第一話 マリオン
第一話 マリオン
「以上で【人類の歴史】を終了します。映像再生メガネを外してください」
飽きるほど見せられてきた約二時間の歴史映像がようやく終わり、少年はふう、と息を吐く。「やっと終わった」と彼は呟き、首を回した。
「終わりましたよ」
少年はメガネを外し、隣で椅子に座りながら大口を空け、寝息を立てている女性――ソナタの肩を揺さぶった。
「ああ、終わったの?」
とろんとした顔のままソナタもメガネを外し、一度目をつぶる。そして大きく伸びをした。
「お疲れ。どうだった? マリオン」
「どうもこうもありません。子供の頃から嫌ってほど見せられてきましたしね」
「あー、そだね。何時も寝てるから、まったく覚えてないや」
少年――マリオンはむっとした顔でソナタを見る。彼女は気まずそうな顔をし、頬を掻いた。
「まぁいいじゃん。これで見るの最後なんだし」
「そうですけど……」
マリオンは釈然としない表情を浮かべながら頷く。そしてため息をついた。そして「じゃあ」と続けた。
「約束の時間まであとどのくらいなんですか?」
ソナタは彼の質問にすぐには答えず、椅子の下に置いてあるポーチに手を伸ばす。そして茶色い手帳を取り出した。「また古臭い物を……」とマリオンは呟く。ソナタはそれにも答えず、忙しくページをめくった。
「うん、後一時間ちょいでこの船が向こうの艦隊に到着する予定だよ!」
ソナタの遅い返事を聞き、マリオンはなるほど、と首を縦に振った。
「ホント、後少しだからね。貴方が十五年間希望組で教育を受けた成果がでるかどうかの」
マリオンは神――ユミトに乗る為に育成されたパイロット候補の一人である。彼の両親は生まれたばかりの彼を、政府により【希望に満ち溢れた人格】を作る為創られた育成機関――【希望組】へと預けた。その後彼は希望組内で徹底した英才教育をうけたのだ。
「そうですね。今日がホントに勝負所です……。乗れなかったらどうしよう……」
マリオンが視線を床に落とすと、ソナタは椅子から立ち上がり、彼の頭をそっと撫で、「大丈夫だよ」と微笑んだ。
「でも希望組で育てられた人がユミトに乗れるというわけではないんでしょう? というかまだ誰も乗れてないらしいですし……」
「大丈夫だって言ってるでしょ? 貴方は私が育てたんだから。それにユミトに乗れなかったのも一期生から三期生までの話。四期生の貴方達が乗れないなんて証拠はないじゃない」
ソナタがマリオンの頭をポンとたたいた。彼はまたむっとした顔で彼女を見上げる。そして椅子に座りなおした。
「ま、そうですけど……。というか僕の同期生達はどうなったんですか? いるんでしょ? あと四人」
「さあ? 私は知らないかな。他の子は私面倒見てないし」
マリオンはソナタの答えに「わかりました」と答え、椅子から立ち上がる。そして「時間が来るまで部屋で寝てますね」と部屋から出ようとする。ソナタは慌てて彼を引き留めようと声をかけるも、先程まで熟睡していたことを思い出し、「わかった。お休み」と手を振った。
――二
到着をしらせるアナウンスが響いた。マリオンは眠たげに眼を擦り、布団を払いのける。そして寝巻を脱ぎ、出発前にソナタに渡されていたパイロットスーツへと着替えた。
ピッタリと肌に吸い付くスーツに彼は少し違和感を覚えた。まだ着慣れていないからだろうか? 少し体を動かそうと膝を屈めたその時、部屋のドアが勝手に開いた。
「おっはよー。約束の時間だけどちゃんと起きてる? お腹を冷やして嫌な音はなってない? なんか頭がガンガンなったりしてない? 無いなら今すぐパイロットスーツを着ろーって、もう着てたか。
んじゃ早速向こうの偉い人達に偉い人達に会いにいこー」
「わかったから部屋から出て言ってください!」
「おう、締め出しとはいい度胸だ」
マリオンはソナタを部屋から追い出した後一息つく。そして部屋に飾ってあった鏡へ目を向けた。
「大丈夫。大丈夫」
寝る前にソナタに言われた言葉を呟く。そして鏡に映る自分の顔をジッと見つめた。
心臓をわしづかみされているような感じがする。緊張という奴だろうか? 一度大きく息を吐いてみる。しかし全く落ち着かない。浅い呼吸を何度もした。脂汗だろうか? 手が湿っている感じがする。逃げ出したい気持ちになった。
でも逃げるわけにはいかない。ここで逃げ出したらこれまでの人生が全て水の泡と化す。そうだ、逃げるな。大丈夫だから。大丈夫だから! と自分に言い聞かせる。
「早くしてよ!」
ソナタにドアの外から急かされ、マリオンは慌てて部屋を出る。するとソナタは彼をジロジロと見つめ、ニッコリと笑った。
「なんだ。髪型でも変えてきたのかと思った」
「そんな余裕はありませんよ。行きましょう」
二人は合流した艦隊へと向かった。 続く
第一話 マリオン
読んでくれた人達どうもありがとう。自分は未熟者なので文法でおかしいところがあったら指摘していただけるとありがたいです。
(´º∀º`)次回も読んでくれると嬉しいな