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教興寺の戦い -4

永禄5年(1562年)5月19日 午後


三好義興の討ち死と松永隊の壊滅の報により、戦況が逆転した。

三好勢は、一時的に指揮系統が混乱したうえ、松永隊の撤退をみて、

中央の本体から逃亡兵が続出。組織的な戦闘が続行不可能になる。

三好勢には、先の久米田の戦いの後に補充された兵で多かったので、

攻勢に出ているときは良くても、劣勢に陥ると弱かったのだ。


三好義興の討ち死と松永隊の壊滅の報は、壊滅寸前まで追い込まれて

いた畠山方を蘇らせた。折しも雨が上がり、鉄砲が使えるようになった

雑賀衆らの協力を得て畠山高政は猛然と逆襲を開始する。


この時、三好方で統率がとれていたのは、右翼にいた三好政康他摂津勢

くらいであろう。だが隣の本隊が崩れては戦線を維持することはできず、

ずるずると後退。やがて飯盛山城に撤退を開始する。

これを見て他の隊も退却を開始するが、執拗な追撃を受け多大な出血を

出し、飯盛山城に帰還する頃には多くの者が傷付き隊をなしていない

状況であった。

三好長慶は、嫡男義興の死を聞き、大いに嘆いたという。これを境に

長慶は病気がちとなり、三好家の勢力は衰退に向かう。



畠山方も辛くも戦いには勝利したが、一時は崩壊寸前まで押し込まれて

おり湯川直光ほか多く部将が戦死するなどの激戦の損害は大きく、とても

飯盛山城を再度攻撃できる状況にはなかった。畠山高政は退却を決断する。

一旦高屋城に入った。その後、高屋城は安見宗房を守護代にして任せ、

自身は軍勢建て直すため、和泉の岸和田城まで戻った。

以後、三好への積極的な攻勢はなかったが、岸和田城に留まり、三好家

を大いに悩まされることとなった。



松永久秀は、足を負傷したそうだが家臣の手を借り、飯盛山城に

逃れたようだ。久秀は嫡男久通を失い、軍勢の半数を失っていた。

畠山勢が健在のため、居城である信貴山城に戻ることもできなかった。



***


俺は、順政叔父上と合流した。

筒井勢は防御戦に徹していたので、戦死者は少なかったが負傷者が多い。

他の大和国人衆はかなり損害が大きく、当主や跡取りが戦死し家を保つ

のが難しいように思われるところもあった。


「おおっ、藤勝殿戻られたか」


「はい、たった今、合流いたしました。遅くなりまして申し訳ございませぬ」


「なんの、そなたが挙げられた武功に比べたら、大したことはではない。

気になされるな」


「私は大したことは致しておりませぬ。島左近や松倉右近が猛戦し、

根来衆の支援を受けることができたからでございます」


「ふ、謙遜しおって。そなたがそういうのなら、そういうことにしておこう」


よく見ると、叔父上は傷を負っているようだ。陣羽織に血が滲んでいる。


「叔父上、その血は如何されました。まさか負傷されたのですか?」


「何、ああ、これか。かすり傷じゃ。大したことはない。唾を塗っとけば治る」


「傷を甘く見てはいけませぬ。叔父上は以前申し上げた凶夢のことをお忘れか。

大きいな戦とは今日の戦のこと。ほって置いたら化膿し破傷風になり申す」


「なんじゃ、破傷風とは」


「傷から雑菌が入ることによって起こる病気です。場合によっては死に至ること

もあるのですぞ。すぐに水で傷を洗い流し、清潔な布で覆ってくだされ」


「そのようなものがここにあるわけがあるまい」


「なければ、川の水を煮沸してでも結構でございます。一刻も早く」


この時代、負傷者が死に至ることが多かった。衛生の意識が低いため、

不潔な布を使い、手当も不十分であったからである。


「叔父上には、まだまだ生きて頂かなければなりませぬ。

何卒ご用心くださいませ」


史実通りにいけば、織田信長が上洛する1568年まであと6年。

それまでにいかに筒井家の力を高めることができるかが勝負になる。

順政叔父上が死ねば、筒井家は揺らぎになり俺は身動きできなくなる。

後少なくとも5年は生きてもらわないとな。




今回の戦で三好、松永久秀の力が史実より弱まるだろうが、油断は

できない。今できることは、手を打っておかなければ。


「叔父上、今一つ、やっておかなければならないことがございます」


「なんじゃ。申されよ。藤勝殿」


「信貴山城を奪うのです」


「なんじゃと。信貴山城は松永久秀が造りし堅城。そんな簡単に落ちるわけが

なかろう」


「いえ、今ならできます。ここから信貴山城は目と鼻の先。また松永が軍勢は

なかば壊滅状態であり、久秀自身も負傷して不在。城兵はおそらく五百に満たない

状況でございましょう。あのような大きな城は五百では守れませぬ」


「もし久秀が復活し信貴山城に戻れば、数万の兵でも落とすことがでなくなります。

攻めるとすれば、今しかございませぬ。何卒ご決断を」


「確かに、今なら可能かもしれぬ。信貴山城は河内にとっても脅威。援軍も

得ることもできるかもしれぬ。よし、やるか」


「好之。すぐに畠山殿に援軍要請の使者を送れ」


「皆の者。疲れておろうがもうひと踏ん張りじゃ、頼むぞ」


「ははっ」





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