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根来寺での会合

昨夜はよく眠れ、すっかり疲れが取れた。気分もよい。

戦以来、気分が晴れなかったのだが、不思議だ。


清水で顔を洗い、歯を磨くと、頭がしっかりしてくる。

しかし静かなところだ。戦国の世にいることを忘れそうなくらいだ。


習慣になった槍の鍛練をしているとこえをかけられた。


「ほほう、見事な槍さばきでございますな」


見ると津田算正殿であった。戻られたらしい。


「これは 津田算正殿 。お邪魔いたしております」

「師の宝蔵院 胤英 の教えに従い、毎日鍛練を続けておりますが、まだ未熟で。お恥ずかしいものをお見せ致した」


「藤勝殿くらいの若さで、それほど槍を振り回せる者など、どこにもおりませぬぞ」

「いや、鍛練の途中に失礼いたした。続けられよ」


そうなのか? 胤英殿には、散々修行を怠るでないと言わたので、たいしたことないと思ってたのだが。



***


昨晩、明算殿とお会いした書院に通された。

主の座には、明算殿が座っておられる。さしずめ見届け人といったところか。


俺の横には、左近が座っている。まあ、これは当然ですわな。

俺の向かいには算正殿が座り、その横に二人の武士が座っている。背格好が算正殿と似ているので、兄弟かな。

この機会に、根来衆と関係を深めて、協力を得ることができれば、今後の戦いを遥かに優位に進めることができる。少なくとも傭兵としていくらか借りれるくらいには持っていきたい。

ここは、大きな勝負だな。


「改めてまして、私は筒井藤勝と申しまする。若年の身なれど何卒よろしくお願い申しまする。隣に控えておるのは、家臣の島左近と申す」


「これは、ご丁寧に。筒井殿は、礼もわきまえておられますな」

「では、我らも紹介いたそう。わしのことはご存知であろうから略して、隣におるのが弟の照算、その隣が末の弟の有直じゃ。照算は叔父上の後を継いで、杉ノ坊院主につくことがきまっている」


お互いに軽く礼をしあう。

照算殿は、後の杉ノ坊照算。自由斎流鉄砲術の開祖だ。つまり、今ここに根来の中心が集まっていることになる。さて、どう切り出そうかな。


「叔父上、照算と話したのだが、今後根来は筒井家を支持、支援してはどうかと思うておるのだがどう思われる?」


「え?」

あれ?なんか勝手に話が進んでる。


「む、紀州殿は、どうするつもりじゃ?」


「高政か?あんな定見のない奴はほっとけばいい。これまでも散々奴のために出血をしいられてきたではないか。この度の戦でも大損害を出すところだった。充分義理は果たしたよ。

それにまた安見宗房を守護代にし、あろうことか高屋城を任せた。話しにならんよ」


「算正殿、宗房殿を高屋城主にするとまずいのですか?」


「藤勝殿は若いのでご存じないかも知れんの。安見宗房は昔、高政殿を河内から追放したことがあるんじゃ。それなのに高政殿はまだ宗房を信用している。そう遠からず宗房は、高屋城を土産に三好に下るだろう。だが三好は甘くない。高屋城のような重要地点を宗房には任すまい。高屋城が手に入れば宗房は用済みだ」

この言葉はすぐに現実になる。その年のうちに宗房は三好に下り、高屋城は再び三好のものになる。


「それはまずいですね。信貴山城の守備を早く固めなければ」


「そこでだ。藤勝殿にわしを含め根来衆を雇ってほしい」

まずい。話が急すぎて、頭が付いていかない。そんな急に言われても受け入れ態勢もないんだが。


「しかし筒井には我らを雇うだけの金はあるのか?」

明算殿が窺うように俺も見る。さすがは、歴戦の根来衆の棟梁、徹底した現実主義者である。金がなければ戦うことができないのをわかっている。


「三好や松永が大きな損害を受けたから、しばらくは大きな戦はないだろう。当面は信貴山城の防衛くらいで、筒井城は元からある筒井勢だけで足りる。そうであろう、藤勝殿」


「そうですね。大和北部は順政叔父上に任せておいて大丈夫です」


「となると、鉄砲三百くらいで充分だ。それ以上いても負担になるだけだしな。茶や生糸の生産を奨励して結構儲けているらしいからな」


「ははは。よくご存じですね」


「わしら根来は、堺には頻繁に出入りしているからの。なんせ急に大和から茶が流通しだした。調べればすぐ分るものよ。何を隠そう、わしも煎茶とやらを飲んでおる。なかなか安くてうまいもんだ」


大和ではまだ茶道に用いるような碾茶は試作段階で生産できていない。時間をかけて洗練し高級品に仕立て流通させるつもりでいる。

なので先に普通の茶葉を「煎茶」にして流してもらっている。堺の町衆なら気軽に買える値段なので好評を博し、かなりの儲けが出ていた。


「わしら根来衆が指導して、数年かけて筒井独自の鉄砲隊をそろえればいい。もちろん鉄砲の生産もしなくてはな」


「どうしてそこまで、私によくしてくれるのですか?」


「そうじゃ。何もお主が必要はないでないか。お主は津田家当主なんだぞ」


算正殿が、俺に好意を持ってくれるのは大変ありがたいが、ここまで話が進むのは想定外だし、不自然だ。なぜか聞いておかなくてはならない。


「何、この前のお礼よ。それにこの前のそなたの戦ぶり、優れた戦術に感心したのだ。久方ぶりに胸が躍った。この若者に賭けてみたいと思ったのだよ」

「それに根来にいて紀州殿などの手伝い戦をしていてもつまらんしな。別に長い間ではないし、わしはちょくちょく帰ってくるよ。差支えがあれば有直に家督を譲ってもよいと思っている」

「昨晩、親父様に相談したらわかってくれたよ。勝手にしろとな」


いやいや。それは、許可したんじゃなくて、あきられめられたのでは?


「根来の守備は照算らに任せればで問題ないし、傭兵仕事も俺がいなくてもほかの連中で大丈夫でないか?そうであろう叔父上」


照算殿が頷く。すでに話はついているようだ。

それを見て、明算殿も仕方なさそうに頷いた。


「と、言う訳だ。よろしく頼むぞ。藤勝殿」


「わかりました。そこまで見込まれてしまいましては何ともできません。それに筒井としても思わぬご提案ですし。何卒よろしくお願いいたします」

「代わりと言ってはなんですが、一つご提案がございます。根来の方に紀ノ川上流の吉野を開発していただけませんでしょうか」


「ほう、吉野とな」


「今の筒井の状況をみれば、吉野まで手が回りません。吉野には杉や檜が多く、植林伐採して紀の川に流せば、根来雑賀まで容易に運ぶことができます。今は戦国の世、木材の需要は数多とあります」


「なかなかおいしい話ではあるが、ただではあるまい。筒井にはどうすれば良いのだ」

明算殿がニヤッと笑う。笑っても不気味があるが。


「筒井も根来をお支払いできるお金に限りがありますので、収入の足しにして頂ければと。それと冥加金として2割頂けましたら助かります」


「よし、交渉成立だな」


こうして、予想外に進んだ内容で、根来衆との契約を得ることができた。





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