあるのですが……カーロッタさん。よろしければ、一つ取引をしませんか?」
「なんだい?」
「あの聖地を観光地にされないように、手を打つことができます」
「……本当だろうね?」
彼女は真剣な様子で聞き返してくる。その鋭い眼光をまっすぐ見返して、俺は概要を口にした。
「統督教に申請して、あの場所を聖地として登録しましょう。湖の民が古くからこの地で暮らしていたことは明らかですし、あの場所で昔から礼拝を行っていたという証拠なり心証なりが得られれば、ほぼ確実に認定されます。
そうなれば、あの場所に無法に侵入した者は統督教を敵に回すことになりますからね」
「統督教ねぇ……」
カーロッタさんは胡散臭そうに呟く。土地神派や伝承派によく見られる傾向だが、統督教をただの目くらましだと思っているのだろう。
上手く使えば国家に対しても通用する鎧になるのだが、有力宗派の馴れ合いだと考えて距離を置いている宗派は少なくない。
「国家や大商人は統督教の動向を注視しますからね。だからこそ、アウルさんは私やシュミットを引き込もうとしたのでしょう」
もちろん、聖地に認定されたからといって他者を完全に排除することはできないが、勝手に占有されることはないだろう。
その後の方向性については、湖の民と他の住民で話し合えばいい。
「……」
カーロッタさんは中空を睨んだまま黙り込む。考えをまとめているようだった。
「いいだろう。このままじゃ、どうせ第二、第三のアウルが現れるだけだからね」
やがて、カーロッタさんはそう結論を告げる。そして、俺たちを見てニヤリと笑った。
「最大派閥の王国教会と、転職の神子が推薦してくれるんだ。認定が下りないなんてことはないだろうさ」
「皆さんが礼拝に来たところも、聖地を荒らされて激怒したところも目の当たりにしましたからね。ちゃんと証言しますよ」
俺もまた笑顔で答える。シュミットがどう動くかは分からないが、俺は湖の民に協力するつもりだった。一時は敵対したものの、やはり辺境の人々と似た気質の彼らは、俺にとって好ましいものだったのだ。
「なるほど、それは分かったよ。……それで? 取り引きってからには、アンタも何か無茶を言おうとしてるんだろう?」
「話が早くて助かります。お願いしたいことは二点ありまして、一つ目はアウルさんの減刑です。彼の肩を持つつもりはないのですが、今回の件で命を落としたとなれば、さすがに寝覚めが悪いでしょうからね」
「……ま、いいさ。聖地に入れなくなって臍を噛むアウルの顔を見るのも一興だろう」
少し悩んだ様子だったが、カーロッタさんはかすかに頷いた。その様子を確認して、俺は言葉を続ける。
「そして、二つ目ですが……『聖女』アムリアについてお伺いしたいのです」
◆◆◆
「なんだい、ずいぶん部屋が狭くなったね」
「すみません……わたしにとっても重要なお話なんです」
「せめて彼女だけでも立ち会わせてもらえませんか? お邪魔でしたら、私は外に出ています」
「ハン。今さら、一人や二人増えたところで大差ないさ」
そんなやり取りが行われたのは、俺がアムリアについて問いただそうとした直後のことだった。俺やシュミットが消息不明になったことで、ミュスカとミンがカーロッタさんの家に押し掛けてきたのだ。
「椅子を取ってこさせるから、ちょっと待ちな」
そう告げると、孫にして海賊のゼザが隣の部屋へ姿を消した。椅子を取りに行ったのだろう。
「カナメくん、ご無事でよかったです」
「心配してくれてありがとう。それにしても、よくここが分かったな」
「ミンさんが調べてくれたんです。おそらく湖の民が関わっているだろうって」
「ミュスカがいてくれたから、みんなが協力的で調べやすかったわ」
そんな会話を交わしていると、トンと近くに椅子が置かれる。ゼザが椅子を持ってきてくれたのだ。
「ありがとうございます」
「お、おう」
ミュスカが微笑むと、彼は困ったように視線を逸らした。『ルノールの聖女』を前にして照れているらしい。なにやら「俺はアムリア様一筋だ……」と何度も自分に言い聞かせている。
そして、全員に椅子が行き渡ったところで、俺たちは話を再開する。
「それで、アムリアの話だったね。何が聞きたいんだい? あの偽アムリアを使った道化芝居に関係するんだろ?」
そう答えるカーロッタさんの表情は固い。これまでは損得勘定で話をしていたが、ここからは別物だということだろう。
「湖の民にとって、彼女がかけがえのない恩人だという話は聞きました。彼女はふらりと現れて、ゼザさんを海賊に転職させたんですよね?」
「そうだよ。寄付を要求することなく、『教会には秘密ですよ』って転職させてくれたんだ」
カーロッタさんは懐かしそうに語る。その表情は、これまでに見たことがないほど柔らかいものだった。
「その後も、たまに顔を見せてくれたんだけどねぇ。忙しくなったのか、王国教会の『聖女』になってからはさっぱりさ」
そう言いながらも、アムリアの不義理を責める様子はない。それだけ深い思いがあるのだろう。
「なるほどな。だからアムリアの偽物に反応していたのか」
シュミットは納得した様子で呟いた。それはそうだろう。大恩あるアムリアの偽物が街を闊歩しているとなれば、腹を立ててもおかしくはない。
「――シュミット。そっちも説明してくれるんだろうね? どうしてアムリアの噂を流したりしたんだい。そこのゼザなんかは、噂を真に受けたせいでぬか喜びさせられたもんさ」
なるほど。だからアムリアを思わせる偽物に苛立っていたのか。カーロッタさんの言葉で、偽アムリア一行に喧嘩を売ったゼザの姿を思い出す。
「……それは悪かった」
シュミットは丁寧に頭を下げる。だが、それ以上は語らず俺のほうを見る。どこまで話すか、判断しかねているのだろう。
「実は、この街に『名もなき神』の残党がいるという情報がありまして」
「――おい、カナメ!?」
俺の言葉に、シュミットが慌てた声を上げる。真実を告げる気なのかと、その目が問いかけていた。
「『名もなき神』と言えば……しばらく前に、大陸中を恐怖に陥れた化物じゃないか。そんな奴に狙われてるのかい?」
「いえ、あくまで残党です。そして……奴らは『聖女』アムリアの身柄を狙っているそうなのです」
悩んだ末、俺は真実を伏せることにした。彼らを救ったのは地盤固めの一環だったのか、それとも人間らしい感情が残っていた頃の話だったのか。
その真偽はもう分からないが、湖の民にとってアムリアが大切な存在であることだけは間違いなかった。
「……なるほどね。落ち目になったから、あの子の転職能力を利用して再起しようってわけか。辺境という成功例もあるからね」
その一方で、カーロッタさんは得心がいったとばかりに相槌を打った。そこへゼザが嬉しそうに口を挟んでくる。
「ってことはよ、アムリア様は生きてるってことだな! ……ハハ、そうこなくっちゃな」
その嬉しそうな笑顔を見ると、ちくりと胸が痛む。だとしても、俺は真実を伝える気になれなかった。
「そんなことなら、この街に帰ってくりゃいいのにさ。少なくとも、アタシたちはアムリアの味方だよ」
本人に語りかけるように、カーロッタさんは優しい声音で告げる。その表情もまた、年長者らしい慈愛に満ちたものだった。
――もし。もし、その声をもっと早く聞いていれば。或いはアムリアの運命も変わっていたのだろうか。考えても仕方のない問いが、頭の中を巡り続ける。
「……そうですね」
その一言だけを、俺はなんとか絞り出した。
◆◆◆
「これで一件落着か……意外と長丁場だったな」
「カナメ君、お疲れさまでした。おかげで助かりました」
「こっちこそ助かった。情報収集はすっかり任せてしまったな」
「でも、危険なところは全部カナメ君とシュミット君に任せちゃったわね」
「フン。適材適所というやつだ」
「キュッ」
五人と一匹で、賑やかに喋りながら北ミラムールの街を歩く。カーロッタさんが南ミラムール行きの船を手配してくれたため、俺たちは船着き場へ向かっていた。
「シュミット。湖底遺跡の聖地化を勝手に進めてしまったが、そっちは大丈夫か?」
「問題ない。俺が提案すればこじれるが、お前なら変なしがらみもないからな。……ミラムールのクルシス神殿は嫌味の一つも言われるだろうが」
「その代わり、アウルさんが命を狙われることはなくなっただろう? そこも含めて評価してもらいたいものだな」
「そこは恩着せがましく説明しておく。大きな貸しだからな。今後、奴を御しやすくなるだろう」
シュミットは不敵に笑う。やっぱり某大司教みたいな笑い方になってきたな。
「けど、一発くらいは殴っておきたかったな。今考えれば、湖の民と鉢合わせたのも計算づくだろうし、その後に訪れるだろう窮地も、俺たちの力を当てにして切り抜けるつもりだったんだろう?」
「そうだろうな。あの商人はそういう男だ」
俺のぼやきに同意すると、シュミットはなぜか自慢げに俺の肩を叩いた。
「実はな……ドサクサに紛れて、奴を罠に引っ掛けてやった。最低でも顔に青痣くらいはできているはずだ」
「いつの間に……」
「フン。俺を利用しようとした罰だ。……ついでにお前の分もな」
そう告げて、シュミットは北ミラムールの町並みを見回した。湖の民が多く住む街だけあって、他の街とは少し趣の違う建築用式が目に入ってくる。
「アムリアの件では遠回りをしたが、結果的に湖の民との理解を深められた。お前にも……まあ、一応感謝しておく」
「あのシュミットが感謝した……!?」
かけられた言葉に驚いて、つい本音が出る。すると、シュミットはムッとした様子でこちらを睨みつけた。
「おい、どういう意味だ!」
「ええと……人間は変わるものだってことかな。正直に言って、シュミットがここまで他宗派に心を砕くとは思ってなかった」
そう取り繕うと、ミンがクスリと笑って口を挟んだ。
「というか、他宗派にもそれなりに敬意を払うようになったの、カナメ君の影響でしょう?」
「な――」
思わぬ指摘に絶句するシュミットに、ミンは悪戯ぽく笑いかける。
「いつだったか、会議後の懇親会で『他宗派の中にも参考となる人間は存在する。どこぞの慇懃無礼な神子とかな』って言ってたじゃない。聞いてたわよ」
「聞き違いだ! 言ったとしてもこいつのことではない!」
ぷるぷると身体を震わせて、シュミットは必死で否定する。
「シュミット君。照れなくてもいいと思います」
「神子様……やっぱり、お二人は仲がいいんじゃ――」
「キュキュッ」
俺たちへ向けて、三人プラス一匹の生暖かい視線が向けられた。思わず顔を見合わせた俺とシュミットは、同時にぷいっとそっぽを向く。
「違う!」
俺たちの唱和した声が、湖の街に響きわたった。
ご覧くださってありがとうございました。
コミカライズとは別の話ですが、4年ぶりに新作を投稿しています!
これは恋愛ジャンルなのかローファンタジーなのか……と今もジャンル分類に悩んでいますが、「砂糖を吐いた」「ちょっと甘すぎた」と好評(?)を頂いている糖度の高い作品です。
新作タイトルは「現代に生きる錬金術師は、記憶を失ったハニトラ工作員と甘い同棲生活を始める」です。40話くらいの短いお話ですので、よかったらご覧くださいね。




