教興寺の戦い -1
永禄5年(1562年)
前年11月に、紀伊に逃れていた畠山高政が根来衆の支援を受けて和泉岸和田に侵入、
同時に六角が山城に侵入した。六角勢は三好義興、松永久秀が撃退したものの、
和泉方面は永禄4年まで続き、次第に押されるようになる。
三好を壊滅に追い込む好機と見た近隣の国人衆が介入し、筒井家等大和国人衆も
参戦することになった。
興福寺宝蔵院
「胤英殿、短い間ではありましたが、お世話になり申した」
「うむ。先にお越しになられたときにより、遙かに良くなられましたぞ。よく精進なされた。
だが、まだ宝蔵院槍術を会得したとはいえぬ。日々の鍛錬を忘れるでないぞ」
「ありがとうございます。また折を見て修行に参るつもりでおりますゆえ」
「うむ。いつでもお越しなされよ」
実際、十文字槍を扱えるようになり、左近の突きもいくらか受け流すこともできるようになった。
(勝てないけどね)普通の武将には負けないくらいにはなったかな。
筒井城
「叔父上、この度の戦には私も参入いたしたく」
「藤勝殿はまだ12、まだ若い。早かろう」
「左様でございますぞ、若殿。もそっと自重なされよ」
この人は森好之という。「筒井三家老」の一人で父上(順和)の代から仕えている老臣で、
筆頭家老の地位にある。普段は叔父上を補佐している。内政向きの人なので、
もちろん領内の開発にも腕を振るってもらっているが。
反対はごもっともだが、ここは何としても参戦しなければいけない。
そのために、日々鍛えてきたのだ。
「約1年興福寺にて修行して参ったのは、この日のためでございます。
我が身を守ることはできます。筒井家当主として戦を経験をする好機なのです。」
「順政様、ご家老。わしからもお願い申す。何卒ご許可を頂きたく。
殿は、この左近が身を呈して守りまするゆえ」
左近のフォローで、何とか参戦の許可を得ることができた。後方で見学みたいなものだけど。
ここは、鬼左近に頑張ってもらいましょう。
興福寺宝蔵院の縁で懇意にしている柳生宗厳殿に使者を出し支援をお願いしたところ、
宗厳殿自身は難しかったが、柳生の剛の者を数百程借りることができた。
実際に戦ってもらうことはないと思いますがね。
***
筒井の軍勢に加え、途中で葦尾、十市、井戸ら国人諸将と合流。約5千の陣容で、
畠山殿の人に向う。大和国人衆は本来筒井家の配下なのだが、松永が侵攻してきて以来
どっちつかずの態度を取っている。いずれは懲らしめないかんな。
大和は興福寺が守護を務める国。国人も殆どが興福寺宗徒だ。難しいところだ。
「左近よ。そちには言っておく」
「ハッキリ言って、今回の戦は手伝い戦。筒井家が得るものは何もあるない。
極力、兵の消耗を避けよ。我等は傍観で良い。必要があれば、国人衆に戦わせよ。
ここで彼らの力を削ぐのも手よ」
「左様でございますな。得られるものはありますまい」
左近がニヤッと笑う。なかなか物わかりがよくなりましたね。
多聞院での修業の成果ですかな。
「わかり申した。各軍に申し伝えておきましょう」
「そうだな。叔父上や森にもそれとなく伝えておいてくれ」
俺は、史実でこの戦いが三好側の圧勝に終わることを知っている。
いくら介入しても、その事実が変わることはあるまい。いや変える必要がない。
できれば史実よりも三好勢のダメージが大きくなるようにしておくくらい良い。
近い将来、三好家は三好長慶の死によって自壊していくのである。
「ただし、松永久秀が軍勢が出てくれば、攻撃を仕掛けねばなるまい。執拗にな。
この機会にできる限り打撃を与えておきたい。さすればあとの戦いが楽になる」
「ふっ、矢の雨を食らわせてやりましょうかの」
秘かに作らせた弩を五百程持ってきている。実戦で訓練するつもりなんだ。
「うん。それに雑賀衆、根来衆が参戦している。後々のために彼らとつながりを持ちたい。
これからは、鉄砲が大量に必要になる。彼らの技術は貴重だ。場合によってはその為に
武勇を振るっても構わぬ」
「わかり申した」
畠山の陣に着く直前、3月5日に久米田の戦いにて高屋城主三好長慶の弟、義賢が戦死した
との連絡が入った。畠山勢はそのまま、長慶の居城飯盛山城の包囲に向かったらしい。
我らもそこに合流することになった。
***
3月9日に、畠山方の陣に着いたものの大きな動きがない。
畠山勢は飯盛山城を攻めあぐねているらしい。まあ、当然であるが。
山城に侵入した六角の対処に三好義興や松永久秀が向かっていて不在であるが、
仮にも三好家当主がいる本城、そう簡単に落ちるわけがない。
畠山高政殿は「三好などに負けるか」自信たっぷりであるが、彼の家臣も一枚岩でないようだ。
各国人衆も先の久米田の戦いで相応の損害を出していて、その傷が癒えていないので
士気が高くない。
あるのは小競り合いくらい。まあ、「良い実践訓練」になっているのだがね。
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