巫女・下
【クルシス神殿長代理 カナメ・モリモト】
押し寄せる魔工巨人の集団と、クルネたち前衛組が睨み合う。魔工巨人が緊張するとは思えないが、攻め方を考えているのだろうか。彼らがすぐに襲い掛かってくる様子はなかった。
その睨み合いの中で、最初に攻撃を仕掛けたのはクルネだった。乱戦になる前に数を減らそうという判断だろう。彼女はもはや定番となった長大な光剣を振るう。
そして、ほぼタイミングを同じくして、魔工巨人集団の中ほどに電撃の渦が出現した。ミルティの雷霆渦だ。
魔工巨人の足下で発生した雷は、螺旋を描きながら魔工巨人の頭部までをも飲み込む大渦と化した。
クルネとミルティの放った先制攻撃により、敵陣が眩い閃光に包まれる様子を、俺は目を細めながら確認した。おそらく、十数体の魔工巨人が破壊されたはずだ。
砕けたり、機能を停止した魔工巨人が障害物となり、動きの揃っていた後続の魔工巨人の足並みが乱れる。
「大地の壁!」
さらに、サフィーネが障害物となるような形で大地を隆起させたことにより、魔工巨人の移動が制限され、それぞれの魔工巨人はバラバラのタイミングで前衛に襲いかかることを余儀なくされた。
「風穿突!」
「鷹蹴撃」
そして、一斉に襲い掛かってくるならともかく、一、二体ずつ現れる魔工巨人に後れを取る彼らではなかった。
アニスの槍が魔工巨人を貫き、グラムの踵が巨人の頭部を粉砕する。次いで、変則的な場所から出現した魔工巨人は、ノクトが投げつけた球体の爆発に巻き込まれて残骸となった。
ミルティから身体能力強化を、ミュスカから防御をかけられたアルミードは無理に攻撃しようとはせず、盾を構えて魔工巨人たちの流れを操ることに専念していた。サフィーネも無闇に攻撃魔法を使うようなことはせず、アルミードと共に魔工巨人の数の暴力を抑え込む。
アルミードの右へ抜けた魔工巨人はクルネが、左へ抜けた魔工巨人はグラムたちが対処し、空を飛んでいる円盤状の魔工巨人はカーナとミルティが牽制しつつ、着実にその数を減らしていく。
また、時折、盾役を引き受けているアルミードたちが魔工巨人の攻撃を受けることもあるが、他のメンバーがフォローしている間にミュスカの治癒魔法が飛び、再び戦線へと復帰する。
その戦いぶりは非常に安定しており、いつしか辺りは魔工巨人の残骸で埋め尽くされていた。
「クルネ! こいつを頼む!」
「任せて!」
魔工巨人の攻撃をかわすと、アルミードは鋭く声をかける。
攻め寄せる魔工巨人の中でも、全長五メートルほどの魔工巨人の強さと頑丈さは一際目立っていた。おそらく、これがエリザ博士の言っていた戦闘型の魔工巨人なのだろう。
また、他の魔工巨人とは異なり、核がどこにあるか分からないことも厄介さに拍車をかけていた。頭部に核があるもの以外にも、胸部や脚部など、様々な箇所に収納されている魔工巨人がいたのだ。
そのため、この魔工巨人を確実に破壊できるのは、剣匠の力と地竜の魔剣を持つクルネだけだった。
彼女は駄目押しとばかりに剣気の特技を発動すると、振るわれた魔工巨人の拳をすれ違いざまに切り落とし、肩口へ跳び乗るとその首を刎ねた。
直後、彼女がその場を飛び退くと、飛行型魔工巨人の放った光弾が首の断面を経て、魔工巨人の内部へと着弾する。さしものの戦闘型魔工巨人も、内部機構に直接攻撃を浴びせられては耐えられないのか、内部で起きた小爆発を機に、その機能を停止した。
「この様子なら、倒せてしまうかもしれないね!」
その様子を見ていたエリザ博士が興奮したように呟く。だが、俺はそう楽観していられなかった。なんせ、魔工巨人を呼び寄せた本体はまだ健在なのだ。
「気ぃ付けろ! デカブツがなんかやる気だぞ!」
俺の懸念を裏付けるように、ノクトの鋭い声が響く。見れば、ウニもどきの刺が妙に発光していた。
「エリザ博士、クリストフ。念のためにキャロの後ろに」
そう伝えると、二人は何も言わずさっと後ろに下がった。エリザ博士は多少心配だったが、さすがは場数を踏んだ研究者だけあって、こういう時はさっと指示に従ってくれるようだった。
そして、二人が後ろに下がった直後。
ウニもどきから、無数の光線が放たれた。
「仲間ごと撃った!?」
俺は慌ててみんなの様子を窺った。幸いなことに、こっちに光線は飛んでこなかったが、その分彼らは集中砲火を浴びたことになる。その事実に俺は青くなった。
いくら固有職持ちの防御力が高く、防御魔法をかけているとは言え、ウニもどきの前にいた魔工巨人を貫通するような光線だ。無事ですむとは思えなかった。
「重傷者はいるか……?」
そして、彼らの中でもっとも多く光線を浴びたのは、盾役として戦場の中心にいたアルミードだった。盾で致命傷は避けたようだが、光線を受けて炭化している箇所も多々見受けられ、満身創痍としか言いようのない状態だ。
「そう言うあんたが一番重傷だよ! 回復を!」
そう叫ぶカーナも腕と足に被弾していたが、彼女は懐から取り出した複数の水薬をアルミードの傷口にざばっと浴びせた。
おそらくマイセンの作であろう水薬は、青白い光となってアルミードの身体へ吸い込まれていき、みるみる負傷が治っていく。
「広域治癒!」
さらに、ミュスカの治癒魔法が近くにいた全員の傷を癒した。どうやら、ミュスカ自体はかすり傷ですんでいるようだった。位置的にアルミードの真後ろにいたことが幸いしたのだろう。もしくは、魔法職の防御力の低さを懸念して、アルミードが意図的に庇ったのかもしれないな。だとしたら、さすがだと言うしかない。
「……ありがとう、クーちゃん」
「グラム、大丈夫!?」
そして、同じく魔法職であるミルティはクルネに、サフィーネは格闘家のグラムに庇われたおかげで、その傷は浅いようだった。
クルネは魔法すら斬ってのける魔剣と上級職の防御力のおかげで軽傷だったが、グラムは複数被弾しているようだった。ただ、なんらかの防御特技が間に合ったのか、アルミードほどの重傷は避けられたようだった。
「今ならっ……!」
と、そんな呟きを残して、クルネの姿がブレた。あの巨大なウニもどきを倒しに行ったのだ。周りをよく見れば、奴と俺たちの間にいた魔工巨人はほとんど全滅していた。
仲間の魔工巨人ごと範囲攻撃を行うとは思っておらず、不意を打たれた格好の俺たちだったが、それはとりも直さず、奴が味方の魔工巨人を自分で全滅させたことを意味していた。
「光剣!」
クルネは一息で相手を射程に収めると、間髪入れず長大な光剣を叩きつける。彼女が上級職となり、射程と威力が格段に向上した特技の威力はかなりのものだ。
だが、これまで数多の魔工巨人を粉砕してきた光剣は、ウニもどきが展開した光の障壁によって受け止められていた。
「クルネの光剣を正面から止めやがった……!」
その光景を見たノクトが渋面を浮かべる。
今のところ、上級職になったクルネの光剣を完全に受け止めることができたのは、同じ上級職である守護戦士のラウルスさんくらいなものだったのだが……。
その形に似合わぬ防御能力の高さに、俺たちは気を引き締める。――その時だった。
「――警告。時空魔法による侵入は認めラれテいません」
「魔工巨人が喋った!?」
アルミードが驚いたように叫ぶ。少しノイズは入っているが、その言葉は魔工巨人のものとは思えないほど明瞭だった。
「――侵入失敗を確認。中央防御結界ノ空間固定機能を強化」
巨大魔工巨人はさらに言葉を続ける。それを受けて、俺の後ろにいたエリザ博士が一歩踏み出した。
「ま、ま、まさか自立稼働Sランクの魔工巨人じゃないのかい!? これだけの状況把握能力と高度な判断力を備えている上に、あんなに明瞭な言葉を話すだって!? そんな魔工巨人なんて過去に例がないさね! これに比べれば、今まで自立稼働魔工巨人の最高到達点とされていたアシュバール遺跡の魔工巨人だってかすんじまうよ。これは魔工巨人研究に大きな衝撃を与えるだろうね。まさかここまでの機能を魔工巨人に持たせることができるなんて、誰も考えていなかったはずだよ。そもそも魔法の痕跡を感知するなんて、それだけで一技術だってのにさ。しかも、下手をすれば他の防衛システムと繋がっている可能性もありそうだし……」
……とりあえず、この人は放っておこう。下手につついて「あの魔工巨人は生け捕りにしてくれ!」とか言い出したら困るし。
「つーかよ、こんだけ攻撃を仕掛けといて、今さら何言ってんだか」
いつの間にか近づいて来ていたノクトがぼやく。エリザ博士に意見を聞くつもりだったようだが、彼女の暴走っぷりを見た瞬間、即座に諦めたその切り替えの早さはさすがだった。
「まったくです。何が時空まほ――」
俺はそう相槌を打とうとして、遅まきながらおかしなことに気が付いた。さっきは動揺していて気付かなかったが、どう考えてもおかしい。だが、なぜだ……?
俺が考えこんでいる間にも、ウニもどきは警告を続ける。
「――警告に従わナいことを確認。中央部境界エリアに存在する十五体を指向性のある敵性存在と判断し、防衛モードより殲滅モードへ移行。殲滅にあタって対象の戦闘力を積算……上位竜の魔力を計測。対上位竜専用ユニットの派遣要請を――」
「――ミルティ! あいつの通信を妨害してくれ!」
恐ろしい単語を聞き取った俺は、咄嗟にミルティに指示を出した。突然の指名に目を丸くしたミルティだったが、すぐに彼女から迸った魔力が敵を包み込む。
「カナメよう、今の言葉って……」
「何を勘違いしたのか、上位竜すら倒せそうな援軍を呼ぶつもりだったようですね」
そう言いながら、俺はその勘違いの原因に思い当たった。ひょっとして、クルネの魔剣が発する魔力を感じ取ったんじゃないだろうか。というか、それ以外に考えつかない。
「な、何はともあれ、援軍を呼ばれるまでに奴を破壊するしかありません。今はミルティが抑えてくれていますが、いつまで保つか……」
俺は視線をノクトからミルティへ戻した。彼女の表情にさっきまでの余裕はない。慣れない魔法の継続使用で魔力が一気に減っているのだろう。早いところ勝負を決める必要があった。
と、いつまで経っても通信が届かないことに焦れたのか、ウニもどきの刺が再び発光する。そして、再び無数の光線を放とうと――。
「大地の壁!」
だが、その直前にサフィーネが魔法を完成させた。高密度の土壁は敵と俺たちの間……ではなく、ウニもどきの足下を隆起させる。
「よし!」
足下が隆起したことによって照準が狂い、巨大魔工巨人が放った無数の光線は空目がけて打ち上げられた。そして、その隙にクルネが再度接近する。
「斬れぬものなし」
最高の特技を発動させて、クルネは魔工巨人に斬りかかる。彼女の攻撃を阻むように現れた光の障壁は、今度はあっさりと切り裂かれて消滅した。
そして、彼女の剣が閃くたびにウニもどきの刺が斬り飛ばされ、本体に深い傷が刻み込まれる。時折放たれる魔法すらも切り裂きながら、クルネは巨大な魔工巨人を切り刻んだ。だが――。
「大きすぎる……!」
俺は思わず唇を噛み締めた。クルネの魔剣はスペックこそ異常な域に達しているが、その刀身の長さは一メートル程度のものだ。そのため、どれだけ彼女の剣がよく斬れるにしても、あの巨大な質量を剣で削り取り、中心部に到達するには時間がかかるのだ。
せめて核が見つかればいいのだが、奴が球状であることを考えると、中心に格納されている可能性が高かった。
「……ん? あいつの魔力の動きがおかしい……?」
と、俺がウニもどきを見て首を捻った瞬間だった。サフィーネが叫び声を上げる。
「自爆する気よ! 魔力が中心部にどんどん送り込まれてる!」
「なんだって!?」
こんな街中で自爆なんてしたら、もはや防衛システムとして自己矛盾しそうな気がするんだが……。いや、違うか。それでも敵を倒すほうが優先だと、そう判断した結果なのだろう。
「自爆を止める方法は!?」
そう尋ねると、サフィーネは顔を青ざめさせながら口を開いた。
「魔力を一気に消滅させるしかないわ! けど、そんなこと……!」
魔力の消去。それは魔法を使えばいいというものではない。魔法職が魔法を使う場合、基本的に自分の身体に流れている魔力を使用する。
そして、他の人間や魔工巨人の魔力でそれを為そうとした場合、その魔力は持ち主という容れ物に入れられ、頑丈に鍵をかけられている状態だ。他者がどうにかできるレベルではない。
試しに、と俺は魔力変換の特技を使って魔工巨人の魔力を吸収しようとする。だが、魔工巨人の中心部へ志向性を持って流れていく魔力は、俺の特技で吸収できるほど甘くはないようだった。
「クルネの魔剣は魔力を斬れるんだろ!?」
「魔法や幽霊と言った構造は斬れるけれど、魔力そのものを消滅させることは難しいわ。水を斬るようなものだもの」
ノクトとサフィーネが大声で会話をする。その声は、場にいる全員に聞こえているはずだった。
「じゃあどうすんだよ!?」
「爆発をできるだけ抑え込むしかないわ! 魔法職全員で障壁を張ってなんとか……」
「あん時はそれで死にかけたじゃねえか。まして、今度の魔工巨人はこんな大物だぜ?」
「けど、それ以外に方法なんて……!」
「……ま、そう言う俺もさっぱり思い浮かばねえがな」
そして俺たちの間に沈黙が下りる。すでに、ウニもどきの内部には異常なレベルの魔力が蓄えられていた。
「――カナメさん、私に任せて」
その沈黙を破ったのはミルティだった。場を安心させるためか、彼女はにっこりと微笑んで見せる。
「魔力分解を使うわ。相手の魔力に直接作用する魔法だから、今回のパターンにも有効なはずよ」
それは初めて聞く魔法だった。同じ魔法職であるサフィーネも首を傾げている。だが、ミルティができると言っている以上、それを疑うつもりはなかった。
「……ただ、今の妨害魔法を使いながら、というわけにはいかないわね。実を言えば、魔力もだいぶ底を尽いてきたのよ……」
「そうか……」
もし妨害魔法を中止した場合、あの「対上位竜専用ユニット」とやらが要請を受けて現れる可能性がある。そうなってしまえば、もはや無事ですむなんてあり得ないだろう。
こうなれば、やっぱり使うしかないか。俺はそう覚悟を決めた。どうも嫌な予感がして行使していなかったが、そんなことを言っている場合ではない。
「……ミルティ。無茶を言ってすまないが、両方頼む」
俺の考えが分かったのだろう。ミルティは穏やかな、それでいて力強い視線を向けてくる。……いや、ひょっとしたら最初から気が付いていたのかもしれないな。ただ、俺に強要したくないと、そう気遣ってくれていただけで。
「神子様!? いくらミルティ先生でもそれは……!」
「大丈夫よ、サフィーネ。私たちを信じて」
心配する弟子にそう返すと、ミルティは俺を見て頷いた。
それを合図として。俺は、彼女を賢者へと転職させた。
「よし、大丈夫そうだな……」
ミルティを賢者に転職させた俺は、襲いくるであろうざわめきに備えていた。ミルティの賢者の資質はほぼ開花しているため、そう大きな反動はないだろうと思ってはいたものの、油断はできなかった。
だが、すぐに頭に広がるはずのざわめきはほとんど聞こえない。意識を集中するとかすかに聞こえるが、その程度のものだ。
その事実にほっとすると、俺はミルティを見つめた。賢者に転職したことで、魔力量が底上げされたのだろう。先程までよりもよほど余裕がありそうだった。
彼女は通信妨害の魔法を維持したまま、新たな魔法の構築を開始する。それは多重詠唱の特技だ。
賢者への転職実験をした時に、彼女が授かる特技を確認しておいて本当によかったと、俺は胸を撫で下ろした。
高度な二つの魔法の多重詠唱。その複雑な処理をこなしてみせたミルティは、静かな口調でぽつりと発声する。
「魔力分解」
その瞬間、巨大魔工巨人の内部で圧縮されていた魔力が一気に消滅した。
「なに、今の……!?」
「これはまた……」
傍目には何も変わっているように見えないが、魔力を感じ取ることができるサフィーネ、ミュスカ、マイセンの三人だけは、俺と同じように驚愕の表情を浮かべている。
そんな俺たちを見て、魔力感覚のない他のメンバーが不思議そうにしていたが、詳しい説明をするのは先の話だ。今は、あの巨大魔工巨人を沈黙させることが最優先だった。
それはみんなも分かっていたようで、彼らは何も言うことなく、動きの鈍った魔工巨人に向かっていく。
それからしばらくして。クルネの剣が巨大魔工巨人の中心を貫いた。核が澄んだ音を立てて砕け散り、奇怪な形をした魔工巨人は完全に沈黙した。
「よかっ――」
凄まじい集中力を発揮していたのだろう、結果を見届けたミルティの身体がぐらりと揺れる。慌ててミルティの身体を支えると、彼女は弱々しいながらも笑顔を浮かべた。
「カナメさん、ありがとう。魔力分解はちょっと癖が強い魔法だから、あのままじゃ厳しいものがあったの」
ミルティが言っているのは、資質を超えた転職のことだろう。そして、彼女は気遣わしげに俺を見る。
「けれど、もう大丈夫よ。カナメさんこそ具合はどう? 私のことなら気にしなくていいから……」
「そうしたら、今度こそ魔力が枯渇して倒れるんじゃないか? 俺のほうは大したことないから、気にしないでくれ」
「そう……? もしそれが私を気遣った言葉じゃないのなら、成長の証だと喜ぶところね」
そんな会話を交わしながら、俺たちは巨大魔工巨人の残骸を眺めていた。
◆◆◆
「完全に破壊したか……」
「これだけバラバラにされたんだ、さすがに動かねえだろ」
ミルティによって自爆を阻止され、クルネによって切り刻まれた巨大魔工巨人を遠巻きに見ながら、俺たちは口々に感想を言い合っていた。
あれだけの脅威を見せつけた魔工巨人だ。いくら破壊したと分かっていても、なかなか至近距離まで近付こうと思えない者がほとんどであり、嬉々として残骸を調べているエリザ博士と、万が一に備えて同行しているアルミードだけがその例外だった。
「しっかし、ものの見事に切り刻んだもんだな。クルネはあっさり切り裂いてたけどよ、この魔工巨人の装甲かなり硬えんだろ?」
「うん、私の槍なんて、穂先部分しか刺さらなかったもん。貫通を使ってその程度なんて、さすがにショックだったわ」
「……衝撃強化も大して効かなかった。中身も頑丈だった」
ノクトたちがクルネを讃えれば、魔法職の面々はこぞってミルティを称賛する。
「ミルティ先生、凄い魔法でしたね! まさか魔力を分解するなんて……」
「本当に、びっくりしました……」
「いやぁ、お見事でした。あの魔法、どうにかして魔法薬に落とし込めませんかね……」
強敵にうち勝ったという高揚感で、みんなが朗らかに笑い合っている。その光景を眺めていた俺は、ふとある人物の姿を探した。
「カナメ君、どうしたんだい?」
「いや、そう言えばルーシャはどこへ行ったのかと思って……」
クリストフの問いにそう答えると、俺は彼女の本拠地がある都市の中心部を見つめた。ひょっとして、向こうに戻ってしまったのだろうか。
「――私ならここにいます」
その声は、俺たちのすぐ後ろから聞こえた。慌てて振り返れば、そこには神妙な顔をしたルーシャが立っていた。
「よかった、ご無事でしたか」
まあ、そもそも幽霊に近い彼女のことだから、さっきの戦いに巻き込まれても、あまり害はないのかもしれないが。
「あなたたちこそ、無事でよかった……」
ルーシャは一瞬だけ表情を綻ばせると、再び神妙な顔に戻る。その様子から重大な用件があることを察した俺は、クリストフに断って、みんなから少し離れた。
「ええと、何かご用件があるのですよね?」
そう問いかけると、ルーシャはこくりと頷いた。
「――あなたが最後に言っていた、千年前についてのお話です」
◆◆◆
「およそ千年前――あなたたちが言うところの『古代魔法文明時代』は、非常に豊かな暮らしをしていたと思います」
ルーシャは立ち並ぶ建物群を見上げると、懐かしそうな表情を浮かべて語り始めた。
「モンスターの脅威と言えば上位竜程度しかおらず、人種族は世界の大半を支配していました。当時の私はそれが当たり前だと思っていたけれど、あなたの話を聞くと、当時はとても幸運な時代だったのでしょう。
人は天寿を全うすることが当たり前。生活の質も、こう言ってはなんですが、今とは比べ物になりません。
……けれど、私たち神官にとっては非常に厳しい時代でした。なぜだか分かりますか?」
「物質的に豊かであれば、心の支えを持たなくても生きていくことは容易だから……ですか?」
そう答えると、ルーシャは驚いたように俺を見つめた。答えが返ってくるとは思わなかったのだろうか。俺自身、元からこっちの世界に生まれていたら想像できなかったかもしれない。
「……驚きました。あまり理解してもらえないと思ったのに」
「私も、少しだけ特殊な生まれでしたから」
彼女は俺の言葉に首を傾げるが、すぐに気を取り直したようだった。
「でも、それなら話が早いです。……その豊かな時代にあって、宗教組織は古臭い存在として徐々に力を失いつつありました。あなたが言った通り、心の支えを必要としなくなった……もしくは、それ以外のものが支えたり得るようになったから。
そのため、信徒の数は減少の一途を辿り、信徒であってもうわべだけ神を信仰している人々が多くなりました。新たに神殿の門を叩こうとするのは、それこそ神官の固有職を得た者くらい」
「え? 神官の固有職は存在するのですか……?」
俺はつい言葉を挟んだ。できるだけ話の腰を折らないようにしていた俺だったが、神官と言えば、神話や英雄譚には山ほど出て来るのに、実際には一度もお目にかかったことのない資質としてずっと気になっていたからだ。
「私がまだ生身の身体だった頃は、多くの人を神官に転職させました」
彼女は驚きの真実を告げると、そのまま目を伏せた。
「その様子だと、やっぱり現在の世界に神官はいないのですね……」
「ええ、少なくとも私は見たことがありません。一体なぜ……」
神官の固有職資質が見当たらないのか。そう尋ねようとした俺は、すでに答えを聞いていることに気付いた。
「神が……存在していないから……?」
考えてみれば、それは当然の話だった。おそらく、神官とはいずれかの神を力の拠り所とするものだろう。であるなら、その根源たる神が存在しない状況下で資質が生じるとは考えにくい。
そんな俺の予想を裏付けるように、ルーシャはゆっくり頷いた。
「あくまで推測の域でしたけれど……実際に神官の資質持ちがいないということは、そう言うことでしょうね。それでは、聖騎士なんかの固有職も……」
「え? 聖騎士は存在していますよ?」
俺はメルティナの顔を思い浮かべながら、彼女の言葉に疑問を投げかける。すると、ルーシャはきょとんとした表情を浮かべた後、一人で納得したようだった。
「そう言えば、聖騎士は神官と戦士職の複合型上級職……それなら、存在してもおかしくはありませんね。……けれど、神の力を受け取ることができない分、固有職としては不完全な状態であるはず」
「あ……」
そう言われて、俺は聖騎士の固有職補正が剣匠や竜騎士ほどではないことを思い出す。
「……と、お話の腰を折って申し訳ありませんでした。どうぞ、続きをお願いします」
そう依頼すると、彼女はこほん、と軽く咳ばらいをした。
「そんな事情で、宗教組織はどこも焦っていました。このままでは教義や信仰心を失い、抜け殻のような組織になってしまう。もしくは、組織そのものが消滅してしまう。そんな危機感を抱いた者は非常に多く、やがてその不安はすべての宗教組織を飲み込んでいきました。
……そんな時です。私たちは驚くべき情報を手に入れました。そして、これなら再び神殿を、教団を盛り上げることができる。そう考えた関係者は喜びに沸きました」
「宗教組織を盛り上げることができる情報……?」
俺はつい首を傾げた。当時の宗教家たちが直面した事態は分からなくもない。ただ、それを打開できるような起死回生の策が思い浮かばなかった。
そんな俺の反応を確かめると、ルーシャは複雑な表情で口を開いた。
「――神を現世に降臨させる方法です」
「……は?」
神の降臨。その単語が俺の脳に浸透するまでには、だいぶ時間が必要だった。
「いくら信心が薄れていると言っても、実際に降臨した神々を目の当たりにすれば、人々は信仰の心を取り戻すはず。
そんな思考は瞬く間に各宗教に広がり……長い準備期間を経て、神々を降臨させるための儀式が行われました」
そう語る彼女の表情が沈鬱なものに変わっていく。その雰囲気から続きを察した俺は、つい予想を口にした。
「しかし、降臨の儀式は失敗。神々は失敗した儀式のあおりを受けて消滅した、ということですか……」
すると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
「え? ……いえ、儀式は成功しましたし、神々は現世に降臨なさいました。中には相争う神々もありましたが、不思議と世界を揺るがすような戦いにはなりませんでした」
……あれ? 俺は予想外の展開に目を瞬かせた。
じゃあ、何が問題だったんだろう。当時の人々は現実的な価値観を持っていそうだし、神々が現世に降臨したなら、賞罰どちらの側面からであれ入信者は増える気がするんだけどなぁ。それに、敬虔な信徒の数だって増加するはずだ。
「それからしばらくは、降臨した神々の威光もあって、各神殿や教団は絶頂期を迎えました。その権勢は実に強く、献金は天井知らず。おかげで、神官になりたがる者も続出しました。その勢いは、当時の統治者を凌いでいたと言っても過言ではありません」
「ええと、それはおめでとうございます……?」
そう言葉を絞り出すと、ルーシャは弱々しく首を横に振った。
「けれど、それも長くは続きませんでした。……なぜなら、現世に降臨した神々が次々と消滅していったからです」
「消滅!?」
俺は思いがけない言葉に眉を顰めた。
「もともと、神々は高次元の存在です。それを私たちの次元に無理やり降臨させ続けるということは、神々の御力を著しく消費してしまうようなのです。
消滅と言っても、火や水のように物理的事象を司る神々は完全に消滅することはありませんでしたが、もはや人格神として存在できるレベルではなかったようです」
なるほど、その理屈は分からないでもない。ただ、消滅するまで現世に留まるなんてせずに、どこかで引っ込めばよかったんじゃないだろうか。
「他神の巫女の話によれば、それができなかったようなのです。神も困惑していたそうなのですが……」
「神が困惑……」
なんだろう、一気に人間くさくなってきたな。……まあ、複数の神々が乱立している時点で、彼らが万能神でないことは想像がつくけどさ。こうなると、むしろ神の定義を見直すべきかもしれないが……エディあたりの意見を聞いてみたいところだな。
そんなことを考えながら、彼女の言葉を反芻していた時。俺は一つの違和感に気付いた。
「あの、ルーシャさんもクルシス神の巫女ですよね? クルシス神はなんと仰っていたんですか?」
そう、「他神の巫女」とか「困惑していたそう」だとか、なぜか伝聞形を使っているけど、そもそも彼女だって立派な巫女のはずだ。どうしてクルシス神の話が出てこないのか。
俺の質問を聞いて、彼女は誇らしげに微笑む。
「クルシス神殿は、クルシス様の降臨の儀式を行っていません」
「そうなのですか?」
そんなことだと、他の神殿に信徒を持っていかれたんじゃないだろうか。意外感を持って訊き返すと、ルーシャは言い聞かせるような口調で説明をしてくれる。
「……考えてもみてください。クルシス様の教えは、自らの努力によって自己を磨き高めることにあります。そんな私たちが布教のためにクルシス様に頼るなんて、本末転倒もいいところです」
「う……ごもっともです……」
言われてみればそうかもしれない。それすらも努力だと言えなくはないが……詭弁だよなぁ。
「ですから、クルシス様だけは、降臨の儀式による消滅を免れたのです」
そう語るルーシャは誇らしげだった。おそらく、その結果は彼女たちが降臨の儀式に賛成する派閥と戦い勝ち取ったものなのだろう。
「それは素晴らしいお話ですが……」
だが、それならなぜクルシス神は消滅したのか。
「召喚された神々の中に一柱だけ、無名の神が存在していました。そう力のある神ではありませんでしたが、かの神だけは現世に在っても力が衰えることがなかったため、次第に人気が集まるようになりました。
ですが……その神と信徒は、非常に排他的だったのです。大規模な神殿や教団はともかく、それ以外の宗教組織は有形無形の圧力をかけられるようになりました。祀っている神がすでに力を失っていることもあり、狙われた組織は例外なく解散、消滅していきました」
そう語るルーシャの顔は非常に険しいものだった。
「それはまた……唯一神にでもなりたかったのでしょうか」
「……分かりません。ただ、非常に気紛れな神であったようで、信徒以外の人間の中には、些細なことで命を奪われた者も少なくありませんでした。また、それを恐れて宗旨替えした者も非常に多かったのです」
「……え? その神は邪神や悪神の類だったのですか?」
「それも分かりません。ただ、その恐怖政治のような状態に耐えかねた人々が、クルシス神殿に集まるようになりました。なんと言っても、まだ力を保持している唯一の大神でしたから。
そして、多くの人々の願いを受け止めたクルシス様は、かの神と戦うことを決断なさいました。ですが、それは非常に危険な賭けでもあったのです。
本来であれば、神格はクルシス様のほうが遥かに上でしたが、相手は特殊な性質を持っていた上に、降臨してからの数年で力を大きく増していたのです。
神の力の源は祈りです。祈るという意識がなくとも、人々がその存在を認識し、何事かを願う。それこそが神を支える力であり、かの神は人々の負の感情を煽るという手段で、その力を急激に伸ばしていました」
「ええと……」
困った。さっきから神話やお伽噺の類にしか聞こえないせいで、現実感がさっぱり湧いてこないぞ。物凄く重大な話のはずなんだけどなぁ……。
そんな俺の思考が伝わったのか、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。
「神の存在が薄くなってしまった今となっては、あまりピンと来る話ではないでしょうね。……ともかく、クルシス様はその神との戦いに赴き……そして、相討ちになりました」
そう言い切ると、ルーシャは目を閉じて俯いた。かなり信仰の篤い人みたいだから、そのことを口にするのは辛かったのだろう。
「その時には、私はすでにこの街から離れられない身になっていましたから、後の詳しい話は知りません。この街が放棄されてからは、情報を入手する術もありませんでしたし……」
「放棄、ですか? 一体何が……」
俺は咄嗟に訊き返した。そう言えばさっきもそんなことを言っていたな。こんなに整備された街を放棄するなんて、あまり考えられないが……。
「この街の姉妹都市であり、大陸最大の都市であったエルシエラの魔力炉が暴走したのです。その影響でエルシエラの街は消滅。その余波で広大な地域が魔力汚染されたため、この街も人が住めるような環境ではなくなったのです」
彼女はそう言うと口を閉ざした。ようやく訪れた休憩時間だったが、俺は得られた莫大な情報に翻弄されていた。
ひとまず言えることは、神学校で教わった歴史とはだいぶ異なっているということだ。ただ、その暗示と思われる箇所も見受けられるし、彼女の言葉がまったくのデタラメとも思えない。
それに、クルシス神がこれだけ活躍したというのに、さっぱり知られていないのも不思議な話だ。せめて、亜流の神話として残されていてもよさそうなものだが……。
とは言え、脳の処理容量が限界に達している自信があるし、今日はこれくらいにしておこうかな。ここに来れば彼女にはまた会えるだろう。
そう考えた時だった。俺は彼女に聞き忘れている質問があったことに気付いた。
「……ルーシャさん、貴重なお話をありがとうございました。最後に一つだけお伺いしたいのですが、ルーシャさんは転職師ですよね? そして、お会いした時に『クルシス神殿の若い司祭は転職師だ』という旨のお話もされていました。
クルシス神と転職師はどのような関係にあるのでしょうか?」
「え……?」
俺の質問は的外れだったのか、ルーシャはとても面食らった様子だった。何を言っているのか、と言わんばかりの表情に、なんとなく肩身が狭くなる。
「クルシス様は成長や進化を司っているのですよ? その中には当然転職も含まれます。それをどのような関係と言われても……」
「そうなんですか?」
思わず声を上げると、今度はルーシャが目を丸くした。
「まさか、本当に知らないのですか……? だからこそ、転職師の資質は、神官と並んでクルシス神官に発現しやすい資質だったのですが……今のクルシス神殿の教義とは一体……」
ルーシャはショックを受けたように呟く。
「なんと言いますか……申し訳ありません」
自分のせいだとはまったく思わないが、ルーシャの愕然とした様子を見ると謝らずにはいられなかった。ここは組織として謝っておくことにしよう。
そして、その代わりというわけではないが、もう一つの大きな疑問をぶつける。
「そして、もう一つ。千年前に比べて、現在の固有職持ちの数が少ないのはなぜですか?」
「……っ!」
その言葉に、ルーシャは明らかに動揺した。あれだけ意味ありげな質問をしておいて、気付かれないと思っていたのだろうか。それとも、もともと今の状態に違和感を覚えている俺だから気付いたと言うべきなのか。
俺は黙ってルーシャを……千年前の巫女を見つめた。
「それは……」
彼女は俯いたきり、何も答えようとしない。だが、その表情は何事かを思い詰めているかのようだった。
「文献や遺跡の状況、そしてルーシャさんの発言から、かつてこの世界には多くの固有職持ちがいたことは分かっています。ただ、その理由が分かりません」
そう告げても、ルーシャが顔を上げる様子はなかった。その顔に浮かんでいる感情は、自責や後ろめたさであるように見えるが……いくら転職師と巫女の能力を併せ持っているとはいえ、彼女自身が原因だとは思いにくい。となると……。
だが、彼女は相変わらず動かない。俺たちの間を時間だけが過ぎていく。
千年の隔たりは、未だに高くそびえ立っていた。
◆◆◆
「あ、お帰り! ……カナメ、大丈夫? なんだか顔色が悪いわよ」
重たい過去話を聞いてフラフラになった俺は、心配そうなクルネに出迎えられた。
「ああ、多分脳に栄養が行ってないんだと思う」
「え? ……えっと、何か携帯食でも食べる?」
そう言って彼女が差し出してくれた干し果物を、俺は一気に口の中に放り込んだ。
その甘酸っぱい味と、こちらを覗き込むクルネの顔が、俺の時間を千年前から現代へと引き戻してくれる。
「助かった、なんとか生き返ったよ」
それは心からの感謝だったのだが、クルネはそうは思わなかったようで、くすっと笑い声を上げた。
「干し果物くらいで大げさなんだから。……それより、大丈夫だったの? あの女の人に憑りつかれたりしてない?」
「あの人はクルシスの巫女だからな。さすがにそのレベルの聖職者が憑依することはないだろう……」
そう答えながら、俺は都市の中心部に目をやった。結局、最後の質問には答えてもらえなかったが、それでも充分すぎる……というか、抱えきれないほどの情報は手に入った。問題はこれをどう料理するかだが……まあ、急ぐ理由もないし、辺境をもう少し発展させてからでもいい気もする。
そんなことを考えていると、突然小柄な人影が俺たちの間に割り込んできた。エリザ博士だ。
「神官さん! あの幽霊さんとの話はどうだったんだい!? 立場上話せないこともあるんだろうけど、それ以外の部分だけでも、まずは教えてくれないかい!? さあさあ!」
博士はそう言うと、首を絞めんばかりの勢いで俺の服を引っ張った。
「遺跡に関しては、この中心部を除いて開放してくれるそうです」
「なんだって!? ……うーん、今はそれで手を打つしかないかねぇ。……もはや、あたしには遺跡の中心部がどこにあるのか分からないし」
あ、そうなんだ。そう言えば、認識阻害結界の効果範囲はもう変更済みだって言ってたもんな。みんなにはもう認識できないようになっているのだろう。
「あと、この街は放棄されていたそうです。……なんでも、姉妹都市であるエルシエラとかいう街の魔力炉が暴走して都市ごと消滅、この街を含む一帯が魔力汚染されたとか」
正直なところ、魔力炉の暴走もただの事故じゃなさそうだけどね。
統督教絡みの部分を除くと、こんなところだろうか。これで許してもらえるかな、とエリザ博士の様子を窺うと、彼女はなぜか口をパクパクさせていた。そして、ずいっと踏み出すと俺の服を鷲掴みにする。
「エ、エルシエラ!? 今、エルシエラって言ったかい!? そりゃ『失われた姉妹都市』の片割れにして、世界最高の都市だったと言われる天空都市じゃないか! ああ、もちろん天空都市と言うのは比喩的な意味で、天を突くような建造物が立ち並んでいるということらしいんだけどね、あたしはてっきりこの都市こそがエルシエラかと疑っていたくらいだよ。この遺跡をさらに超える都市だなんて、想像するだけで震えが走るね! ただ、それだけに、エルシエラが消滅したってのはショックな話さね。今までに多くの研究者がエルシエラを探し求めて旅立ったってのに、そりゃ見つからないわけだよ。けど、その話が事実なら、シュルト大森林の成り立ちが超高濃度の魔力汚染によるものだって説が一気に信憑性を帯びてくるよ! となれば、あの魔の森の中で最も魔力が濃い場所こそが、かつて天空都市があった跡地だと言えるかもしれないねぇ。できることなら調査隊を組みたいところだけれど、シュルト大森林の最深部に分け入るなんて、帝国軍が束になっても無理だろうけど、なんとか……」
あ、やっぱりこうなったか。
エリザ博士の解説が終わるまでには、まだまだ長い時間が必要だった。




