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挿話2 沼田祐光の帰還

永禄9年(1566年)12月


春に堺を出発した沼田祐光と九鬼嘉隆らの一行は、その年が暮れんとする師走になってようやく帰還した。

平戸で唐船ジャンクの中古を手に入れたのは良かったが、堺に帰る途中ので見つけた廃船を曳航してきたのが悪かった。

応急処置をしたものの常に傾いたままで水漏れも激しく何度もあきらめようとしたが、祐光が強硬に持って帰ると主張したため持ってきたのである。

今にも沈みそうで幽霊船のようにも見えるその廃船は、当然堺に入れるわけにはいかず、嘉隆の手下によって大湊へ回漕されていった。


***


納屋(今井宗久の店)


「しかし、どえらいものを持ってこられましたなあ。ちょっとした騒ぎになってましたよ」

今井宗久が、呆れたように言った。


「わはは。ちょっとではなかったたな。

 淡路の海賊に追いかけられそうになったし。わしは持って帰る気などなかっただが。祐光殿が「どうしても持って帰る」と聞かんでの。難儀したわ」

嘉隆は、祐光を見ながら笑っていた。


祐光は、ばつの悪そうな顔をしながらも、反論するようにつぶやく。

「あれは、まごうなき南蛮船。廃船といえど、あれほどの大きさの船はそうそうあるものではござるぬ。

 もし直すことができなくても、解体して研究すれば、遠洋渡航に必須の大型船を作るのに必要なものが手に入るはずなのです」



「確かに大きな船であるそうですね。5千石積みくらいはありそうですが...。あれは、さすがに...」


「だよな~。あんなものを持って帰ろうとするやつは、古今東西お前しかいねえよな」


曳航してきた廃船は、間違いなく南蛮のキャラック船であったが、当時畿内ではほとんど見たものはなく、ただの廃船にしか見えなかった。

そのためか、祐光は帰ってきて以来、すっかり変人扱いである。


「もういいです。不機嫌だ」

祐光は、顔を真っ赤にして拗ねてしまった。



「まあまあ。祐光様をいじめるのは、それくらいにして。

 此度の旅のお話を聞かせて頂けますでしょうか」


「そうだなあ。九州は平戸や博多はまだしも、日向や薩摩はたいしたものがないようだったな。

 それより、土佐の方がおもしろそうだった。なあ、祐光殿」


「...。」


嘉隆は祐光に話を向けるが、まだ拗ねているのか、黙ったままだ。


「おい、祐光」


「ああ。はいはい」

祐光は、しぶしぶ話し始めた。


「右馬允殿が申される通り、九州には、これと言ったものがございませぬ。あるとすれば、煙草と砂鉄くらいでしょうか。そのまま琉球に行った方がよいように思います。

途中の土佐が面白そうですね。鰹や鯨が揚がります」


「鯨は紀州でも揚がるが、味噌漬けというのは知らんかった。あれなら保存が効く」


「そうですね。うちの手代が持ち帰ったのを頂きましたが、珍味として人気が出そうですよ。鰹の荒節なるものもなかなかおいしいです。

筒井様や大名の方々にもご献上いたそうと思案しております。西国の商人にも売れるかもしれません。 

また、味噌漬けというのは、いろいろ応用が利きそうです。いろんな魚で試してみる価値はありそうですよ」


「なるほど。それは面白そうだな」


「藤勝様には、私がお届けいたしましょう。いろいろとご報告もございますし」


「わかった。わしは一足はやく師崎に帰っておこう。「例の船」の修理とかいろいろやることがあるしな。祐光殿は藤勝殿にお会いしてゆるりとお越しになるとよい」


また、船のことを持ち出されて、祐光はいやな顔をしたが、何も言わなかった。

その後も、いろいろ打ち合わせをして、自然と宴になり、夜は更けていった。



***


祐光は、藤勝を信貴山城に訪ね、諸々の報告をした後、師崎に帰った。

もちろん、祐光が献上した鯨の味噌漬けは、藤勝をはじめ多くの者に驚きをもって迎えられた。

祐光は大いに褒められ、溜飲を下げることになった。また、祐光を水軍に配した藤勝の目が確かであったことも、証明したことになる。



また、手入れしていた唐船の中古船は、年を明けて修理が終わり、大湊に発注した小型船とともに堺や紀州を行き来したりしたが、合間を見て廃船の研究をしていた。


結局、再利用には耐えず解体となったが、和船や唐船にはない竜骨などの構造がわかると、研究に没頭する。

祐光の研究は大きな成果を上げ、数年後大型船を建造するのに大いに役立つことになる。


かなり先の話になるが、建造した大型船によって、祐光達はルソンや泉州、マカオに向かうことになるのだ。


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