湖の街Ⅰ
エピローグから5年くらい後のお話です。
「え? 三人目の転職師が見つかったの?」
とある日の夜。神殿での仕事を終えて帰宅した俺は、クルネと会話をしながら外套を脱いでいた。話題になっているのは、今日プロメト神殿長が教えてくれた情報だ。
念話から伝わってきた様子では、胡散臭いが無視もできない、といった感触のようだった。
「噂が事実なら、そういうことになるな」
「じゃあ、スカウトしに行くのね」
「まあ、そうなんだが……」
その確認に曖昧な言葉を返すと、俺は彼女の腹部へ視線を移した。いつもすらりとした体型のクルネだが、そのお腹はかなり大きくなっている。俺たちの二人目の子供が宿っているからだ。
さらに言えば、その子には相当量の神気が備わっているようだった。あと一、二か月で生まれるということもあって、俺はクルネからあまり離れたくなかった。
「せめてジュネがいれば、代理を頼めたのにな」
ついぼやく。神気が視えて、かつ有能なジュネであれば、噂の見極めや勧誘を任せることもできただろう。だが、つい十日ほど前に彼女は辺境を発ち、故郷のセイヴェルンへ帰ってしまったのだ。
「ジュネちゃん、元気かな」
「今頃は船旅を楽しんでいるんじゃないか? わざわざ海魔女の島を寄港地にする便を選んでたしな」
「いいなー。私もまた行きたいな」
「今度は家族みんなで行こう。……まあ、その子が大きくなってからだが」
そんな会話をしながら、俺は頭を悩ませる。
「となれば、いっそファーニャに任せてみるか……?」
「えっと……ファーニャちゃん、そういうの得意だっけ」
クルネは心配そうな顔を見せる。転職師としてはだいぶ落ち着きを見せるようになったファーニャだが、交渉力という意味では不安がある。
「カナメ、私なら大丈夫だから。ツカサの時だってつわり以外は元気だったし。ほら、今だってなんともないでしょ?」
「うーん……」
なおも決心がつかず悩んでいると、クルネが俺の手を両手で包んだ。
「だから、気にせず行ってきて。クルシス神官以外の転職師がいると、カナメの気苦労が増えちゃうし」
クルネの言葉は正しい。大陸レベルで有名になったとはいえ、うちの神殿はまだ立ち上げ段階だ。今の時点で神殿の外に転職師がいることは、あまり歓迎できないというのが正直なところだ。
まだしばらくは転職市場を独占しておきたい俺としては、噂の人物をクルシス神殿へ勧誘できればよし、無理なら運営の方向性を考え直すといった対応を考える必要があった。
「そうだな……それじゃ――」
そう言いかけた時だった。甲高い泣き声が家の奥から聞こえてくる。
「あ、ツカサが起きたみたいね」
「だな」
俺たちは立ち上がると、息子が眠っていたはずの部屋の扉を開けた。二歳になるツカサと、クルネの両親が揃ってこちらを見る。
「――っ!」
その瞬間、号泣していたツカサがクルネの下へ走り寄ってきた。歩けるようになったとはいえ、その足取りはまだ頼りない。
「ツカサ、おはよう。どうしたの?」
クルネが抱き上げると、ツカサはピタリと泣き止んだ。その様子を見ていたクルネの母親――アルマさんが、楽しそうに孫の顔を覗き込む。
「目が覚めたら、お母さんがいなくてびっくりしたのよね?」
「懐かしいな。小さい頃のクルネもそうだった」
そして、父親のクラウスさんも懐かしそうに笑う。二人は生業である雑貨屋を息子――クルネのお兄さんに任せて、妊娠と育児で大変なクルネを手伝いにきてくれているのだ。
「んー!」
と、クルネに抱っこされていたツカサが何らかの不満を訴えている。身をよじって腕の中からダイブしようとしているのは、下ろせというお気持ち表明だろうか。
「下りたいの?」
クルネも同じ結論に達したようで、そっとツカサを床に下ろす。すると、ツカサはきょろきょろと周りを見回した。そして……。
「あおちゃ!」
元気に声を上げるなり、リビングへ向かって突撃する。おそらく大好きなキャロを探しに行ったのだろう。
「もう私は用済みなんだ……もうちょっと抱っこさせてくれてもいいのに」
「気持ちの切り替えが早い子なんだと、そう喜んでおこう」
拗ねたように呟くクルネに声を掛けて、ツカサの後を追う。予想通り、我が子はキャロとじゃれているようだった。瞳を輝かせて、追いかけっこをしたり撫でまわしたりしている様が目に入ってくる。
「キャロ……すまない。いつでも逃げていいからな」
「キュッ!」
俺が真面目に謝れば、キャロは元気な鳴き声で答えた。ツカサの相手をしてくれるのは助かるが、二歳児なんて日向ぼっこの天敵でしかない。
そのため、子供には手が届かないリビングの高い位置にキャロの寝床をもう一つ設けており、キャロが嫌になった時には逃げられるよう備えているくらいだ。
「あの子、本当にキャロちゃんが好きよね……」
「ああ。このことがキャロの親衛隊にバレたら、どうなるか分からない」
真剣な声色で答えると、クルネは小さく噴き出した。
「さすがにそんなことないわよ。……あ。それで、結局どうするの?」
「なんの話だ?」
ふと思い出した様子のクルネに問いかける。
「三人目の転職師を見つけに行くかどうか、悩んでなかった?」
「ああ、そうだったな。……とりあえず、さっと行ってさっと帰って来ようと思う」
そう心を決めれば、クルネは微笑みとともに頷いた。
「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「ああ、すぐ帰ってくる。……それまで待ってるんだぞ」
クルネの腹部にそっと手を当てて、優しく話しかける。やがて、ポン、とその手を内側から蹴られた気がした。
◆◆◆
ミラムールは王国北部にある街だ。その特徴は、なんといっても街の中心に位置する巨大な湖だろう。このミリアム湖のほとりで暮らし始めた人々の街であり、湖を取り囲むように複数の街が点在している。
そのため、実際にはミラムールという名称の街は存在せず、北ミラムール、南西ミラムールといった呼称が用いられているようだった。
「へえ……予想以上に活気があるな」
「キュッ」
俺の呟きにキャロが相槌を打つ。巨大怪鳥便を使ってこの街へ着いた俺は、最も栄えているという南ミラムールへ足を踏み入れていた。
「神子様。どちらへ向かいますか?」
そう尋ねてきたのは、クルシス神殿で雇っている護衛の青年だ。妖盗の固有職を持っており、名前をテオという。
普段はファーニャの護衛に着くことが多いのだが、クルネの次に信頼できる護衛であり、今回は急な用件ということもあって急遽駆り出した形だった。
「噂を集めないことには始まらないからな。足がかりとして、まずこの町のクルシス神殿に顔を出そうと思ってる」
「分かりました」
「それから……ここで『神子様』呼びは控えてくれ。バレると動きにくくなる」
俺は小さな声で注意する。そのために、今回は法服を着用せずに来たのだ。
「――あ。申し訳ありません。では、なんとお呼びしたらいいですか?」
「普通にカナメって呼んでくれればいいさ。さすがに名前だけじゃバレないだろうし」
「分かりました」
そんな打ち合わせが終わったことを察したのか、キャロが俺の肩に飛び乗ってくる。小さな鼻先を北へ向けて匂いを嗅いでいるのは、そちらにある湖の匂いを捉えているのだろうか。
そうして、俺たちはクルシス神殿を目指して歩みを進める。と言っても地図があるわけではなく、場所の目印をプロメト神殿長に教えてもらっただけだ。人に道を尋ねながら進むしかないだろう。
「ここは教会勢力が強い街だったな」
「はい。小さな合同神殿を除けば、神殿はこの南ミラムールにしかありません。その一方で、教会はどの街にもあるようです」
俺が問いかければ、テオはスラスラと答えてくれる。妖盗というトリッキーな固有職を持っている割に、彼自身は丁寧で真面目な性格だ。下調べもきっちりしてくれていたのだろう。
「……お、なんだかいい匂いがするな」
そう呟いたのは、魚が焼ける香ばしい匂いを察知したからだ。つい匂いがするほうへ進路を変えると、飲食店が立ち並ぶ通りへと出る。
「海と湖じゃ、水産物にも違いがあるだろうからな。テオ、昼食にしよう」
「みこ――カナメさんは、先ほど巨大怪鳥便の中で携帯食料を食べていらした記憶がありますが……」
「それはそれだ。その地方の名物料理は、現地の人たちとのコミュニケーションツールにもなるからな。言うなれば仕事の一環だ」
「……分かりました」
そう答えてから、テオは少しだけ笑いをもらした。どうしたのかと視線で問いかけると、彼は慌てたように背筋を伸ばす。
「いえ、その……クルネ様から、『カナメが買い食いしたがると思うけど、よかったら付き合ってあげてね』と言われていたものですから」
「クルネ……さすが、的確な引継ぎだ」
俺はここにいないクルネに感心すると、有望な料理店を物色する。そして、そのうちの一つに白羽の矢を立てて……。
「――えっ? ひょっとしてカナメ君?」
「はい?」
背後から呼びかけられた俺は、驚いて後ろを振り返った。すると、そこに立っていたのは数年ぶりに会う学友だった。
「あれ? ミンじゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だな」
彼女は王国教会の所属であり、辺境に近い王国南部の街リビエールを本拠地としている。辺境とのやり取りも多いため、たまには顔を合わせていたのだが、なぜここにいるのだろうか。
「本当ね。『転職の神子様』がこんなところにいるなんて、どういう風の吹き回し?」
ミンは声のボリュームを下げて聞いてくる。俺がクルシス神殿の法服を着ていないため、内密の案件である可能性を考慮したのだろう。察しがよくて助かるな。
「それは……」
俺は一瞬言葉に詰まる。この街に転職師がいるかもしれないから、スカウトに来た。それは後ろ暗い内容ではないが、他宗派であるミンに気軽に明かすことでもない。
彼女を通じてその情報が教会に持ち帰られた場合、教会に新しい転職師を取り込まれてしまう可能性を考えないわけにはいかなかった。
「――あ、やっぱりカナメ君だったんですね」
と。俺が言葉を選んでいる間に、ミンの後ろから近付いてくる人影があった。際立った容姿を持つ彼女は、道行く人々の視線を集めながらこちらへ向かってくる。
それは、辺境を代表する有名人にして、俺の学友でもある『ルノールの聖女』ミュスカだった。
「せ、聖女様!?」
俺が口を開くより先に、護衛のテオが声を上げる。別宗派とは言え、ルノールの街でミュスカの顔を知らない人間はほとんどいない。
「ミュスカ、久しぶり……でもないか」
「ふふ、そうですね。一か月前にセレーネさんと一緒にお話しましたから」
ミュスカは微笑むと、こちらへ向かって両手を伸ばした。と言っても俺に向けたものではない。その腕に向かって、俺の肩に乗っていたキャロがぴょんと飛び込む。さすがは十年近い付き合いだけあって、どちらも自然な動きだった。
「……キャロちゃんを抱っこしていたら、なんだかほっとしました」
キャロに顔を埋めてもふもふを楽しんでいたミュスカは、やがてほぅ、と息を吐いた。その表情を見た俺は首を傾げる。
「そんなに緊張する案件があるのか? ああ、もちろん機密事項なら話さなくていいぞ」
ミュスカは人々から大きな支持を受けている『聖女』であり、上級職である癒聖の固有職持ちでもある。
高い実力と大きな影響力を持つ彼女が、こうまで緊張する案件とはなんなのだろうか。
「それは……」
ミュスカは傍らのミンへ視線を向ける。すると、視線を受けたミンは静かに頷いた。
「クルネさんが妊娠中だから黙っていただけで、もともとカナメ君の耳には入れるつもりだったもの。話しても問題ないと思うわ。……というか、最大の当事者でしょうし」
「ええと、何の話だ?」
意味ありげな言葉に眉をひそめる。すると、ミュスカは窺うように周囲を見回した。彼女は俺の耳元に口を寄せると、小さな、だがはっきりした声で目的を告げた。
「――この街に、アムリアさんがいるかもしれません」
◆◆◆
「それで、アムリアがいるってどういうことなんだ?」
俺と護衛のテオ、そしてミュスカとミンの四人は、料理店の個室ブースで向かい合っていた。
「私たちにも分からないのよ。言えることは、この街に転職師らしき人物がいて、その特徴が元聖女のアムリアさんに酷似しているということだけ」
「なるほどな……」
ミンの説明を受けて納得する。どうやら、俺たちは同じ噂話に引き寄せられたようだった。アムリアに似ていたというのは初耳だが、彼女の容貌はあまり知られていない。教会ならともかく、クルシス神殿の情報網でそこまで掴むのは難しかったのだろう。
「でも、アムリアさんはもういないんでしょう? バルナーク様にそう伺ったわ」
「ああ、そのはずだ。俺は『名もなき神』の消滅を見届けたからな」
元『転職の聖女』アムリア。転職師の能力を持つ教会の『聖女』であり、『名もなき神』と融合を果たした彼女は、俺とクルネによって滅ぼされたはずだった。
「たぶん、よく似た別人だと思いますけど……万が一に備えて、わたしが派遣されたんです」
「なるほど。『名もなき神』の呪いに対抗できるのはミュスカの聖域だけだからな」
そう納得してから、俺は苦笑を浮かべた。
「けど、それなら言ってくれればよかったのに。ミュスカ一人じゃ不安だろう」
なんと言っても、相手は上級職が束になっても敵わなかった強敵だ。ミュスカが緊張するのも無理はなかった。
「カナメ君の耳に入ると、クルネさんにも伝わるでしょう? クルネさんは身重なんだから、不安にさせたり、万が一にも戦うと言い出したら申し訳ないもの」
「ありがとう。その気遣いには感謝するよ」
素直にお礼を口にする。責任感の強いクルネのことだ。そんな話を聞けば、本当にこの街まで来かねない。
「かと言って、『辺境の守護者』や『辺境の賢者』に助力を願うには情報の精度が低いし。『聖女』アムリア関連の話は、教会としてもタブーというか……できるだけ公にしたくないのよね」
「まあ、『名もなき神』と融合したなんて言えないよな……」
とは言え、ミュスカだけに任せるのはさすがに薄情な気がするな。『名もなき神』が出てくることはないと踏んでいるのだろうが、あまりに防御一辺倒だ。そう告げれば、ミンは小さく肩をすくめた。
「間が悪いことに、メルティナさんとメヌエットさんも妊娠中なのよ。……もちろんおめでたい事だけど」
「それはまた……」
ということは、今度生まれるうちの子は、あの二人の子供と同い年になるのか。なんだか不思議な気分だな。そんなことを考えているうちにも、ミンは話を進める。
「ということで、カナメ君に一つ提案。私たちと手を組まない?」
「手を組むとは?」
突然の提案に、俺は若干の警戒心を呼び覚ます。ミンが俺を陥れるとは思わないが、彼女のバックにいる教会幹部までを信用できるわけではない。
「これは推測だけど、カナメ君がこの街へ来た目的は噂の転職師のスカウトでしょ? そうじゃないと、カナメ君みたいな重鎮が辺境を離れる筈がないわ」
「へえ?」
図星を突かれながらも、俺は曖昧な言葉を返した。だが、ミンは気にする様子もなく言葉を続ける。
「私たちがカナメ君に提示できるメリットとしては、まず情報ね。ここは教会派の信徒が多いから、色々な情報が集まってくるわ。それに、組織としてバックアップもできる。この街にもクルシス神殿はあるけれど、街への影響力には大きな開きがあるわ」
そう言って、ミンは指を一つずつ曲げていく。
「そして、言うまでもないけどミュスカの存在。もし本当に『名もなき神』がいた場合、ミュスカの存在は明暗を分けるはずよ。
あと……もし噂通りに転職師がいて、なおかつ『聖女』アムリア関連じゃなかった場合には、私たちは一切関与しない」
つまり、転職師をスカウトする邪魔はしないということか。それは悪くない条件だった。万が一『名もなき神』が復活していても、俺が時空魔導師に自己転職して空間転移で逃げればいいしな。
「なるほど。そして、そっちはキャロとテオという戦力を得られるわけか」
上級職のキャロはもちろん、妖盗のテオも使いようによってはかなりの戦力になる。向こうにとっても悪い話ではないだろう。どちらかと言えば、こっちのほうが得をしている気がするが……。
「あと、カナメ君にも期待しているわよ」
「俺を戦力に数えると後悔するぞ」
「そんなに真面目な顔で言わないでよ」
ミンはおかしそうに噴き出した。彼女の隣を見れば、ミュスカも口元を押さえて身を震わせている。笑いの収まらない表情のまま、ミンは言葉を付け足した。
「カナメ君に期待しているのは、噂の真偽を見極めるほうよ。ただの噂にしては、どうも引っ掛かるのよね」
そんなやり取りの末、俺たちは手を組むことで合意した。情報の共有や今後の方針、連絡を取る方法などの話を、ミンがテキパキと詰めてくれる。
「……こんなところかしら。カナメ君、他に聞いておきたいことはある?」
「いや、全然」
「本当に? 手を組むんだから遠慮しないでよ?」
ミンは疑わしそうに俺を見る。
「提案に文句はないし、情報も過不足なく貰えたと思う。ミンが神官じゃなければ、クルシス神殿にスカウトしたいくらいだ」
うちの神殿は業務が山積しているからな。彼女のようにテキパキと仕事をこなせる人材が欲しいところだ。
「そう言ってもらえるのは光栄だけど、ようやくバルナーク様に近付けたのだもの。宗派替えするつもりはないわ」
ミンは誇らしげに胸を張った。首を傾げていると、その隣のミュスカが事情を説明してくれる。
「カナメ君。ミンさんは、バルナーク大司教直属の特命班に引き抜かれたんです」
「へえ? 凄いじゃないか」
「そうでしょう? ふふ、もっとバルナーク様のお役に立って見せるから!」
「お、おう、頑張れ……」
その熱意から距離を取りつつ、彼女を応援する。そんな不思議な空気の中で食事を進めていると、ふとミュスカが口を開いた。
「そう言えば、今日のカナメ君は私服なんですね。よかったら、一緒に教会へ来ますか?」
「俺が?」
その提案に目を瞬かせる。辺境での俺はそれなりの立場にあるため、商売敵である教会に易々と足を踏み入れるわけにはいかない。
辺境から遠く離れたミラムールの街であれば、そんな心配も不要だが……正直に言って、ここの教会に立ち寄る必要性は感じないな。
「あ、まだカナメ君に言ってなかったわね」
そんなことを考えていると、ミンがにんまりと笑った。この顔は知っている。彼女がたまに悪戯を企んだ時の顔だ。
「言ってないって、何を?」
問いかければ、彼女はいっそう笑みを深めて、そして告げた。
「この街、シュミット君の管区だから」




