教興寺の戦い -3
今回は少し長くなりました。
永禄5年(1562年)5月19日早朝
教興寺の戦いは畠山方の望まざる形で始まった。
雨のために雑賀、根来衆の鉄砲が使えないのだ。これは畠山方の攻撃力
が半減した等しい。
最もこの状況は、畠山高政自身が招いたといえる。
河内奪回に固執し飯盛山城攻めを強行し、無駄に時間を浪費し三好方
に回復の時間をあたえた。
援軍の到着に直前まで気づかず退却の時期を逸し、決戦を決断するも
先制攻撃を加えず待ち受けるのみ。
なぜこのような行動をとったのか甚だ疑問である。高屋城まで引いて
戦うというのもあったように思えるが。
守護大名の高政のには戦略、戦術を欠いていたらしい。
戦術に欠けていたが彼は猛将であった。三好等に負けないという自負
があり、失態を挽回するのに必死だったのである。
高政らの勢は安宅冬康ら四国勢と戦いながら、左翼の紀州国人衆に
三好随一の豪傑三好政康ら摂津勢が突進すると、すぐさま援軍を送り
戦線を維持し続けたのである。
日が高くなるにつれ、急速に天候が回復し始めた。
雨が小康状態になり、南の方に青空が見え始める。雨がやめば鉄砲が
使える。雑賀、根来衆の復活を恐れた三好義興は、それまで戦って
いなかった松永久秀と本軍を投入、一気に勝負に出た。
これまでなんとか戦線維持をしていた畠山は、幾度も押し返したが
衆寡適せず、遂に崩壊。徐々に後退を始める。既に陣形は保てず
乱戦状態に陥る。
これを好機と見た義興は総攻撃を指示。自らも乗馬し進撃を開始した。
一方、筒井藤勝はというと、
島左近や柳生から派遣されてきた松田三左衛門らと戦況を見つめていた。
彼らの前方には、紀州国人衆や大和国人衆が必死に戦っているのが見える。
このままでは彼らにかなりの損害がでるであろう。
順政叔父上からも救援の指示が来てたが、黙殺していた。戦況が厳しければ
退かれるよう伝えたが、伝わっているかどうか。
松倉右近の部隊も俺のところにとどまらせている。彼にも働いてもらわなければ。
俺は待っていた。
いろいろ考えたが、この戦をひっくり返すにはあれしかない。ぶっつけ本番で、
うまく行くかはわからないが。幸い雨は上がりつつある。天は俺に味方して
くれそうだ。しかも予想外の獲物が掛かりそうだ。
「右近、全ての弓隊を預けるゆえ、あのあたり茂みに二手に分かれて伏せよ」
「俺らを追ってきた敵兵へ一斉に放て」
「ははっ」
「左近、三左衛門殿」「「はっ」」
「義興、松永隊が紀州国人衆に当たったところに、弩を打ち込み側面から突っ込む。
遅れるなよ。しかる後、紀州隊を拾いここまで一気に引く。
「やっと戦える時が参りましたな。我ら精鋭の威力を特とお見せしましょうぞ」
「柳生の力、特とご覧あれ」
藤勝と島左近隊5百と松田三左衛門率いる柳生隊3百。合わせて僅か8百の
囮部隊である。
前方左に義興、松永隊が紀州国人衆に突っ込むのが見えた。今までなんとか
支えていた紀州国人衆も新手の攻撃を受け、一気に崩壊した。義興・松永隊が
勢い付き縦長になり、側面ががら空きになった。
奴らはまだ、俺らに気づいていない。
「今だ!放てーっ」
500本の鉄の矢が一斉に襲う。易々と鎧を突き抜け、隣の兵まで巻き込んだ。
血飛沫が吹き飛び、バタバタ数百人の兵士が倒れた。
「行くぞ、うおおおーーーーっ」
「かかれ、かかれ~っ」
「・・・」
俺と島左近を先頭に島隊が突っ込み、敵をなぎ倒し、後から柳生隊が斬り突進する。
嘘を衝かれた三好隊は被害が続出。動きが一瞬停止した。
「よし。このまま三好隊の前を突っ切るぞ!」
「ぬおーーーっ」
止まれば袋叩きにされる気がするので、必死に駆け抜ける。
やがて、紀州国人衆の隊に駆け込んで一息ついた。
そこには見覚えのある顔があった。根来衆の津田算正である。
「これは、筒井藤勝殿ではないか。あの突撃はお主であったか」
「津田殿、頼みがある。わしと一緒に退いてくれぬか?」
「は?」
「津田殿と根来衆のお力をお借りしたい」
「何をわけのわからぬことを!味方を置いて逃げるわけにはいかぬ」
「このまま、ここにいても崩壊するのは必定!この戦をひっくり返すには
根来衆の力が必要なのじゃ!それに今に雨が上がる!」
算正は、はっ、として空を見上げる。そして気づいた。
「わかり申した。お供いたしましょうぞ」
「申し訳ないが、一緒に駆けてもらいますぞ。三好を釣らねばならぬので」
再び、我等は一団になって駆け始める。根来衆5百などを加えて少し膨らみながら。
後ろを見ると、一時止まっていた三好義興、松永久秀の軍勢約三千が怒りに
かませて、追いかけてくる。かかった!
根来衆を獲得できて、面子はそろった。後は天に任せるのみ。
***
義興は猛烈に怒っていた。
この戦を終わらせるために、自ら突進してきたのに、突如現れた一団に襲われ、
蹂躙され、目の前を駆け抜けられたのだ。
「今の奴らは、どこのどいつだ!」
「梅の紋から察するに筒井の隊かと」
「筒井だと!?なんであのような弱小に襲われなければならん!」
「恐らくは、猛将と言われる島左近の隊が中心かと」
「おのれ!許さん!踏みつぶしてくれる!」
怒りに震える義興を先頭に、猛然と義興が一団を追いかけ始めた。
松永隊も若殿を一人で行かせるわけにもいかず、後を追い始める。
***
俺は悠然と少し速度を落としながら、駆けている。
既に算正殿に松倉右近の伏せている場所を伝え、先行させた。
弩も持たせた。松永久秀一人であれば見破れるかもしれんが、
若い義興が猛然と追いかけてきている。そう簡単には止まらんぞ。
後は、完成させるだけだ。「殺しの間」をな。
俺は右近、根来衆が伏せる場所を駆け抜け、反転。左近、柳生隊が
駆け抜けたのを見届け、力の限り叫んだ。
「放てーっ」
轟音と共に三方向から三好勢を銃弾が襲う。同時に弩から発射された
鉄の矢が飛び交い、矢が覆い被さる様に襲う。
あちこちから悲鳴が上がり、バタバタと兵士が倒れる。一挙に
千近い死者を出し、大混乱に陥った。
「突っ込めーっ」
「かかれーっ」
再び、島隊、柳生隊が突っ込む。
前方にあった義興隊はなすすべもなく崩壊、壊滅した。後方の
松永隊も多くのものが傷付き混乱、次々に討たれていく。
松永隊の崩壊も近いように思われた。
そう、松永久秀は気づいた。
いつの間にか雨は止み、大きく戦線から外れている。
「いかん。これは罠だ!若殿をお止めせねば!」
と、次の瞬間、焼けつくような痛み共に前方に吹き飛ばされた。
そこに轟音が襲う。周りでバタバタと人が倒れる。太ももに痛み
を感じ見ると、鉄製の矢が突き抜けていた。後ろを見ると乗馬が
無数の矢を受けて死んでいた。落馬したらしい。
「おのれ、伏兵からの一斉射撃とは味な真似を。わしとしたことが
してやられたわ。おい、手を貸せ。足をやられた」
久秀の嫡男、久通がやってくる。
「久通か。足と馬をやられた。代わりの馬を用意してくれ。
敵の追手がやってくる。すぐに退くぞ。」
さすがは久秀、義興が無事ではないことを察し、即撤退を
決断した。しかし、久通は聞かなかった。
「義興様が生死が分からぬのに見捨てることはできますまい。
これより救援に参りまする。父上は先にお引き下され」
「馬鹿者。戻れ。今更遅い!」
久通は前線に駆け、戻ることはなかった。
***
島隊、柳生隊の攻撃は、執拗を極めた。
島左近は松永久秀の嫡男久通を討ち取り、他にも多くの名のある武将の
首級を挙げた。その戦いぶりは鬼気迫るものがあった。
後に「鬼左近」と呼ばれ恐れられることとなる。
そして、松永隊は突如撤退を開始。味方のいる北方へと逃げさった。
俺のもとに左近が戻ってきた。返り血を浴びのか、彼の鎧は真っ赤に
染まっていた。
「殿、三好義興が隊は壊滅。松永隊も退き申した」
「うん、ご苦労であった。そなたの活躍、誠に見事であった」
「ははっ」
「激戦で疲れておろうが、もう一仕事を頼む。一千の兵を預けるゆえ、
先行して順政叔父上と合流し、三好義興を討ち取ったことを伝えてくれ」
三好義興は先の一斉射撃で全身に銃弾を浴びて討ち死にしていた。
三好長慶は、弟義賢に加え次期当主であった嫡男義興まで鉄砲で失ったのである。
「ははっ。して、殿は?」
「少々疲れたゆえな。右近や三左衛門殿、算正殿と共に後で合流する」
「承知いたした。しからばご免」
左近は素早く馬に乗り、叔父上ら大和国人衆のいる北方へと駆けて行った。
「終わりましたな、これほど上手く行くとは思いませなんだ」
「いや、上手く行ったのも算正殿根来衆のご支援があったからのこと、
感謝いたしております」
「いやいや。藤勝殿の見事な采配があったからこそよ。あの時藤勝殿に合流
していなければ、我らが壊滅していたかも知れぬ」
「まだお若いのに素晴らしいご活躍であった。一度根来にお招きしたい。
受けてくださるかの」
ふーむ。根来か。鉄砲はこれから必要不可欠なものになる。
絶好の機会だ。ここは受けて置けてべきだろう。
「少し先にやることがあり申す。それが終わった後でよろしければ」
「必ずですぞ。あなたのような覇気ある方を我が父にも会わせてやりたい」
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