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わたしが鵜久森との付き合いを思い起こすとき、いつも頭に浮かぶのは彼の風変わりな性格のことである。
まとまりがなく不正確なわたしの覚書きを、推敲して出版するようにと勧めたのもまた、彼だった。
不可解な事件に接した際に彼の頭脳が見せる驚くべき分析力や、推理能力のすばらしさはこれ以上ないと言っていいほどの尊敬に値する。毎回、まさに氷解の名に相応しい推理だ。
けれど鵜久森の性格と言ったら、彼を一人の人間として見たとき、今上げたすべての長所を丸々ひっくり返してしまうほどの奇人っぷりである。
わたしが彼の度重なる傲慢無礼な態度に堪えているのは、いつかこの捻じ曲がった性格をどうにか矯正して一泡吹かせてやろうと目論んでいる、この一点に尽きる。
こう書き連なったとおり、鵜久森蓮介というのは大変横柄で自尊心の塊のような、欠点の多い男であるが、そうであっても許されてしまうほどの頭脳と、ご立派な顔を持っていることだけは確かである。
珍妙な彼に興味を惹かれる方も多いだろう。事実、わたしもその一人であるのだから。
そこで、鵜久森に勧められたとおりわたしは今回、ここにひとつの思い出話を披露しようと思う。
今思い返してみればあの頃のわたしはまだ、鵜久森という人物に憧憬の念とはまた違う、面映い思いを抱いていたのだ。彼の推理能力と観察眼、そして事件に対する挑戦的な態度に、心底惚れていた。
そして正直に告白すれば、あの事件後、彼に対する考えが改まったのもまた確固たる事実だ。
鵜久森蓮介の名を世に報せる最初の話として選ぶのなら、やはりこの事件であろう。
彼の人と成りを、この事件ほど現しているものはないと考えるからである。